7月は中皮腫啓発月間ー患者・家族と医療者で協力した取り組み

2025年7月、中皮腫啓発月間が行われた。今年も中皮腫治療の最新情報についてのセミナーが開かれ、患者、家族の交流が行われた。中皮腫啓発月間は2021年から中皮腫サポートキャラバン隊、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が国立がん研究センター希少がんセンターの協力のもとはじめたもので毎年行われてきた。2017年7月、イギリスのアクション・メソゼリオーマ・デイ(毎年7月第一金曜日)を中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が訪問したことも契機となっている(本誌2017年8月号)。

故右田孝雄(胸膜中皮腫患者、NPO法人中皮腫サポートキャラバン隊前理事長)ははじめたいきさつを次のように記している。
「さて、7月はどのような月か分かりますか?
毎年7月を中皮腫啓発月間と設定し、世間の色んな方々に中皮腫という病気、アスベストは恐ろしいものだということを、特に啓発していこうという取り組みを行います。
この取組は、元々イギリスで毎年第1金曜日にアクション・メソゼリオーマ・デーという形でイギリスの主要都市で講堂や教会、公園などに市民が集まり、中皮腫・アスベスト被害の啓発活動をされていたものです。4年前に、日本から活動家やご遺族がこれに参加して刺激を受けたのですが、当時はこれを日本でも企画しようとする方もいませんでした。国立がん研究センター希少がんセンターの加藤陽子さんも数年前にイギリスに行ってこの行動を見て感銘を受けられたそうです。そして昨年、私たちが日本でもこういう企画をしたいと思っていた矢先に、加藤さんからお声が掛かり、この中皮腫啓発月間を一緒に企画した次第です。」(死ぬまで元気です/38 本誌2021年7月号

アスベスト(石綿)は発がん性が明確で肺がんの原因であるばかりか、極めて難治性のがん「中皮腫」を発症させる。予後は極めて不良、治療奏功の可能性は極めて低い。
ひじょうに稀ながん=「希少がん」であるため薬剤開発が薬品企業にとってうま味が小さいことから、新薬開発が遅れ、近年治療方法の進展めざましい肺がんに比べて20年の遅れともいわれる。
史上最大の労働災害、公害をもたらしたアスベスト。被害者の尊厳を守り正当な補償と十分な救済を求める闘いとともに、致命的アスベストがん「中皮腫」に打ち勝つ闘いは「いのちの救済」を実現するための重要課題だ。
中皮腫とはなにか、中皮腫の治療開発推進の必要性を広くアピールし、患者、家族に最新情報をとどけ相互交流を図るのが中皮腫啓発月間の目的である。
2025年は次のような取り組みが行われ、当センターは今年も企画から協力した。(以下、敬称略)

◆7月4日(金)

第59回希少がん Meet the Expert「胸膜中皮腫と向き合うために-治療の今と、これから-」講演とパネルディスカッション
講師:後藤悌(国立がん研究センター中央病院呼吸器内科医長)/平田勝久(NPO法人中皮腫サポートキャラバン隊理事長)
パネラー:講師2名/栗林康造(兵庫医科大学呼吸器内科教授)/藤本伸一(岡山労災病院呼吸器、腫瘍内科部長)

◆7月5日(土)

兵庫医科大学市民公開講座「慢性炎症性疾患としての中皮腫・アスベスト疾患の病態と最新の治療トピックス」講演と患者・家族交流会
講師:南俊行(兵庫医科大呼吸器内科准教授)
【前編】

【後編】

◆7月12日(土)

中皮腫ZOOMサロンスペシャルバージョン
毎週水曜日午後におこなっているオンラインでの患者・家族サロンに、「胸膜中皮腫患者」「腹膜中皮腫患者」「患者と遺族」の3つのブレイクアウトルームを設け交流した。

Zoomサロン風景

◆7月13日(日)中皮腫とともに生きる福岡集会/19日(土)アスベスト疾患 患者と家族の声をつなぐ名古屋集会

患者、家族の経験をきく講演のあと、リアルに患者・家族交流を行い新しい方々との出会いもありよい時間を共有できた。

◆7月26日(土)

築地セミナー@国立がん研究センター
講演:「中皮腫治療の”次”を一緒に考える:標準治療のあとにできること、これからの可能性」吉田達哉医師(国立がん研究センター中央病院呼吸器内科・先端医療科)
講演ののち吉田医師に小島勇貴医師(同腫瘍内科)を加えて、参加者からの質問に答えるかたちでディスカッションを行った。2部では患者と家族にわかれて交流の時間をもった。
大阪から参加された松浦成昭大阪国際がんセンター総長からの挨拶もあった。

左から吉田達哉医師、小島勇貴医師@築地セミナー

関西労災職業病2025年8月568号