特集1/外国人労働者の労災-重大災害も多い外国人労働者の労災:最近の相談事例から

[toc]

最近の外国人労災相談について、協力関係にある外国人支援団体RINK(すべての外国人労働者とその家族の権利ネットワーク関西)に寄せられた相談事例などから、傾向など考えてみたい。まずは事例をいくつか紹介する。

1.労災隠し

労災隠しは外国人労働者に限らず常態的に発生しており、建設業ではとりわけ顕著である。外国人労働者は建設業の多重下請構造の中でも最下位の下請企業に雇われて作業員として働いており、現場で業務災害が発生しても元請事業所の意向を受けて労災請求を行わない。日本人作業員であれば自社の労災保険を使って処理するなどの方法で被災労働者に金銭的な負担をさせないということもするが、制度に疎い外国人労働者には事故の事実すら認めない。

労災隠し被害に遭いやすい外国人労働者に、不法在留者が多いのは、在留資格がないことを表沙汰にするわけにはいかないという被災者自らの事情のためであるとも考えられる。さらにそこに付け込まれて事業主からも労災請求の協力を得られないということもあるだろう。また、昨今は作業現場においても在留資格のチェックが厳しく、外国人労働者が就労する場合に元請に当該外国人労働者の在留カードを提示している。これに伴い偽造在留カードはますます精巧になり、一見しただけでは本物と見分けがつかなくなっているうえ、購入費用も2万円~5万円と安価である。労災請求に伴い、このような偽造カードを元請に提示していたことが明るみになれば、立場の弱い下請は当然その元請の現場には出入り禁止になる。このように何重にも請求を拒む壁があることから、被災者本人もよほどの重傷でない限り労災請求を行わない。なお、この下請構造においては、外国人労働者に対する賃金の不払いについて相談を受けることも多く、場合によっては直接の雇用主ですら請負料金を受け取っていないということもある。

意外にも、外国人技能実習生についても労災隠しが行われ、しかも重症度の高い事案が続いている。静岡県の食品製造工場で働くベトナム人技能実習生は、機械に手を挟まれて指を四本欠損する災害に罹災したが、健康保険で治療中であるという。入院をすることもなく、事故の翌日から出勤を強いられており、今後どのように補償などしていくつもりなのか事業所の意図が全く不明である。「1手の母指を含み3の手指または母指以外の4の手指を失ったもの」となれば障害等級は7級が認められ、年金が支給されるうえ、障害厚生年金も併給できる。利き腕の手指が4指ないことはこの上なく不便であるが、技能実習を修了して帰国した後も、生涯にわたって年金が支給されるほどの障害である。外国人技能実習生を使用する事業所には、監理団体と呼ばれる上部機関が法令順守など指導する立場にあるが、この監理団体も事業所の労災隠しに目をつぶっていると思われる。

業務上災害に対する療養に健康保険を使うほど悪質ではないが、四国では労災請求を行なわず事業所が任意で加入する傷害保険を用いて医療費を支払っている事件が続いた。従業員数が100名を超える規模の事業所もあれば、数名しかいない事業所もあり、労災保険を利用しないことによるメリット制の適用がこの背景にあるとは言いきれない。ただし、ある事件については、労災隠しによりこれまでメリット収支率を140%~200%であったところを74%にまで激減させ、メリット料率が9.5%から6.68%にまで引き下げることに成功している。これらの事件では、「健康保険を使って療養しているわけではないので違反ではない」とか、「在留管理庁にはケガの報告をしている」などの弁明がされることもあるが、いずれも死傷病報告を適切な時期に提出していないという問題があり、問題であることには違いない。

2.重傷事案の増加

重症度の高いものは、1で報告した手指欠損以外にも、膝関節以上からの欠損、ひじ関節以上からの欠損、また上肢の用廃などの相談が入っている。いずれも事業場の安全配慮義務違反が原因であり、作業中、他に従業員が周辺におらず、ひとりで作業をしていたなど外国人技能実習生として就労するうえで必要な措置が十分に取られていないことも背景にある。本来であれば、実習指導員という法律で配置が求められている常勤職員が事故の発生を防ぐべく配置されていなければならないが、一人で危険な作業をしていたというのであれば、これを怠ったことになる。また、製造工で重症度の高い事件は、すべて機械への巻き込まれであり、安全装置が設置されていなかった、あるいは作動していなかった、安全な作業方法が書かれた作業手順書がなかったなどが原因であった。

