名村造船所マンガン中毒労災認定闘いの記録ー参考資料(1)溶接作業での健康障害とその予防対策/八上享司

溶接ヒュームの有害性は、古くから指摘されているところであるが、資本の側もその影響について調査を行っている。Y氏の認定闘争の過程で入手した資料の中で一番詳しいもの。検討対象として掲載する。(「労働衛生」労働省労働基準局安全衛生部監修1979年8.10.12月号より抜粋して転載)

参考資料(1) 溶接作業での健康障害とその予防対策

三菱重工相模原製作所診療所長

八上享司

第2次世界大戦によって、30年の遅れをとった日本の溶接技術のその後の研鎖努力による進歩は目覚しく、戦後数十年にして世界一の造船国となり、また先進工業国として世界をリードする経済成長の基礎的貢献の一翼を果たした。現代は鉄鋼文化であり、また合成化学文化でもあるが、今後の化工生産技術はわが国にとってさらに重要なものとなり、その開発に真剣に取り組んでいるのが現状である。その中で溶接技術もまた、それらの基幹工作技術として、その飛躍的開発が期待されるところである。

溶接技術の進歩と応用範囲の拡大は著しく多くの金属の溶接が可能になり、それぞれの材質に適合した方法がとられるようになった。特に技術的に高密度エネルギー熱源による、高精度な、高速度溶接工法の研究は、今後の重要な熱工学的な課題となっており、その応用範囲の拡大とともに、安全衛生面においてもまた新しい健康障害因子による課題が増加していくことが予想される。

溶接法の発達は、古典的なAu、Cu、PbSn合金鍛接と、いわゆる”ろう付”または”ろう接”から始まり、1887年Benardosによる炭素アーク溶接の発明、さらにSlavianoff(1891)が金属アーク溶接を開発し、以来今日まで幅広く利用、応用されてきた。最近は被覆アーク溶接棒も各種高性能溶接棒が作られ、ヒューム発生量が30~50%も低減したものも実用化されている。溶接棒メーカーも、より低ヒュームのものへと開発の努力をしているので今後の成果に期待したい。

溶接作業に伴って発生する人体への有害因子(表2)は金属ヒューム、ガス、光線、騒音、振動と多様化しており、これらは溶接作業者ばかりでなく、その周辺作業員にも波及し障害を発生させることになるので、健康管理対策として作業環境管理は益々重要なものとなっている。溶接技術者も、周辺作業者もその有害性について知らなすぎる傾向にありその実態を調査して、発生が予想される有害因子に対する予防対策と環境改善を実態に即して行わなければならない。また、電気火災、火傷、感電事故防止、高所作業の安全等幅広い対応が求められ、特に安全衛生に関する作業者教育も今後の重要な課題である。

●一般的な溶接作業の動向とそのその有害因子

エネルギーによる溶接法の分類(表1)1)により、順次簡単に述べていく。なお有害因子については、各項目の重点的なものについて、最近の話題もとりあげて述べていく。

1. 電気エネルギーによる方法には、アーク溶接、エレクトロスラグ溶接、抵抗溶接、高周波溶接、電子ビーム溶接、プラズマ溶接がある。アーク溶接は先にも述べたように歴史は古いが鋼構造物溶接の代表格である。利用方法別にみると被覆アーク溶接が60~70%、ガスシールドアーク溶接が20~25%、サブマージドアーク溶接が7~10%の割合である。手動から次第に自動化され、ワイヤー連続供給のMIG(inert gas metal arc welding)と非消耗電極式のTIG(タングステン不活性ガスシールドアーク溶接、またはWIG=wolfram inert gas welding)、粒状フラックス中の溶接ワイヤーを連続供給するサブマージドアーク溶接(sub merged arc welding)、その他溶融スラグ中に溶接ワイヤーを送りこむエレクトロスラグ溶接(electro slag welding)がある。

