行政は積極的に改善していく姿勢を持てー中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 省庁交渉

2025年6月27日、衆議院第一議員会館の大会議室にて、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会と厚労省、環境省等との省庁交渉が開催され、私も患者と家族の会側の人間として参加した。タイトルは「響け! 患者と家族の声 中皮腫を治せる病気に! アスベスト健康被害の格差とすき間のない補償を!」で、内容はその通り、主に国の中皮腫治療の研究に関する要求と、アスベスト健康被害の補償に関する問題についての交渉であった。
患者と家族の会の要望書と、省庁交渉全編の動画はインターネットで見られるので、詳しく知りたい方は下記のアドレスを参照していただきたい。以下の文章では、交渉について、私が気になった部分を2点ほど書いていきたいと思う。

●要望書
https://www.chuuhishu-family.net/3775/
●省庁交渉の動画
https://www.youtube.com/watch?v=Czewszqowi8

1.利益相反する委員を容認する姿勢

要望書の1.の③で、石綿健康被害を受けた被災者への各種制度に係る各委員会や検討会に、アスベスト被害者が損害賠償請求を行った被告企業の証人や、その被告の意見書作成に協力した研究者が参加しているので、利益相反の観点から、該当する委員の不参加を徹底することを要望した。
それに対して、各委員会を担当する部署からそれぞれ返答があったのだが、どれも、該当する委員を不参加にはしないというものだった。
少し具体的に書くと、まず環境省からは、「石綿健康被害判定小委員会」について話があった。そこでは、判定する患者を匿名にして、かつ複数名の委員が判定しているから大丈夫という意見だった。当然、そんなわけはない。委員の中のある医師が、アスベスト被害裁判に、被告企業側で参加したということは、原告側の医師がアスベスト関連疾患だと診断した病気について、そうではないと診断しているということである。本当にそう考えて意見を書いたなら仕方がないが、裁判で証言している以上、被告側に有利な診断をしている可能性はぬぐえない。そういう診断を一回した人間が、他の匿名患者の診断を、フラットな思考で行えるだろうか。そういった状態の人を、判定する人にするべきではないし、もしするなら、誰もが納得する基準、ルールを作って、それをクリアした人だけ参加させるべきだろう。
厚労省からは2件あり、1件目は「石綿確定診断委員会」についてである。意見は、この委員会は、令和2年4月1日から、独立行政法人「労働者健康安全機構」が管轄しており、石綿関連疾患の診断、治療、労災上の取り扱いについて専門的知見を要する臨床、病理、疫学等の各種専門家により構成するとされており、委員は法人の理事長が委嘱している。なので、厚生労働省はその事業運営や委員の選定において主体的役割を担っていないが、こういう意見があることをそこに共有しておくというものだった。しかし、一旦別の法人に任せたからと言って、後はほったらかし、ということでいいのだろうか。また、要望書には、具体的な人名は書いていなかったにも関わらず、返答した職員からそれを聞かれることはなかった。なんの情報を「共有しておく」つもりなのだろうか。なんにせよ、主体性のない、おざなりな返事だ。
2件目は「特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会」についてで、これは、審査会令に基づいて、医療法律等に優れた識見をもった人を、厚生労働大臣が任命しているので、この委員会の目的である「給付金を受ける権利の適切な認定」に合うようになっているはずだということである。こちらは、その医療に優れた識見をもった人が、不公正な認定をする疑いがあるから、要望しているのである。だがそれについて納得のいく説明はなかった。
また、その他、4つの団体の名前を要望書で上げていたのだが、それらからはなんの返答もなかった。
各種制度の判定において、もちろん、石綿関連疾患だと認定されるのが一番なのだが、不認定になる場合でも、納得のいく判定がほしいのである。その時に、利益相反にひっかかる人物が判定委員の中にいると、たとえそれが正当な判断だとしても、実は不公正な診断だったんじゃないかと、いつまでも不満が残る。被告からお金をもらっていることだろうし、喫緊の生活に困っているわけでもないだろうから、そんな人は、一旦ルールができるまででも休んでもらうわけにはいかないだろうか。

2.良い治療研究が降ってくるのをただ待つ姿勢

厚労省が行っている労災疾病臨床研究事業費補助金の中に、平成26年度から、石綿関連疾患の治療研究に関する研究への予算が設定されている。また、令和6年度の予算は、与党建設アスベスト対策プロジェクトチームの要請もあり、従来の3000万円から約1億円に増額されたとのことである。
しかし、令和6年度に公募された研究の中で、臨床研究課題と非臨床研究課題について、複数応募があった中、採択された案件はそれぞれ1件のみであり、予算がついた研究費は合計で1.2億円程度。そして、その2つの内、臨床研究課題の方は諸事情により継続不可となってしまった。
そこで、要望書の3.の③にて、上記のような継続不可という事態になった時、また最初からにならないよう、公募されてきた中で条件を満たすものが複数あるなら、その全ての採択を要求した。この要求への返答は、6月27日現在、令和7年度分の研究課題を公募中であり、その経過を見守るというものだった。その後、それで治療の研究は進むのか、今回と同じようなことになったらどうするのかと言った質問にも、公募の経過を見守るの一点張りだった。
そして、その結果はどうなったか。厚労省から発表された、令和7年度に新規採択された課題の中で、石綿関連疾患の治療に関する課題は、堂々の0件である。
結果としてはあまりにあまりなものだが、これによって、逆に、令和6年度の採択研究課題が臨床非臨床それぞれ1つずつだったのは、わざわざ1つに絞ったのではなく、1つしか研究費を出すに値する課題がないと判断されたためということがわかった。なので、こちらの要求は、条件を満たすものすべての採択ではなく、条件を緩めて、もっと幅広く研究が行えるようにしてくれというべきだったのかもしれない。
それにしても、0件はどうなのか。応募された課題がどんなものだったのか、どんな基準で採択されたか等を私は把握していないので、あまり大きなことは言えないが、そんなにしょうもない課題ばっかりだったのだろうか。
もしそのような課題ばかりだったのなら、しょうもある良い研究課題をただ待つのではなく、積極的に探しに行くようにできないものだろうか。実際、この省庁交渉でも、この要求に返答した厚労省安全衛生部計画課の人に、肺がん学会や中皮腫学会に一回参加してみて、最先端の研究者とのふれあいの機会を持つように要求したが、返事は曖昧で、特になにも決まるようなものではなかった。ふがいない結果である。今後は、自分で探しに行く姿勢を強く要求していかないといけない。

今回の交渉では、正直、あまり何かが進んだという感じではなかった。ただ、厚労省や環境省の意見、言い分が色々聞けたので、それを生かして、今後の活動を進めていく。(事務局:種盛真也)

関西労災職業病2025年8月568号