射出成形機による右腕切断事故-その1。 インドネシア人労働者の労災/三重
インドネシア出身のKさんは、2017年に農業の技能実習生として来日し、7か月で終了した技能実習後に逃亡、そのまま難民申請を行い、これまで合法的に就労してきた。東海地方にはこのような外国人労働者が多く見られ、また、彼らを受け入れる事業所も製造業、建設業で多く存在する。
もっとも、日本語能力に限界があるために、その就労は派遣会社を通じて紹介されることになる。Kさんは様々な派遣会社を通じて建設業やホンダ関係の仕事に就いてきたが、最後に派遣された先で約半年の就労の末、右腕を切断するに至る業務災害に罹災した。
災害発生現場は鋳物の中子(なかご:鋳物の中空部を作るための鋳型)を作る会社で、Kさんは、シェルマシンと呼ばれる射出成形機に、不良品発生防止のため成形機部分にシリコンをスプレーで噴出する作業を施している最中に、右手を巻き込まれてしまった。Kさんは主に夜勤に就いており、発生後約1時間放置されたのは、おそらく当時日本人従業員がおらず、誰も救急対応の方法を知らなかったためではないだろうか。仮に救急車をすぐに呼んでいたら、もしかしたら切断にまで至らなかったかもしれない。
病院搬送後の対応は、災害発生事業所も雇用者である派遣会社も労災請求を始め、できるだけ誠実に対応しようとしていた。しかしながら、派遣会社が用意した療養補償給付請求書等を見ると、災害発生状況について以下のように書かれている。
「・・・砂型成型機にて砂型を成型中、本来は成型機が原点復帰し、停止したのを確認した後に行うべきスプレー作業を機械動作が完了する前にスプレー作業を行おうとして成型と成型機に右手を巻き込まれ、被災した」。この記述は、現場を見ていない派遣会社によるものだが、派遣先の説明をそのまま書いたものに過ぎない。
実際には、成形機は「原点復帰し、停止」することはなく、自動で作業を続けていた。
そのため、次の作業が始まる前の数秒の間にスプレー作業を完了させなくてはならなかったところ、間に合わずに手が機械に巻き込まれたのである。いずれにしても射出成形機については、労働安全衛生規則147条(射出成型機による危険の防止)において「事業者は、射出成形機、鋳型造型機、型打ち機に労働者の身体の一部を挟まれるおそれのあるときは、戸、両手操作式による起動装置その他の安全装置を設けなければならない」と定められており、機械の作業中に身体の一部が入らないようにしなくてはらず、また、身体の侵入が認められたときは安全装置によって機械が停止するようになっていなくてはならなかった。つまり、Kさんが行っていたスプレー作業は、機械を一度停止させて行われるべきものだった。
生産効率を追求した結果、機械を停止させないまま作業を継続し、派遣で入職したばかりの外国人を負傷させてしまったのであるが、当日の人員配置を考えると、事業所の安全対策が常に疎かであったことは間違いない。
入職時の安全教育についても、派遣会社に尋ねたところ「派遣先任せ」ということであったし、現場では先輩のインドネシア人労働者が機械の操作方法を教えただけで、安全教育とは程遠い。
このような事例は、外国人労働者を受け入れる事業所では特別な風景ではないが、この結果、多くの被害が出ているのではないかと思う。過去の外国人労働者の業務災害事件の記録を読み直すと、安全教育についての質問に対し、「出身が同じ国の者から操作方法を教わった」、「一緒に働いているアルバイト従業員から教わった」、というものばかりで、体系的な安全教育が実施されているケースはまったくない。「この機械に挟まれた場合、どのようなことが起こるのか」ということは想像もしていないのである。
この事業所が会員として名を連ねている日本鋳物中子工業会(正会員76社、賛助会員15社 平成31年1月時)発行の中子Newsを読むと、「・・・技能実習制度を鋳型の製造業でも登録できるということです。ある会社ではすでに鋳造業種として実習制度を活用されています。皆さんも活用していただければと思います」と幹部が報告をしている。
素形材産業は中小企業が多く、しかも自動車産業に依存する傾向にあり、いかに生き延びるか、ということが最大の課題だろう。安い外国人労働力を利用して危機を乗り越えることも一つの解決かもしれないが、安全を疎かにして本件のような重大災害を引き起こすと、会社の存続にかかわる事態になりかねないことは、これからのKさんが行う損害賠償請求から学習してもらうしかない。(酒井恭輔)
関西労災職業病2020年6月511号
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