(A) 被覆アーク溶接(covered electrode manual welding)は、被覆剤を塗布した溶接棒により母材との電気アーク熱(約6,000度華氏)により溶接する方法であり、最も多用化されている。アークを通して大電流(100~400A)が流れ、アーク電圧は25~40Vである。被覆剤の成分は種類が多く、セルローズ、陶土、タルク、酸化チタン、イルミナイト、酸化鉄、炭酸カルシウム、フェロマンガン、二酸化マンガン、けい砂、けい酸カリ、けい酸ソーダ、石灰石、水ガラス、螢石、マグネサイト、長石、雲母等である。被覆剤組成により、イルミナイト系(イルミナイト、砂鉄、有機物等を含有)、ライムチタニヤ系(酸化チタン、石灰石等を含有)、高酸化チタン系、低水素系、鉄粉酸化鉄系等があり、ヒューム成分も異なっている(表3)2)。イルミナイト系は軟鋼用溶接として40%を占め、造船、圧力容器溶接に用いられている。ライムチタニヤ系は立向き・上向き溶接に適し、薄板溶接、中板突合わせ、化粧溶接に用いられている。低水素系は溶接金属中の水素含有が少なく、厚板、圧力容器の重要部分の溶接に使用するが、ヒューム発生量は最も多く、ヒューム中には螢石(CaF2)に起因するフッ素(F)が1~2mg/m3、Na2O、K2O等のアルカリ成分、CaO2、SiO2なども多く含まれている。鉄粉酸化鉄系はグラビティ溶接、低角度溶接など半自動溶接治具と併用することが多く、多数ア一クとして使用される場合、この溶接棒は棒径が5~7mmと大きいため、ヒューム発生量は非常に多くなることが予想される。これら被覆アーク溶接棒のヒューム発生量に及ぼす諸因子の影響について、図1、2のごとく、溶接電流が高い程その発生量は多くなっている。しかし、現在はすでに低ヒューム化され、170~220mg/min程度に抑制されているものが製造されているので、溶接工程で何を選ぶか、溶接条件を十分に考慮に入れてヒューム発生量を極力低減するよう努力すべきである。ヒューム組成は表3に示す。溶接作業者の個人曝露濃度はその差が大きく、防護面内で5~40mg/m3(面外で30~130mg/m3)であり、場合によっては170mg/m3に達することがある。したがって換気対策と同時に有効な個人防護対策が重要である。

(B) イナートガス溶接は、不活性ガスでアーク周囲の空気を遮断して溶融金属の酸化を防止する方法で、Ar(アルゴン)、He(ヘリウム)を使用する。被覆剤(フラックス)を使用しなくても良く、またアークの集中性も良いため、材質的に優秀な溶接が可能である。ステンレス鋼、アルミニウム合金、銅、チタン、ジルコン等の軽合金、耐熱合金、高張力鋼等の溶接に使用する。TIG、MIG溶接ともに発生ヒューム量は、100~200mg/minでCO2ガスシールドアーク溶接の1/5~1/4の値であるとの報告(表6)4)もあるが、表4の如く我々の測定では550~1,180mg/minとかなり高い。金属ヒューム中の化学成分として、MgAl2O4、ZnO4、Mn2O4、Cr2O3、K2CrO4、TiO、SiO、NiO等の多くの種類が認められ(図3、4、5、6)5)、その生体への影響が懸念される。特にフィラーも母材も多種金属組成でありしたがって金属ヒュームの成分もそれにより、異なってくるのは当然であり含有量の多い金属成分が問題となってくる。各種金属とその化合物のTLV(許容濃度)6)について表5に示してあるが、最近ステンレス鋼の場合、ヒューム中Cr成分の多いことが問題とされ、OSHAの提案7)(NIOSHからのCr+6、NiのTLVを大幅に下げるような提案により、法制化の方向に注目されるところである)によると可溶性Cr+6のTLVは25μg/m3、不溶性Cr十6のTLVは1μg/m3であり、CrO3で50μg/m3(NIOSH)となれば、産業界としてはかなり厳しい条件となろう。クロームは気道粘膜や皮膚のアレルギー反応を起こしやすく、ニッケルもまた同じようなアレルギー反応を起こし、肺好酸球増多症(Loeffe’s症候群)なども発症するといわれている8)。ステンレス鋼金属ヒュームのクロム成分の突然変異性の問題もStern9)らにより取り上げられているが、NIOSHでも基準に関する勧告で、不溶性Cr+6濃度は1μg/m3を超えないこととし、測定法が付記してある。しかし、DeLong(AWS Task Force)は昨年のIIW(国際溶接会議)の第8委員会では、疫学的調査を続行中だが、溶接作業者の肺ガンの発生率は現在のところ一般的発生率と有意差は認めていないと述べていた。

