名村造船所マンガン中毒労災認定闘いの記録ー11.模擬職場環境測定報告書(昭和55年9月22日)
昭和55年9月22日
報告書
阿倍野労働基準監督署御中
作業環境測定機関(登録27-43)
医療法人 南労会・松浦診療所
理事長 松浦良和
第一種作業環境測定士(別表1・3号)
渡辺充春
第一種作業環境測定士(別表4号)
佐藤敏則
Y氏労災認定申請に伴い、職場環境測定を行い、次のとおり結果が得られたので本書をもって報告致します。
〔1〕測定年月日
捕集 昭和55年8月31日午後1時45分~2時15分
分折 昭和55年9月2日~9月5日
〔Ⅱ〕測定事項
建造中の船舶のエンジン場に模して設定した作業所で、マンガンを成分に含む被覆剤を持つ溶接棒を使用した電気溶接による溶接ヒューム中のマンガン含有量、および作業所内粉じん濃度分布。
〔Ⅲ〕測定
イ モデル空間の設定
Y氏は、当時名村造船所で、3万トンクラスの建造船のエンジン場で配管ボルト締めの作業を行っていた。測定条件として、3万トンクラスの船舶で、当時のY氏の作業条件、環境を再現する事が望ましいが、今回は条件的に不可能であったので次のようにモデル空間を設定した。
16,600重量トン船の設計図を基にmain floorと3rd deckで囲まれる空間の気積を計算し、それからmain floorに設置されるエンジン、ポンプ、パイプ類等の容積を差し引いた。得られたエンジン場の気積は687m3であった。モデル空間として1/10の気積を持つ空間を設定した。main floorから3rd-deckまでの高さは3mであるので、高さ3m、一辺4.8mのモデル空間とした。
なお、エンジン場の天井(3rd-deck)と、据えつけられたエンジンの聞に間隙があるため、モデル空間においても天井部-側に10cmの間隙を設けた。
設営は、工場内において二側面は壁面を利用し、支柱を立て、はりを通し、天井、二側面はシートにて設営した。
ロ 作業条件の設定
Y氏の作業当時は、10~20名が溶接を行っていたという事である。モデル空間は1/10の気積として設定したので作業条件として電気溶接1台とした。
〈作業条件〉
溶接熟練工が、電気溶接を30分間連続して行った。使用溶接棒は、造船所で汎用のもので、JIS、D4301規格(マンガン含有量、11.64%)品を使用した。使用量は1.09kgであった。
〔Ⅳ〕測定点
イ 場所
マンガン含有量について、別紙測定点図1に示す7個所
粉じん濃度分布について、別図2・3に示す9箇所
ロ 高さ
溶接作業者呼吸位置として床上1m
ボルト締め作業足場位置として床上2m
ボルト締め作業者呼吸位置として床上2.5m
〔V〕測定条件
イ 天候 雨
ロ 気温 26.9℃
ハ 湿度 88.0%
〔Ⅵ〕測定方法
マンガン含有量について
捕集 ろ過捕集方法
分折 原子吸光分折方法(検量線法)
粉じん濃度分布について
相対濃度指示法
イ マンガン含有量について
a 捕集
測定点1~7において、ローボリウム・エアサンプラーを設置し、毎分30リットルで30分ろ過捕集を行った。
<使用計器>
ⅰ)ローボリウム・エアサンプラーD-50P型(ユアサ商会)
ⅱ)ローボリウム・エアサンプラーL-30型(柴田化学器械工業)
ⅲ)ろ紙 グラスファイバーフィルター(東洋ろ紙)
b 分折ろ紙を、濃塩酸100mlに侵し24時間放置し、その后沸とう水溶上で30分間加熱放冷後、水を加え25mlとし、吸引ろ過し全量を100mlとした。これを、適宣塩酸水溶液(濃塩酸2容十水3容)で希釈し試料とした。又、標準液は、市販の1,000μg/mlを上記の塩酸水溶液で希釈し使用した。ブランクテストとして同様の処理を行った。
この試料を、原子吸光光度計にかけ、検量線法によりマンガン含有量を求あた。
〈分折条件〉
i)原子吸光光度計 日立170-50A
ii)分折線 279.5㎜
ⅲ)バーナー 10cmスリット・バーナー(標準バーナー)
iv)燃料 アセチレンガス0.25kg/cm2
ⅴ)助燃材 空気1.6kg/cm2
ロ 粉じん濃度分布について
測定点8~16において、相対濃度計で相対濃度を計測した。
〈使用機器>
i)デジタル粉じん計 P-5L型(柴田化学器械工業)
ダークカウント 0
〔Ⅶ〕測定結果
別表1・2および別図4・5・6に記載のとおりである。
〈測定結果〉
〔Ⅷ〕考察
マンガン含有量の最高濃度は、溶接作業点から0.6m離れた床上2mの地点(測定点1)で1.6mg/m3を示している。この値は産衛学会の勧告値5mg/m3よりは低いが、かなり高値であり、床上2mの測定点4点の幾可平均でも1.1mg/m3と高値である。(注1.)
垂直分布では、床上1mの地点より床上2mの地点のマンガン含有量が多く、2倍から3倍の値である。
垂直粉じん濃度分布は、図6でみるようにいずれも天井に近いほど濃度が高くなっており、床上2.5mの地点の濃度は床上lmの地点の濃度の18倍~29倍であり、床上2mの地点の濃度からも2~6.3倍にもなっている。一方、総粉じん中のマンガン濃度は約7%位で一定しているので、床上2.5m(天井下0.5m)の位置付近は、床上2mでの最高値1.6mg/m3よりかなり濃度は高くなる事が予想される。
なお、別図7・8で示したごとく、シートであったため隙間が生じ、0.8m/secで空気もれが生じており密閉度合は完全でなかった。
Y氏は当時、仕上げ組立て工として配管ボルト締め作業を行っていたが、作業の大半は、床上2mの足場にのり、床上2.5mあたりで作業を行っていた。本測定結果では、床上2.5mあたり(天井下0.5m)は、最も溶接ヒュームの高濃度地点であり、1.6mg/m3よりかなり高濃度が推測されるものである。
(注1.)
ACGIH(American Conference of Governmental Industrial Hygienists)の1977年度許容濃度変更予告値によればマンガンのTWA(8時間)は、1mg/m3であり、2年の間にこの予告値の妥当性を覆すに足る証拠が現れない場合には、この予告値が採用値となる。
〔Ⅸ〕測定者
第一種作業環境測定士 渡辺充春(別表1号、3号、登録27-722)
第一種作業環境測定士 佐藤敏則(別表4号 登録27-760)
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