大阪の重大事故発生事業所から提供された災害発生報告書を見ると、配属2か月後に機械のローラー部分に付着した製品カスを取り除く作業中にローラーに巻き込まれている。被災者は、現場のアルバイト職員から機械を止めずに作業をする旨伝えられ、その指示通り作業して被災したのである。背景を見てみると、作業手順書は作成されており、その中には「清掃時設備停止」と記載されていたものの、管理は現場任せになっていたことが分かっている。ローラーに付着した製品カスをヘラでそぎ落とすという作業であれば、確かに回転しているローラーにヘラを固定しておけば清掃しやすいし、効率も良いだろう。しかし、プラスチック製のヘラも劣化すれば製品カスも取りにくくなり、作業に慣れない被災者はヘラを無理に押さえつけているうちにローラーの回転に合せて腕ごと巻き込まれていったのである。このとき、作業を監督するものもおらず、現場で一人であったことも確認されているし、巻き込まれ防止の安全カバーもローラー付近にカバーがしてあるだけで、作業員が傍から手を差し込んで作動中のローラーにヘラを当てるくらいのことは、造作もないことであった。

別の大阪の事件では、アルミニウムを破砕する機械に片腕を巻き込まれている。あまりのショックに本人はその日のことを何も思い出せずにいるし、他の従業員も誰も目撃していないことからなぜそのような事故が発生したのか不明のままである。しかし、機械に手を入れた背景が不明であっても、作動中に手を入れられる構造であり、さらに手を入れても機械が停止しない状態であったこと、技能実習生が一人で作業をしていたこと、という問題があったのは間違いない。事故発生後、現場には技能実習生の母国語でも安全標識が貼られるようになり、掲示板にも「重点厳守厳禁事項」が掲げられ、第一条に「動いているものには乗らない 回転物には手を出さない」と大きく書かれているが、安全対策がそもそも十分でないことと、技能実習生に対する指導体制の不備は指摘できる。

母国語も安全標識に記載して注意喚起

本年4月号で報告した造船所での資材倒壊事故でも状況は同じで、作業時はひとりで作業をしていた。実習指導員が見守っていたり、指導をしたり、少なくとも一緒に作業をしていれば避けられた事故であった。

いずれの事故でも安全衛生体制の不備と技能実習生指導に問題があり、このような事業所に対する技能実習生の受入停止などの処分が下されるべきである。

3.同一事業場多発事案

労災事故が多発する現場に外国人労働者が集まるのではなく、労災が多発するために労働者が集まらず、外国人労働者を派遣で入れている職場がある。昨年6月号7月号で報告したカリギスさんが被災した三重県の中子製造工場は、津労働基準監督署が安衛法20条(事業者の講ずべき措置等・危険の防止)、同規則107条(掃除等の場合の停止等)、労働者派遣法45条(安全衛生法の適用に関する特例等)違反で送検している。過去にも1度死亡災害を発生させて送検されていて、これで2度目であった。これを受けて、本年5月、法務省および厚生労働省が技能実習計画の取り消し、つまり技能実習生の受入停止の処分を下した。難民申請者や定住者ばかりでなく、技能実習生まで使用していたのであるが、受入停止を受けてこの事業所は人手をふたたび外国人に求めた。