MIG、TIGでは金属ヒュームの他紫外線の発生量も多く、危険性の高いレベルにある。電気性眼炎、皮膚の急性損傷等、直接作業者ばかりでなく、周辺作業者にもその影響を及ぼすことに注意しなければならない。270nm付近のものは発ガン性の危険性も懸念されている。溶接方法が変われば、紫外線の波長も変化することにもあまり注意がはらわれていないようである。またNa波長から589nmリチウム波長から671nmの強い光が発生するのでこれらも選択的吸収フィルターが必要であろう。

紫外線が強ければ、オゾン(O3)の発生も多く、危険性が高い。我々の実験でも1.59~7.95ppmという高濃度も測定されている。半密閉構造物中では危険性は極めて高い。オゾンは上気道粘膜の刺激による咽頭痛(0.3ppm)、咳漱、呼吸困難、細気管支炎、肺水腫9ppm、頭痛、息切れ、倦怠感、低血圧(1~4ppm)等がみられる。また作業気中にトリクロルエチレンがある場合、ホスゲン、ジクロルアセチルクロライドへの光分解が起こり、これらも危険性が高いものである。また、NO、NO2とNOxについても問題であり、無被包アーク溶接(non-gas shielded arc welding)、ガス溶接、ガス溶断等の際に多く発生する。10)20~50ppmで慢性呼吸器機能障害(慢性気管支炎、肺気腫等)100ppm以上で肺水腫、細気管支炎を発症する。

(C) CO2アーク溶接は、MIG溶接の不活性ガスのかわりに安価なCO2のみと、CO2-O2、CO2-Ar、CO2-Ar-O2等混合ガス法があり、またCO2フラックス法もある。一般的にはCO2のみが多く使用されている。軟鋼、構造用鋼に広く使われており、金属の脱酸の目的のためにワイヤー組成中にMn、Si、Al、Tiを入れてあるので、ヒューム中にもこれらの化学組成成分が発生することになる。ヒューム発生量も230~1,620mg/m3と多い。またCO2を使用するのでCOの発生量が増加する危険性があり(ヒューム内で100~200ppm)、酸欠とともにこの対策は重要である。

(D) 無被包アーク溶接はCO2を使用しないで、電極ワイヤーに脱酸剤を入れたりした。つまり、被覆アーク溶接の自動化したものである。しかし、これはヒュームの発生量は極めて多い。

(E) スタッド溶接は、耐火性フェノール枠内で溶接する方法で、短時間でスタッドを溶融できる。主に建設工事関係で使われる。

(F) サブマージドアーク溶接は、粒状フラックス中に溶接のワイヤーを送りながら溶接をする方法で潜孤溶接と呼ぶ。フィラーメタル法は、ユニオンメルト法の冷却速度が遅いために衝撃値が低下するのを改善するために消耗電極ワイヤー以外に、別のワイヤーまたは金属片を加えてアークのエネルギーを消費させ結晶粒度粗大化を防ぎ、溶着量をふやす方法である。

(G) エレクトロスラグ溶接は溶融スラグ溶中に電極ワイヤーを溶融させながら送りこむ方法で、肉厚鋼板溶接に使用する。Al、V(バナジウム)などを入れて結晶粒を微粒化して衝撃値低下を防いでいるが、VについてTLVはV2O5としてヒューム中濃度0.05mg/m3であるから、ヒューム発生量が少ないので問題はないと思う。サブマージドアーク溶接はいずれもフラックス中で溶融溶接するためにヒューム発生量は極めて少なく、紫外線の影響もない。ただ使用量範囲が限られており、今後の溶接工法の開発が期待されるものである。

エレクトロガス溶接は、COガス溶接の立向き溶接方法で、スラグのかわりにガスを使用する。ヒューム量はエレクトロスラグ溶接より多いが、溶接点から離れて作業をするために直接ヒュームの影響は少ない。ただし、環境汚染には注意する必要がある。

