特集2/厚労省検討会が新たな化学物質管理のあり方をまとめる:基本とする自律的な管理とは?

検討のきっかけ

厚生労働省の専門検討会は、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書(以下、「報告書」)(厚生労働省ホームページ)を2021年7月19日にとりまとめた。この検討会は、2019年9月2日より開始され、2021年7月14日まで15回開催された。

検討会の開催要綱のはじめには、法令の対象となっていない化学物質による労働災害が頻発していること、一方で、国際的に「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」によりすべての危険・有害な化学物質について、ラベル表示や安全データシート(SDS)交付を行うことが国際ルールとなり、欧州のREACHという仕組みでは、一定量以上の化学物質の輸入・製造について、すべての化学物質を届け出対象とし、製造量、用途、有害性などのリスクに基づく管理が行われていることから、化学物質による労働災害を防ぐため、検討会で職場における化学物質の管理のあり方について検討すると記載されている。

当センターが取り組んだ校正印刷業務において胆管がんが多発した事案や、その後に明らかになったオルト-トルイジンによる膀胱がん、MOCAによる膀胱がんなど労働者自身や労働組合によって事件が明らかになった事案が続いたことも、検討を開始する大きなきっかけとなったようだ。

また、厚労省の、2018年度から2022年度までの5か年についての「第13次労働災害防止計画」においても、労働災害防止対策に化学物質による健康障害防止対策をあげていた。

2018年9月の全国労働安全衛生センター連絡会議と厚労省との懇談(関西労災職業病2018年10月号)の際に、「第13次労働災害防止計画」での取り組みについて訊ねたが、当時はまだ具体的な計画はできていないという話だったが、1年後に検討会が開始されたということだった。

リスクアセスメントを主とする自律的管理

今回の検討会報告書には「化学物質への理解を高め 自律的な管理を基本とする仕組みへ」という副題がついている。つまりこれまでの化学物質規制の根幹であった「特定化学物質障害予防規則」「有機溶剤中毒予防規則」「防じん障害防止規則」等での対策から、事業者が自律的管理を行う仕組みへと対策を大きく変更するという、報告書での方針を端的に言い表している。

これまでの特定化学物質障害予防規則等での対策は、無数にある化学物質をすべて対象とするにはまだまだ追いつかず、未対象の物質による労働災害が続いて起こっていた。今回の報告書では対象物質を増加させ、リスクアセスメントを義務化する。これが上手く働けば、化学物質管理は前進すると思われる。

報告書には以下の7つの章立てがある。

  1. 化学物質規制体系の見直し
    (自律的な管理を基軸とする規制への移行)
  2. 化学物質の自律的な管理のための実施体制の確立
  3. 化学物質の危険性・有害性に関する情報の伝達の強化
  4. 中小企業に対する支援の強化
  5. 特化則に基づく措置の柔軟化
  6. がん等の遅発性疾病の把握とデータの長期保存のあり方
  7. 事業者及び国が行う有害性調査(試験)

最初の1.化学物質規制体系の見直し (自律的な管理を基軸とする規制への移行)で、副題にもある「自律的な管理」について、報告書は、「国はばく露濃度等の管理基準を定め、危険性・有害性に関する情報の伝達の仕組みを整備・拡充し、事業者はその情報に基づいてリスクアセスメントを行い、ばく露防止のために講ずべき措置を自ら選択して実行することを原則とする仕組みに見直すことが適当である」とする。

具体的には、国は、GHS分類及びモデルラベル・SDSの作成公表を進め、それに基づいてGHS分類済みの危険有害物質に対する情報伝達及びリスクアセスメントを事業主に義務づける。また、有害物質の濃度を(ばく露限界値以下に)管理すること、直接接触の防止、労災多発の場合等の製造・使用制限も義務づける。GHS未分類の物質の場合は、リスクアセスメントの実施や結果に基づいてばく露濃度をなるべく低くする措置を努力義務とする。

2.化学物質の自律的な管理のための実施体制の確立、のため、化学物質管理者の選任義務化、また新しく保護具着用管理責任者の選任義務も課す。他に、職長・労働者等に対する教育の強化、外部専門家としての化学物質管理の専門人材の確保・育成となっている。外部の専門家としては、オキュペイショナル・ハイジニスト等をあげている。

3.化学物質の危険性・有害性に関する情報の伝達の強化は、ラベル表示・SDS交付の促進、SDS記載内容・交付方法の見直しなどで、他の容器へ移し替えてもラベル表示するなど情報の伝達の強化をする。

また、こういった複雑な管理体制を整備するために、資源に乏しい中小企業に対して支援を強化することとしている。ガイドラインの策定や専門家による支援、化学物質管理のインフラ整備等である。

次に少し気になるのは、1から3で自律的管理対策を進めるのと同時に、これまでの特化則に基づいていた措置を柔軟化するとしている点である。

特化則は自律的管理の中に残すべき規定を除き、5年後に廃止することを想定している。5年後、自律的な管理が定着していないと判断される場合は、廃止を見送り、さらに5年後に改めて評価するという。

これによって特化則123物質の作業環境測定の定期実施の義務づけがなくなる。最初に1回、その後は変化がある時に実施、それ以上は企業任せだ。ばく露限界値以下に管理するためには、測定しなければわからないため、リスアセスメントの6か月ごとの定期実施を義務とするべきだろう。

6.がん等の遅発性疾病の把握とデータの長期保存のあり方で、自律的な化学物質管理の仕組みにおいて、健康影響に関するデータの保存は重要であるので、発がん性物質についての健康診断結果、ばく露状況に関するデータ、作業歴について事業者に30年間の保存を義務づける。また、上記のデータや特化則で保存を義務づけられている記録について、転職・倒産による散逸などを回避し、確実な保存を担保するために、第三者機関(公的機関)が保存を行う仕組みを検討するのが適当とする。放射線従事者中央登録センターのような機関をイメージしていると思われる。遅発性疾病ではデータ保存は重要で、ぜひ実現してほしい。

年明け法制化へ

報告書の問題点をいくつか述べると、上記の特化則の廃止により定期測定がされなくなる可能性のほか、ばく露濃度を評価する手法において、個人ばく露の測定値や作業環境測定値のような実測値をばく露限界値と比較する手法に加えて、数理モデルによる推定値をばく露限界値と比較する方法でも良いとし、事業主は推定値が低くなるような仮定を設定できるこの方法を使用する可能性が高くなる。

また、これまで特化則で個別具体的な規制が課されていたのに対し、報告書では危険有害物質にたいして、国が定める管理基準の達成を求め、その手段は限定しないとした。手段を限定しないとは、例えば、これまで環境測定の結果第三管理区分とされた場合、改善義務があり、局所排気装置の性能向上など、改善できるまでは保護具の着用で対処する、となっていたのが、リスクアセスメント後も第三管理区分である場合、改善義務があり、改善しても、基準を達成できない場合、外部の専門家の意見を聴き、さらに改善、ただし、専門家が「基準を達成できない」と判断すれば、保護具着用でよい、としており、安易に保護具着用に流れる可能性がある。

やはり、特化則には継続するべき部分が多い。廃止するというならば、そのための条件、リスクアセスメントの手法でどこまで管理が達成できたのか、残すべき規則はそういった点なのか、明確にした上で、達成する方向を目指すべきだろう。

特に特化則にあったような事業主の責任や義務を明確化し、罰則規定を設けるべきではないだろうか。

報告書を元に厚労省は法制化の作業に入っている。来年には法案が示される予定だ。

関西労災職業病2021年11・12月527号