マンガン中毒、港湾荷役作業で初の労災認定 ばく露環境を幅広く認定/大阪港のシリコンマンガン荷役作業

全港湾浪速埠頭分会

港湾の荷役作業に従事した労働者のマンガン中毒症について、大阪西労働基準監督署は労災療養補償給付を行う決定を下した。これまでマンガン中毒は、鉱山や精錬工場など製造工程に直接携わった労働者に多く発生が見られるものの、荷役作業での発生が認められ労災補償が支給されたのは始めて。

マンガン中毒は、古くから知られた職業病で、鉱山、精錬工場での労働者に多発してきた。しかし、日本ではマンガン鉱山の大部分が閉山になり、ほとんどのマンガン鉱石は輸入に依存している。そのことから当然荷役作業を行う労働者にも発生することが予想されはしていた。しかし、国内での発生事例は今までには報告されていなかった。

今回の事例は、大阪港で鉄精錬に使用するシリコンマンガンのバラ荷役を30年間続けてきた㈱浪速埠頭作業の二人の労働者で、いずれも最古参の労働者である。二人の所属する全港湾大阪支部浪速埠頭分会では、おざなりになっていた安全衛生対策を強化する中で、職場健診の充実に取り組み、89年の松浦診療所での特殊健診の実施によってマンガン中毒を発見し、同年に労災補償請求の取り組みを開始した。

しかし、症状面など医学的には明らかではあるものの、マンガンを吸い込んだ作業環境、期間等については資料等は少なく、支給決定までにはいくつかの調査が必要となった。

真っ黒になって仕事をした当時の現場の実態特に、二人はともに荷役作業でクレーンの操作を担当していたため、船倉内で作業を行う労働者と異なり、ばく露濃度を単純に想像できないという困難もあった。大阪支部安全衛生委員会と分会では、たびたび労基署に足を運び、当時のマンガン荷役の状況について説明をした。船倉内での作業者がマスクを着用した際にもクレーンの操作台に乗る労働者は着用する必要がないとされていたこと、かき落とし、かき集めの作業に比べ作業時間が長いこと、バラ荷役のため、粉じんが空中に舞い、操作

台付近も真っ黒になり、風によってはまともに粉じんを受けていたことなどをたびたび説明した。

その結果西労基暑は、マンガン中毒を発生するに足るとされる、労働省の認定基準の「相当濃度」である、「おおむね五㎎/㎡」を必ずしも機械的に判断の基準とするものでないこと、医学的所見を重要視して労基署独自に専門家の意見を聞いた上で当時の現場の実態を充分に考慮に入れ、最終判断を行うことを約束した。

そして二年余りの時間を要することにはなったが、療養補償支給の決定を導き出すことができた。

二人の労働者の内、一人は労災請求直後に定年退職し、残る一人も今年退職する。幸い二人とも症状は余り進行しておらず、通院治療だけを受けているが、全身真っ黒になりながら作業をしてきた証人が職場を去り、分会でも今後の安全衛生対策へ気を引き締めている。

関西労災職業病1991年12月1992年1月合併202号