Ⅱ 化学エネルギーによる方法(省略)
Ⅲ 機械エネルギーによる方法(省略)
Ⅳ 超音波エネルギーによる方法(省略)
Ⅴ 光エネルギーによる方法(省略)

●有害因子別に見た健康障害●

溶接作業ではヒュームも材料により何種類かの化学組成をもっており、その他有害ガス、有害光線、作業内容に付随して発生する騒音・振動もあり、危険作業に伴う精神的ストレスもあり、それらが複合された形で存在する(表8)。これら有害因子個々あるいは複合された状態の人体への影響についての理解がなければ十分な対策は立てられない。

Ⅰ 溶接ヒューム、粉じん

A じん肺

じん肺の発生状況は年々増加の傾向にあり(表9)、溶接ヒュームについてもその曝露に対する作業者の個人防護は作業環境改善と共に、より積極的に対策をとるべきである。吸入されたヒューム、粉じんは粒径によって沈着する部位も異なる(図7)。

金属ヒュームは0.01~2μの範囲が多く、肺への沈着量も多い。フッ素粒子では、1μ以下の粒子は肺胞に60%とりこみ35%排出し、1~5μの粒子では25%とりこみ20%排出するという。しかし、粉じん沈着率は粒度分布、粒形、質量等により、それぞれ異なるものと考える。一般的に5μ以上の粒子は上気道で捕捉され、特に高濃度曝露でなければほとんど排出される。1~2μの粒子が最も沈着しやすいといわれているが、0.2μでは沈着率は低くなり、それ以下になると再び高くなる。肺胞への沈着は粒径の小さいほど高くなるが、0.01μ以下になると粒子はブラウン運動を起こし、沈着しなくなる。図8は呼吸器系全般の各区分毎における沈着量を百分率で示したものであるが、右肺では上下葉に多く、中葉は比較的少ない。気管支リンパ節への沈着は8.8%である。吸入されたヒュームの一部は喀たんとして排出されるが、気管支粘膜の線毛運動による気管表層ゲル状粘液の動きにより運搬される26)(16㎜/分)(図9)。線毛の動きは速く(毎秒20~25回)、特有の運動をする(図10)。
ステンレス溶接の際に発生するヒュームは図11、12のように、空気動力学的径は小さく、肺沈着率の高い粒度分布である。5)

a) 酸化鉄肺(溶接工肺)

かつては不活性じん肺といわれていた酸化鉄ヒュームの一部は、肺胞間質に侵入し塊状に沈着する。X線写真では粒状影と塊状影を認めるが、線状影、網状影肺門の変化は軽度か、全く認めないこともある。

炭素肺、アルミナ肺等も同様である。佐野氏17)の病理変化からの分類によれば、純肺胞型の弱壊死型であり、特徴として、粉じん巣周囲の局所的肺気腫と、肺胞内に蓄積されている粉じんは多量であると述べている。

b) アルミナ肺

アルミナの吸入により発症する。粉じんによって肺胞が充填された部分に帯状の線維増殖がみられることもある。最近は純アルミニウムよりもアルミ合金の溶接が多く、Si、Zn、Mg等の含有によりヒュームの化学組成も複雑である。例えば私共のアルミ合金ヒュームの分析では図13に示すとおり、Al2O3、ZnAl2O4、MgAl2O4、Mg2Al2、ZnO等の化学組成をもっている。もしもこれを吸入した場合、肺の病理変化も少し異なったものとなるであろう。ヒューム粒子の形状と大きさを電子顕微鏡写真に示した(図14)。1μ以下は85%を占め粒度分布はAMD:0.3~0.4μである。18)

c) けい肺

有害性の強い粉じんは細胞毒性の強いものといえるが、遊離けい酸(非晶性シリカ)は最も強い毒性を示す。粉じんはリンパ組織にある細網細胞にとりこまれるが、けい酸の毒性により変性壊死を起こし、結節性線維化を起こす。有害性粉じんによる線維性じん肺といわれているが、リンパ路に移行するものが多いので、佐野氏の分類ではリンパ型に属する。