そして今年9月に外国人労働者から作業中に指を飛ばした、という相談を受け、話を聞いているうちに同じ事業所であることが判明した。死亡→上肢欠損→指欠損と被害は軽くなっているが、その分緊張感が欠落していく事業所は、「仕事中にケガをしたとは絶対に言うな」と被災者に言い含めて病院に連れて行った。車のドアで挟んだことにされたというので、すぐに被災者を雇用する派遣会社に連絡し、業務災害による負傷であることを伝えて労災保険で処理してもらった。それでも災害発生状況報告欄に「安全教育にて周知させていた『動作確認は機械を停止させる』という工程を怠って材料投入口の駆動用ベルトに触れてしまい右手人差し指をベルトとプーリーに挟まれて被災した」と事実と異なることが書かれているので、本人に指示して削除させたところである。非常に無責任な事業所であるため、外国人労働者が就労するにはまったくふさわしくないことは明らかであるが、このような事業所に外国人労働者が派遣される傾向があるのではないだろうか。

北スラウェシに戻り片腕で農作業をするカリギスさん
カリギスさんとご家族

4.現場探し、2度の労災審査請求など

解体作業で腕をケガ~Aさん:雇用主に問題

ペルー人労働者Aさん、解体作業中に廃材で腕を切るケガをして仕事を休まなければならなくなり、労災保険が使えないか、と当センターに相談に来た。

雇用主らしい親方には何もしてもらえていない。

解体した廃材の受け渡しをしていたときに、うっかり窓枠に残っていたガラス片に右腕を当ててしまい、腱を切ってしまった。上司が病院へ連れて行ってくれそのまま手術を受けた。

しかし、労災保険の手続きもせず、本人が費用を請求され困っていた。

この仕事は知り合いのペルー人を通して得たもので、解体現場で働いた7、8人の労働者のうち、外国人はその知り合いとAさんの2人で、しかもAさんの給与は日払いで、その知り合いが親方から受け取り、2000円を引いてからAさんに渡されているという。

親方の協力がないのであれば、元請を特定しようと、現場について尋ねるが、どうもはっきりしない。駅前の「宝くじ売り場」のような小屋の解体だという。駅周辺の商業施設に所属する物であったのかと考え、考えられる会社に電話で連絡をして解体作業があったか確認するが、該当するような解体工事が見つからなかった。

そこでAさんと現場へ行ってみた。

Aさんが案内したのは駅から道を挟んだあるビルの前、確かに何かあった後の地面をコンクリートで整えて、三角コーンで囲ってある。GOOGLEのストリートビューにも以前あったらしい小さな建物が写っている。ビルの1Fに入っている不動産会社の物件情報が貼ってあるように見えたので、不動産会社に入って尋ねてみた。

確かに解体はあったのは知っているが、その会社の建物ではないという返答だった。一緒ににいたAさんが右腕を三角巾で吊っているので、同情しているようではあるが、関わりたくないふうで、ビルの管理人に尋ねるよう勧められた。その足でビルの管理人室に行って、同じ質問をした。そこでもそのビルとは関係ないとの回答しか得られなかった。

ともかく、現場だけは特定できたので、労働基準監督署から事業主を指導してもらうことにした。

尼崎労働基準監督署で事情を話し、親方に労災手続きをするように指導をお願いした。こちらでわかっているのは、現場と親方の名前と携帯電話番号だけである。

監督署が親方に電話してわかったことは、まず親方の名前から似ているが間違っていたこと。当該解体工事は、その親方の会社で受けたもので、別に元請はない、労災保険は未加入であるということ。監督署の指導を受けて、労災保険に加入し、労災手続きをすることになった。

結局、解体工事の注文主は不明なままだったが、とりあえず、Aさんは労災適用されることになった。

つくづく外国人労働者はきちんとした情報にアクセスしづらく、行政手続きをとるのは難しいと実感した。そしれにしても、はっきり現場でケガをしたことが分かっているのに、治療費さえ払わず、ほったらかしとは悪質な事業主だった。

メッキ工場で大ヤケド~Bさん:労基署・労災医員に問題

ペルー人労働者Bさんは、派遣された大阪南部のメッキ工場で働いていた。

長い柄の先がカゴになったジグに金属部品を入れて、亜鉛の入ったプールへ浸ける作業の時に、プールからこぼれた高温の亜鉛が右足の靴の中に入って、足指や甲に重度の火傷を負った。労災保険の適用を受けて治療し、約10か月後に症状固定となった。障害等級は14級の4、「下肢の露出面に手のひら大の醜いあとを残すもの」と判断された。

