労災保険のなかに、通勤災害保護制度が創設されたのは1973年9月で同年12月1日から施行された。これ以降、いわゆる業務災害と同様に通勤災害が労災保険法で保護されることになった。
いまでは、当たり前のように通勤災害、通災と言いっているが、当時の労働組合運動の力によるところが大きかった。労災保険法は労働基準法と同時に1947年に創設されているので、通勤災害保護制度までにはなお26年を要したことになる。
労働基準法第八章災害補償には、使用者の災害補償責任が定めれ、労災保険法はこれを担保するために創設された。その後現在まで、様々な改正が行われた中でも、大きな改正の一つがこの通勤災害保護制度だった。
まず認識しておかなければならない点として、業務災害(労働災害)と通勤災害の法律上の大きな違いである。
前者は労災補償、つまり「補償」の対象であるが、後者はあくまで「保護」の対象であることだ。たとえば、労災保険法では、業務災害に対しては休業補償給付、通勤災害に対しては休業給付という用語があてられ、「補償」は使わない。また、労働災害であれば、療養のための休業中とその後の30日間の解雇は禁止される労働基準法19条が適用されるが、通勤災害の場合はこの規定は適用されない。
こうした基本的な相違はあるが、給付内容は同じだ。また通勤災害は日常的に発生するものなので、制度と運用についての知識は大切だ。当サイトでは通勤災害ついて実用面からの情報を「通勤災害認定マニュアル」を中心に以下に提供しているので活用していただければありがたい。
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[toc] 「歩きスマホは危険です」というポスター を鉄道駅構内でよく見かけるようになり、 駅アナウンスでも携帯端末のゲーム機能に夢中になるな、との啓発放送を繰り返して いる。 前をよく見ずに移動することで転倒や他の乗客 […]
通勤災害の認定について(14)通勤途中の意識消失:原因は持病か「満員電車」か
通勤に起因することの明らかな疾病 閉所恐怖症のため、満員電車で発作が起こる心配を抱えた人の話を聞いたことがある。また、心臓にペースメーカーや細動除去装置を導入している方をはじめ、基礎疾患を抱えながら仕事に就かれる方は少な […]
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日常生活上必要な行為 通勤の途中において、労働者が通勤から逸脱、中断をする場合には、その後は就業に関して行う行為というよりも、 もともとの目的が逸脱・中断の元となった行為のためであるから、もはや通勤ではない、という原則が […]
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(再)審査請求事案から 前回まで一通り、テキスト通りの議論を行ってきた。取り上げてきた事例もリーディングケースとして数十年にわたって参照され続けているものばかりである。しかし、事件というものは 1 件 1 件すべて異なる […]
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通勤災害の認定について(10)自宅の範囲
自宅敷地の内と外 今回は自宅の範囲について学習する。解説書などで紹介されているケースは、「マイカー通勤をしている被災労働者は、当日出勤のため、 自宅敷地内にある車庫から車を車庫外に出そう と操作したが、 車庫内の地盤が凍 […]
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長女宅や病院からの通勤 ここ2回ほど住居について学習をしてきたが、住居とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、労働者本人の就業のための拠点となっているところをいう。 今回は、 日常生活の用に供してい […]
通勤災害の認定について(8)友達や恋人宅への 「帰宅」
就業のための拠点 前回は単身赴任者の住居について学習した。家族の住む家と、 赴任先の家の2つの住居を持つ単身赴任者がいずれの家から勤務先に向かっても通勤として認められることはもとより、 2つの住居間の移動も通勤となる。ま […]
通勤災害の認定について(7)単身赴任者住居と自宅の移動
単身赴任はつらいよ 毎年3月の中旬になると「転勤の内示を受けたのだが、なんとか回避できないか」という相談が入る。彼らの背景事情を聞いてみると、子供が生まれてママ友ができた妻が転勤先に同行したくない、子供が学齢期であって転 […]
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「支給制限あり得る」扱い 飲酒運転の厳罰化により、酒を飲みながら車を運転する人は見かけなくなったし、自家用車で行かなければならないような場所にある田舎の飲み屋が商売あがったりだという話も聞くようになった。夜の繁華街を歩い […]
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