B 肺刺激性金属ヒューム、粉じん

溶接ヒュームの金属成分の大部分は特に大量の粉じん曝露によるもの以外は、じん肺をっくることは少なく、あっても軽度であり、むしろ刺激物とみてもよいと考える。Cd、Cu、Co、Be、As、Pb、Mg、Mn、Ni、Zn、Sn等は、吸入により金属熱を発症する。また表面加工した亜鉛鉄板、光明丹、ジンクリッチ、塗装材、真ちゅうなどの溶接に際してヒューム吸入により金属熱を発症する。金属ヒュームを発生するので注意が必要である。Hg、Mo、Ti、Tl、Te、Os、V等も有害性を有する。しかし金属間には相互作用があり、その量-反応関係は多くの要因の影響を受ける。金属間の錯化合物等の生成による毒性の減少、蛋白結合における競合、金属蛋白(メタロチオネイン)の生合成などによる毒性軽減が認められている。19)
表10には溶接ヒュームに関係した金属の許容濃度についてアメリカ、日本、英国、スエーデン、西独、ソ連の各国別に知り得た範囲で記載した。なお、主要金属(Cd、Pb、Cu、Mn、Hg、Zn、Be等)の生体影響については稿末に示す。

Ⅱ 有害ガス

各溶接作業により発生する有害ガスについては、前回述べたように、CO、O3、NO、NO2が主なものであり、その他被覆剤中のフッ化物の熱分解で発生するフッ化水素、塩素化炭化水素浄剤(トリクロルエチレン)の熱分解により発生するホスゲン、リン酸塩被膜処理した材料に起因するホスフィンもある。いずれも有害であり、曝露の機会は多い。許容濃度を表11に示す。なお、ガス(CO、生体影響については、NO2、O3等)の稿末に示す。

Ⅲ 紫外線

紫外線は太陽光に存在することは知られているが、270nm以下の短波長紫外線は特殊な有害性を持ちながら、大気圏で拡散し地表には達しないので、地球上の生物はその影響を受けていないことはあまり知られていない。

溶接ではこのような短波長も含めた紫外線が発生する。紫外線はオゾンの生成、光化学スモッグの生成など光化学作用があり、皮膚に対しては290~320nmの範囲で強い紅斑作用がある。皮膚への被曝量が多くなると、浮腫、水庖形成、表皮剥離を起こす。

長期間の被曝によって、皮膚の乾燥、弾力低下、強皮症様のしわの多い皮膚となる。光線過敏症の人は強い反応を示して皮膚炎となる。眼に対しても角膜で320nm以下の短波長紫外線を吸収するので(図15)、角膜表層炎、結膜充血を起こす。
ACGIHでは200~400nmの問のスペクトル領域について曝露のコントロール指針としての勧告値(表12、13)を示している。近紫外スペクトル領域の320~400nmでは、直接眼に対する全光輝値は103秒以上の時間では1mW/cm2をこえてはならない。103秒以内ではJ/cm2を(表14)、200~315nm領域では8時間の期間内で表13の値をこえてはならないとしている。溶接作業者は遮光度ナンバーの適合した遮光具と、皮膚も十分な防禦が必要である。溶接作業に伴う眼障害について表15にまとめた。

Ⅳ レーザー光線

レーザー光線による生体への影響は光、熱、圧力波、電磁波等の作用で、主として可視光線、紫外線、赤外線などの強力な光線エネルギーによるもので、組織の変化は熱凝固、壊死、燃焼、蒸発、昇華、炭化である。波長310nm以下の短波長紫外線と800nm以上の赤外線は角膜炎を起こす。近紫外、可視光線、近赤外線領域のレーザー光線は眼に射入されるとその光量は網膜上で瞳孔の直径の2乗に比例し硝子体の作用で網膜上に焦点を結び入射時の数万倍の強さに達し網膜に損傷を与える。軽い障害で網膜の一時的な充血、発赤をみるが、重症では浮腫、出血、壊死、剥離、失明に至る。また皮膚にも熱傷壊死が起こり、濃い黒色ほど影響は強いといわれる。皮膚の角化、乾燥、痂皮形成、色素沈着、皮膚潰瘍、腫瘍、過敏皮膚炎に注意を要する。ACGIHの許容基準を表16、17、18に示す。

