技能実習生の業務上事故の労災隠しで書類送検/香川

香川県の道路建設の現場で、来日して半年の外国人技能実習生が、後退するミキサー車に足を挟まれて親指を除く4指を切断するという業務上災害が発生した。重大事故の発生にもかかわらず、死傷病報告を提出しなかったとして、9月17日、高松市の生コン圧送会社の代表取締役と取締役の夫妻、ミキサー車の運転手、工事現場の元請現場責任者の4名が書類送検された。
被災者によると、2023年12月15日、県内の河川工事現場内で生コン圧送車の後端にある受口に立ってバックしてくるミキサー車の誘導をしていたところ、ミキサー車が被災者の制止を聞かずに後退を続けコンクリート圧送車と衝突、その際に被災者は右足先を挟まれて負傷したという。診断書から傷病名を確認したところ、「右第2、第3、第4、第5趾挫滅・完全切断」となっている。ミキサー車に踏みつぶされ、右足は親指以外の指について皮下組織、すなわち、骨、血管、神経を完全に損傷し、切断以外の選択肢はまったくないほどの重傷だった。
救急搬送された医療機関で手術を受け、2か月後の2024年2月16日に退院をしたのちに、しばらくリハビリが必要となった。業務上の負傷を経験した多くの技能実習生同様、事業所からは退院後すぐに就労を強いられたが、まともに動ける状態ではなかったため、事務所に顔を出したもののまったく働くことはできなかった。
本件で悪質な点は、第一に事業主や被災者を日本に連れてきた受入ブローカーから、「工事現場でケガをしたと言うな。言ったら医療費を全額負担させるぞ」と電話や対面で何度も強迫されたことである。さすがに本件負傷そのものを隠すことはできない。しかし事業主は、事故当日は休日で、事業所の生コン工場で遊んでいたところコンベアに巻き込まれてケガをした、というストーリーを作って病院などに説明をしていた。この話に元請も乗り、組織的な労災隠しが行われたのである。技能実習制度を管轄する外国人技能実習機構高松事務所にも事業主や受入ブローカーは被災者を連れて上記説明を行い、日本語の分からない被災者は、事業主の「そうだよな?間違いないよな?」という確認のための問いに、「はい」、「はい」とだけ答えていたという。
第二には、外国人技能実習生の労災事案で必ず発生する兵糧攻めである。入院中の2カ月は休業補償らしきものが事業所から支払われていたものの、退院後は何も支払われていない。むしろ、退院後2週間経ったのち、作業ができなくなった本人に対して技能実習を中断して帰国するよう伝えている。本来であれば退院後も労災保険から支給される休業補償で生活をしながらリハビリに励むところ、無収入のまま日本に滞在していても社保料や寮費など費用がかかるばかりで収支はマイナスだ、ということを印象付けて「今帰るなら帰国旅費は出すし、この場で帰国を決めるのであれば30万円やろう。足が治ったらまた来日して技能実習を再開することだってできる」と恩着せがましくささやかれたら、切羽詰まった外国人技能実習生は「それが一番良い選択ではないか」と錯覚する。ちなみに、①技能実習生の帰国費用は必ず事業所負担である、②4趾切断は障害等級10級が見込まれ、障害補償給付は100万円をくだらないうえ、障害特別支給金だけでも39万円が支給される、③切断した指は元に戻ることはなく、よって再来日もない、ということで到底呑める話ではない。
日本に残り技能実習を継続したい被災者は、事業主に掛け合うものの、どういうわけか事業主や同僚からは一切口をきいてもらえなくなってしまった。事業所で孤立したところに加えて帰国を迫るブローカーにも不信を抱くようになり、退院からちょうど1か月後にあたる3月16日、ついに会社から出奔する。そして地域の支援者や出身国コミュニティの助力によってようやく労災請求を行い、技能実習機構にも事実を報告したうえ、現在は業務上外の決定待ちである。
さて、冒頭に述べた9月17日の書類送検直前、受入ブローカーは再び被災者を帰国させようとした。事業所に対する厳しい取り調べから、このままではお咎めは免れないと判断したのだろう。ブローカーも国の許可を得て技能実習生を受け入れているため、この選択はかなりリスクが高い。労災隠しに加担したとなれば、今後は自分たちも外国人技能実習生の受入ができなくなるため、このような事件が発生すると、当該事業所のみを悪役に仕立てて傘下から放逐し、保身を図ることが一般的である。いわゆるトカゲの尻尾切りである。しかし、本件のブローカーは是が非でも顧客を守ろうとした。蛮勇と言わざるをえない、一発逆転狙いだが、被災者さえいなくなれば調査も継続できまいと、「手続きは全部終わったし、労災補償は本国で受け取ることができるのだから帰国しよう」と被災者を迎えに来た。もっとも、これまでの経緯から、被災者も支援者も従うはずがない。さらにこれから検察庁で被災者に対する聴取も行われるので勝手に帰国するわけにはいかない身の上である。丁重にブローカーの申し出を断り、宿泊先を変更して被災者を守る体制を強化することになった。
事故から10か月が経ち、被災者の抱えるストレスも相当なものである。ブローカーも被災者を本国へ追い返すことを諦めておらず、支援者らも日々緊張感を保ちながら被災者の身の安全を確保することに苦心している。被災者本人も地元有志も、まだまだ闘いは終わらない。

関西労災職業病2024年10月559号