名村造船所マンガン中毒労災認定闘いの記録ー12.模擬職場環境測定報告書〔第2報〕(昭和55年12月20日)

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昭和55年12月20日

報告書(第2報)

阿倍野労働基準監督署 御中

作業環境測定機関(登録27-43)
 別表 第1号、4号、5号
医療法人 南労会・松浦診療所
理事長 松浦良和
第一種作業環境測定士
渡辺充春
第一種作業環境測定士(別表4号)
佐藤敏則

Y氏労災認定申請に伴い、職場環境調査を前回に引き続いて行い、次の結果が得られたので、ここに報告する。

〔Ⅰ〕測定年月日

捕集 昭和55年11月24日
分折 昭和55年12月3日

〔Ⅱ〕測定事項

(イ)モデル空間の設定

前回に同じ。但し、前回は2側面及び天井をシートで覆ったため、空隙が生じ空気もれが起きたので、今回は、設計図を株式会社・根津建築事務所に依頼し、その図面に基づき設営した。
(図面添付)

(ロ)作業条件の設定

前回に同じ(略)

<作業条件>

溶接熟練工が、8分の休みをおいて25分そして、28分の2回、連続して電気溶接を行った。使用溶接棒は前回と同じく、造船所で汎用のJIS・D4301規格(Mn 11.64%含有)のものを、それぞれ1.09kg、1.22kg使用した。溶接電流180A。

〔Ⅲ〕測定点

(イ)場所、粉じん量及びMn濃度……別紙

測定点図

(ロ)高さ

溶接作業者呼吸位置として床上 1m
ボルト締め作業足場位置として床上 2m
ボルト締め作業者呼吸位置として床上 2.5m

図1.測定点略図

〔V〕測定条件

イ 天候 晴
ロ 室温 18.0(測定前)
ハ 湿度 87%(測定前)
    25.0(測定後)
    60%(測定後)

〔Ⅳ〕測定方法

粉じん量及びMn濃度-ろ過捕集方法、分折、原子吸光分折。

a 捕集時間

第1回 溶接開始後15分~25分迄の10分間、吸引量 15リットル/min
第2回 第1回捕集後8分休み、溶接を再開し、再開後2分~28分迄の26分間。吸引量は第1回と同じく15リットル/min

b 溶接棒使用量(測定時)

第1回 0.45kg
第2回 1.13kg

<使用計器>

ⅰ)ローボリウムエアサンプラーD-50P型(ユアサ商会)
ⅱ)ローボリウムエアサンプラーL-30型(柴田化学器械工業)
ⅲ)ろ紙 グラスファイバーフィルター(東洋ろ紙GB-100R)

分折

ろ紙を、濃塩酸10.0mlに侵し24時間放置し、その后沸とう水溶上で30分間加熱、放冷後、水を加え25mlとし、吸引ろ過し全量を100mlとした。

これを、適宜塩酸水溶液(濃塩酸1容十水9容)で希釈し試料とした。又標準液は、市販の1,000μg/mlを上記の塩酸水溶液で希釈し使用した。ブランクテストとして、同様の処理を行った。この試料を、原子吸光光度計にかけ、検量線法によりマンガン含有量を求めた。

〈分折条件〉

ⅰ)原子吸光光度計 日立170-50A
ⅱ)分折線 279.5nm
ⅲ)バーナー 10cmスリット・バーナー(標準バーナー)
ⅳ)燃料 アセチレン・ガス0.2kg/cm2
ⅴ)助燃料 空気1.6kg/cm2

尚、粉じん重量は、捕集したグラスファイバーろ紙を、乾燥秤量した。

〈使用計器〉
直示天びん C3・200-MDM(長計量器)

〔Ⅶ〕測定結果

a)粉じん量及びマンガン量

表1及び図2~6に記載のとおり

b)風速

各測定点付近で、0.03~0.05m/sであった。ほぼ風はなかったと思われる。但し、開口部に於いては、0.2~0.3m/sの風が上方(外)へ吹いていた。

〔Ⅷ〕考察

○ 前回はモデル空間の開口部以外が不十分であった。今回は板の継ぎ目の目張りをし、かなり十分な密閉度が期待できたが、結果はその事を裏付けている。即ち前回のマンガン濃度は最高で1.6mg/m3〈床上2.0m地点)であったが、今回の結果は、前回のマンガン濃度の低い1m地点の平均でも4.0mg/mと、前回の2.5倍の濃度となっている。この事は、空間の密閉度が増加する事、言い換えれば、船が完成に近づけば近づく程、船内のマンガン濃度は、同じ条件で溶接作業を行っていても、高濃度になる事を示している。そして、エンジンが据えつけられたと仮定した空間では、最高で5.0mg/m3(床上2.5m)にも達している。付言すれば、床上2.5mの高さとは、Y氏が足場板に乗ってボルト締め作業を行っていた位置である。

○ 垂直分布の平均値は、床上1.0mで4.0mg/m3、床上2.0mで4.4mg/m3、床上2.5mで4.5mg/m3と、前回と同じく、天井へ近づくほど、マンガン量は多くなる傾向を示している。しかし、濃度比は前回よりかなり低くなっている。これは、溶接条件は前回とほぼ同じと考えられ、又、マンガン含有ヒュームの発生量もほぼ同量と考えられるから、空間の密閉度の増加に伴って、高低差によるマンガン濃度差は減少し均一化してきたためと考えられる。

○ 水平分布より、開口部から離れた地点(測定点(1)、(4)、(6))の方が、開口部近くよりマンガン濃度が高い傾向が見られる。従って、溶接地点から等距離の所で作業していても、換気の悪い作業場所ほどマンガン濃度は高くなると予想される。

○ モデル空間の気積は68.7m3である。このうちローボリウム・エアー・サンプラーによる総吸引量は、第1回測定で約1m3、第2回測定では、約3m3の吸引があった。これは全換気量の1.5%、4.4%となり、モデル空間換気中のマンガン濃度を減少させる因子と考えられる。

〈まとめ〉

モデル空間の密閉度を増した結果、マンガン濃度は、最高で5.0mg/m3となり、産衛学会の勧告値の上限値である。又、床上1.0m地点でも、濃度平均が4.0mg/m3と高く、Y氏は当時、高濃度のマンガンを含むヒュームに曝露されていた事を十分推測させるものである。

第3回模擬実験のもよう(80年11月24日)