Ⅴ その他

作業上振動、騒音についても曝露されることが多く、サンダー、グラインダー等は振動の影響があることと、騒音による聴力損失もあるので、この面への関心もゆるがせにはできない。〔文献省略〕

(参考資料1 のつづき)

●主要金属の生体影響

a)カドミウム(Cd)

カドミウムヒュームの急性曝露では、2~数時間後に上気道刺激症状、口のかわき、胸部圧迫感、悪寒、頭痛、嘔吐・胸痛・呼吸困難を発症する。曝露時より肺の間質性浮腫が始まり、72時間位で回復に向う。経口的に入ると、急性胃腸炎症状をみる。

慢性曝露では、疲労、嗅覚障害・呼吸障害、鼻汁分泌過多、体重減少、反覆性の腹痛・下痢、門歯・犬歯のカドミウム黄色環などをみる。標的臓器は腎であり、尿細管、糸球体の機能異常による腎不全となる。Cdの生物学的半減期が非常に長く、腎への排泄も微量である。低分子蛋白尿と低尿酸血症が早期診断のポイントとなる。

b)鉛(Pb)

鉛中毒は鉛ヒューム吸入により発症するものが多い。腹痛(疵痛)、便秘、頭痛、筋肉痛、筋けいれん、貧血、食欲不振、嘔吐等の症状があり、鉛疝痛は有名である。末梢神経炎はしばしば上肢の伸筋麻痺をおこす。尿へのコプロボルフィリン、Δアミノレブリン酸の排泄増加、赤血球中のΔアミノレブリン酸脱水素酵素活性低下などを認める。

c)銅(Cu)

銅ヒュームの吸入は金属熱を発症する。急性曝露により、鼻粘膜の刺激、唾液分泌過多、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、消化管出血、筋肉硬直、筋けいれんを起す。慢性曝露で鼻粘膜潰瘍、皮膚炎、角膜潰瘍、肝障害、腎障害をおこす。

d)マンガン(Mn)

二酸化マンガン吸入により、パーキンソニスムスを発症する。四肢のしんせん、どもり、無表情、小書症、歩行障害、噴声、人格変化をきたす。曝露3カ月後に脳と肺に高い蓄積をみとめている。体内に吸収されたマンガンは、胆汁、腸管より大部分が排泄される(95~98%)。経口的に摂取されたものも、ほとんど吸収されずに排泄される。経気道的に吸入された場合も糞便への排泄量が増加する。19)

e)水銀(Hg)

水銀化合物含有の防蝕膜加工材の溶接により水銀蒸気が発生する。急性曝露で、腹痛、嘔吐、下痢、歯銀炎、口内炎、腎障害を発症し、慢性曝露で不眠、頭痛、精神障害、難聴、視野狭小等を認める。

f)亜鉛(Zn)

酸化亜鉛ヒューム(ZnO)は亜鉛メッキ鋼板、珪酸亜鉛被膜鋼板、亜鉛クロメート鋼板、亜鉛エポキシプライマー鋼板等の溶接、銀ろう溶接の際に発生する。吸入により、悪寒、発熱、嘔気、嘔吐、筋肉痛、口渇、頭痛、疲労感がみられる。発熱はいわゆる金属熱であるが、数時間から24時間以内で解熱する。連続曝露により耐性がえられるが、月曜日の朝病といわれているように、休日後短期間に耐性が失われてしまうのが特徴である。亜鉛と他金属との相互作用では銅の存在は亜鉛の吸収を抑制し(腸管)カドミウムとは拮抗的である。慢性亜鉛中毒として体重減少があり、やせるとの訴え群の10%に一過性の糖尿をみとめることがある。20)

g)ベリリウム(Be)

ベリリウム銅鋳造、ベリリウム化合物製造工程での扮じん曝露により、数時間から数週日で咳嗽発作、胸痛、呼吸困難、気管支炎、肺炎(化学性肺炎)、慢性障害としてベリリウム肺を発症し、多量粉じん曝露でじん肺を発症する。また皮膚炎、皮膚潰瘍(魚の目状)を生ずる。

h)モリブデン(Mo)