Bさんは同じ派遣先工場の職場に復職したが、金属部品を常に持ち運ぶ重労働ではケガをした右足の痛みが続き、しっかり踏ん張ることもできず苦心していた。そのため、障害等級が火傷あとのみを認めた14級というのは、軽すぎると考えるようになり、安全センターに相談した。

Bさんの主な訴えは、足の疼痛で常に薬を必要としていた。火傷はⅢ度の重傷であったが、Bさんが手術を希望しなかったので植皮は行わず、広い範囲にひどいあとが残り、疼痛の他に皮膚の感覚障害、ひきつりなどがあった。皮膚がこれほどダメージを受けたのだから、Bさんの訴えは納得のいくものであったが、神経症状でも14級と判断されていたようで、14級は2つあっても14級となる。審査請求し、強い疼痛と就労制限を訴えた。

幸い審査官の対応は好意的で、足首の関節にも運動制限があるのではないかと医師に計測を依頼した。結果、右足関節の可動域が4分の3以下に制限されているということで、12級の7「関節の機能に障害を残すもの」に該当すると判断された。神経症状は重く見てもらえなかったが、審査官は支給決定の取消処分を行い、改めて12級として障害補償一時金が追給された。
それで障害が治るわけではないが、ひどいケガをしたのに軽く考えられたと感じていたBさんも納得した。

それから2年近くが経ち、再度Bさんから相談があった。

鼠径ヘルニアで手術をするのだが、労災になるだろうか、というものだった。

亜鉛のプールに部品を浸ける作業で、持ち運びするジグは、長い棒の先にカゴが付いた構造で、そこに20~30kgの部品を入れて、持ち運び、プールへ上げ下げする。作業の途中で下腹に違和感を感じ始め、次第に痛みが出てきたという。

派遣会社は労災請求をすでに行っていた。重労働でもあり、会社の協力があれば、認定されるのではないかと考えていたところ、堺労働基準監督署は不支給決定を行った。

Bさんから不支給になったとの連絡を受けてすぐ、開示請求で復命書を手に入れてもらった。資料を見ると、主治医は意見書の中で、業務が原因と認められるとし、理由として、労働によって過度な腹圧が生じることは推定できる、ヘルニアの成因となることも十分考え得る、と明確に回答していた。さらに「既往症が原因ではないか」、との質問に対して、「既往症が原因ではなく、繰り返しかかる腹圧によって生じたものと考えられる」と答えていた。にもかかわらず、不支給となったのは地方労災医員の意見が原因だった。

労災医員は、通常の作業であり、他の腹部への外力がなかったのなら、2015年にもヘルニアを発症しているので、筋肉の脆弱性等の基礎疾患、加齢や生活習慣によるものだと意見した。それをうけて、堺労働基準監督署は、鼠径部に過度の負担がかかる業務とは認められず、業務と傷病との因果関係は認められないと論づけた。

主治医が業務に起因すると言っているのを、なぜわざわざ本人の脆弱性のためとしたのか、労災医員の意見は理解しがたい。Bさんの働く工場はやはり安全な環境とは言い難く、最初の労災のような火傷の危険性も常にあるし、工場内は雑然と部品などが積まれて狭い通路をフォークリフトが走行し、業務は頻繁に重量物を取り扱う(7ページ写真)。Bさんは鼠径ヘルニアになったが、腰痛もあり、他の労働者もいつ腰痛がひどくなったり、事故にあう可能性がある。

職場の実態を理解しようとしない労災医員の意見をひっくり返さなければならない。これから審査請求を進めていく。

外国人労働者からの相談ではいまだに重大災害や労災隠しのケースもあるが、一方で、過重な負荷による腰痛、上肢障害などの相談も増えている。また、いじめ・パワハラによる精神疾患もある。

何をするにも、まず言葉の問題で躓く彼ら彼女らの安全の問題は、まだまだ保障されていない。

関西労災職業病2021年11・12月527号