病院がストライキ!韓国の保険医療産業労組~民主労総全北本部代表団来日交流から●韓国・日本

民主労総全北代表団

2023年9月、韓国の労働組合のナショナルセンターである民主労総の、全北本部代表団が日韓交流のために訪日した。9月8日に、武庫川ユニオンへの訪問があり、互いの活動を報告しあうミーティングが行われ、私も出席した。数々の刺激的な報告の中でも、全国保健医療産業労働組合の郡山医療院支部長を担うイ・ヒョンジュ氏からの報告が特に興味深いものだったので、紹介したい。

全国保健医療産業労働組合

内容報告の前に、イ氏の所属している組合の紹介をする。

全国保健医療産業労働組合(以下、医療労組)とは、1998年に結成した韓国の医療系の産別労組で、その名の通り、医療従事者が加入できる労組である。医療従事者というのは、医師や看護師だけではなく、理学療法士を始め、医療事務員、病院内の調理師や清掃員など、医療機関に関わる労働者全員という意味だ。

2023年9月現在で加入者はおよそ84000人。韓国の医療従事者はおよそ100万人だそうなので、8.4%の人が加入していることになる。

面白いのがスローガンで、「金より命を」というものである。労働環境に重きをおいた交渉をしており、金銭の交渉をする場合でも、弱い立場のものを引き上げようとすることを第一としている。以下でいくつかこの組織が起こしたストライキを紹介するが、その要求の中に、この理念に沿ったものがいくつかある。

2004~2006年の組合活動

イ氏からは、医療労組の歴史、これまでの活動の概要と、2023年7月のストライキについて報告があった。その内、2004~2006年の活動と、2023年7月のストライキについて取り上げたい。

2004年、医療労組と使用者側の、初の産別団体交渉が始まった(2003年までは病院別の交渉しか行えていなかった)。しかし、交渉は難航し、6月10日、ついにストライキが決行されることになった。ソウル大学病院を始めとした6つの病院のロビーでの座り込み行為に始まり、最終的に120の支部、総参加者2万人以上での活動となった。

そして、6月22日の交渉妥結を経て、一部を除いてストライキは終了した。

だが、合意したはずの契約がほとんどの医療機関で履行されなかったため、交渉は続き、2005年、2006年と、各年10日以上のストライキが行われ、2006年8月22日深夜、交渉は妥結、保健医療労使暫定合意書が作成された。

合意書の内容として特に重要なものは、週休2日制(1日8時間、週5日40時間労働)の導入とそれに伴う労働時間減少による給料引き下げをしないこと、翌年以降の交渉のために、使用者側で、2006年内に使用者団体を作ることだったが、それと別に、面白い項目をいくつか抜粋して紹介したい。

●2006年の非正規職賃金引き上げは正規職賃金引き上げ率以上になるようにする。

これは、非正規職と正規職の格差を埋めるための項目だ。字面だけを見ると普通に見えるが、イ氏曰く、この要求の原資を確保するために、正規職の賃上げ要求を控えめにしたとのことであった。

医療労組には、当然、少なからず正規職の人間もいる。その人達が、自分らの分の要求は抑えて、非正規職の人に回してもよいと考えたということだ。気持ちのいい話である。

●使用者は、病院事業場が患者の生命を扱う特殊な機関であることを考慮し国産米を使う。

こんなことも要求するのかと驚いた。要求するということは、当時何か問題があったのだろうが、日本の組合も、もっと言いたいことを要求してみればいいのではないかと思った。

2023年7月のストライキ

2023年7月13日、韓国で、病院、薬局、介護施設等の医療機関がストライキを起こした。民主労連のゼネストに合わせて起こしたストライキで、韓国全土で122支部140以上の現場、総参加者6万人以上の運動になったという。ゼネストの動きに合わせて7月15日には一旦終了となったが、一部の病院ではその後1週間以上ストライキを継続したようだ。

このストライキの話で面白かったのは、ストライキのために、大々的に宣伝活動を行ったことである。

ストライキの半年前、2023年1月から準備して、いろんなメディアに宣伝してもらったとのことだ。新幹線の中や、街中の巨大モニタなどにも広告を打った。医療労組が貯めていた活動費をほとんど使い、総額約50億ウォン(日本円で約5億円)を費やしたそうだ。

ストライキは、使用者側に負担がかからないならストライキにならないので、どうしても施設の利用者、この場合は患者にも負担がかかる。実際、だから患者のためにストライキをやめる、ではなく、広告を打ってストライキの目的を広めて、患者側に、不便をかけることを納得してもらおうという風に発想するのが面白い。

労働運動は、賛同者の数が命という部分があるので、日本でも、テレビや、今ならyoutubeなんかにも広告を打ってみるのは良い方法だなと思う。

同じ人間

病院がストライキと聞くと、「お医者さんが診てくれないなんて」とどうしてもぎょっとしてしまうが、医療従事者といえど、正義感だけで動くスーパーマンではなく、一人の労働者である。同じ人間なのだ。そのことを忘れずに活動を続けたい。(事務局 種盛真也)

関西労災職業病2023年10月548号