粉じん曝露により気管支の刺激と、肺胸内蓄積、浸潤、肺胞壁の破壊、肺気腫をみとめ、また肺の脂肪変性と腫大、腎上皮変性、糸球体の蛋白滲出がみとめられる。21)

i)フッ化物(フッ素)

ヒュームの形で吸入すると鼻粘膜の刺激・乾燥・鼻出血をみる。フッ化水素(HF)は皮膚から吸収される。皮膚、鼻、のど、気管粘膜を刺激し、肺水腫、肺炎を発症する。可溶性塩類(フッ化ナトリウム)で悪心、嘔吐、腹痛、下痢、出血性胃炎をおこす。長期曝露により骨のX線写真上密度の増加と斑状歯を特徴とする。

その他、チタニウムにもわずかながら肺線維症をみとめ、マグネシウムは金属熱を起す。Cr、Niについては前項で触れたので省略するが、不溶性六価Crや、Niが一酸化炭素(CO)と共存した場合に発生するニッケルカルポニル等については発ガンの危険性があり、十分な環境工学的対策が考慮されねばならない。

●ガスの生体影響

a)一酸化炭素CO

健康人ではCOに高濃度曝露された場合には、吸入したCOの33~50%がとりこまれ、その排出に3~4時間かかる。血液中のヘモグロビンとの親和性は強く酸素の約210倍である。CO-Hb%と症状は表1922)、に示す。COは低濃度曝露(CO-Hb5%)でも神経機能の低下、または不活化が起るので注意が必要である。

b)二酸化窒素NO2

刺戟性ガスとしてのオゾン、二硫化永素、塩素ガスが代表的である。NO2はヘモグロビンとの親和性は酸素よりはるかに強く、約30万倍位といわれる。NOとNO2の関係は表2023)に示すように、発生源別にその比率は大きく変化している。NO2は半減期が約1分である。アーク溶接によりNO2の発生は図1624)に示すように溶接中は急激に上昇する。NO2曝露量と生体への影響は表21に示すように高濃度曝露では遅発性肺水腫を起し危険である。

c)オゾンO3

オゾンは特有の臭気をもっており、強い酸化力がある。生成は185~210nmの紫外線に酸素が照射されることによる。アーク溶接の際に多く発生し、半閉鎖環境での溶接では数ppmの高濃度に曝露される。

また至近距離による測定ではアークから20cmの点が最も高い濃度をみとめた。

TIG溶接におけるオゾン発生の問題について、スウェーデンAGAガス研究開発部で、アルゴンの代用にAGA-MISON(商品名〉のシールドガスを使用することにより、O3発生量を1/3~1/10に滅少できると報告している。NO2は変化がないようである。

またO3発生は図17の如くシールドガスの流れの辺緑で最も発生しまたその発生量はシールドガスの流量に関係すると述べている。25)

オゾンの生体に対する作用は、表22に曝露濃度別に報告例を比較したものを列記した。

0.02ppmで特有の生臭い臭いを感じ、0.1ppmで鼻、のどに刺激を感じることにより、人間の感覚的尺度で一応の作業環境濃度は管理できるが、人間の臭いの慣れがあり、個人差もあり注意が必要である。

濃度上昇につれて上気道から気管支の刺激作用で咳、胸痛を訴え、呼吸機能の低下をみとめる。

1~3ppmでは、ある者は2時間で曝露に耐えられない状態となる。

5ppm以上となると嗜眠性、低血圧をみとめ、呼吸機能の低下をみとめる。

9ppm以上では肺水腫、細気管支炎を起す。動物実験では長期間曝露により肺腫瘍の発生をみている。

溶接では特にTIG、MIGで発生量が多く、防護には十分に注意すべきである。

d)その他

フッ素、フッ化水素は被覆剤中のフッ化物が熱分解、結合して発生し、呼吸器系粘膜の刺激、皮膚炎、骨の異常、肺炎、肺水腫も発症する。ボスゲン、ホスフィンの発生については前述したが、ホスゲンは気道の激しい刺激、肺水腫、肺炎を起し、ボスフィンは、瞳孔散大、気道の刺激、胸部圧迫感と灼熱的疼痛を発生する。