職場のハラスメント対策法が施行 職場のいじめ・ハラスメントほっとラインを実施、2日間で117件(大阪42件)/全国労働安全衛生センター連絡会議

労働施策総合推進法の改正により、この6月1日から事業主に職場のパワーハラスメント防止対策が義務づけられた。義務違反の罰則規定がないとは言え、初めて法律でパワーハラスメント対策が規定された。全国労働安全衛生センター連絡会議では、この法律の施行の周知もかねて、全国一斉「職場のいじめ・ハラスメントほっとライン」を、6月1-2日の2日間に実施した。コミュニティユニオン全国ネットワークの協力も得て、札幌、東京、名古屋、大阪、福岡の5ヶ所で、労災職業病センターや労働組合の相談員が、電話に対応した。

パワーハラスメントの初の法制化で、社会的にも注目を集めていた法律であったが、世界中で猛威を振るった新型コロナウィルス感染症(COVID-19)のために、思ったよりも関心を集められなかった。COVID-19による緊急事態宣言が解除されてこの6月1日から業務や学校の授業が正常化するのと重なり、マスコミ報道が振るわなかった。それでもなんとか新聞やテレビ、ネット記事などの報道協力を得て、全国で合計117件の相談電話を受けた。内訳は、札幌18件、東京24件、名古屋21件、大阪42件、福岡12件だった。

電話を掛けてきた人は、男性39人、女性76人で圧倒的に女性が多かった。また、年齢では、50歳代が21人で一番多く、つぎに40歳代が15人、他は10-20歳代が6人、30歳代、60歳以上は5人ずつだった。無回答も多かったので、特にパワハラに遭いやすい年代というわけではなく、今回電話をかけてみようと考えた人たちの傾向と考えておくべきだろう。

雇用形態では、正社員が50人、非正規が33人その他は無回答だった。非正規の内訳は、パート11人、アルバイト3人、派遣社員3人など、他に契約社員や嘱託職員、期間工などだった。
仕事内容や業種については、非常に様々だった。すべての相談について、職業を把握できたわけではないので、聞き取りできた分だけの集計となる。

医療・福祉関係の職場の労働者からの相談が一番多く、20件ほどで、看護師、臨床心理士、歯科衛生士、介護士、検査技師、施設の保育士や職員、病院の送迎車運転手などだった。国家公務員、地方公務員、あるいは公共施設の職員からの相談も9件あった。宿泊施設や飲食店の労働者が6件、教師や大学職員、塾などの教育関係が4件、自動車部品や食品などの工場労働者4件、タクシー、トラック、バスなど運送業4件などだった。他、倉庫作業労働者、弁護士事務所勤務、コールセンター、衣料品店、銀行、ペットトリミング業務、新聞販売店、スーパーマーケットなどなど多岐にわたった。

ハラスメントの行為者は、上司が77件と圧倒的に多く、うち21件が社長、支店長、園長、施設長など職場のトップによるものだった。他には、部長、事務長、主任、チーフ、料理長など。同僚からのハラスメント21件のうち多数が先輩労働者だった。顧客や取引先からのハラスメントが2件、会社の人事的な行為によるものが13件だった。

相談の内容であるが、一応、分かる範囲で厚生労働省のパワーハラスメントの6類型に当てはめてみると、「身体的な攻撃」が9件、「精神的な攻撃」88件、「人間関係からの切り離し」23件、「過大な要求」7件、「過小な要求」11件、「個の侵害」4件だった。
しかし、6類型には当てはまらない内容も多かった。
パワハラにあってメンタル不調となっているという相談も多く、すでに休職中であったり、あるいは退職してしまったという相談もいくつもあった。

「精神的な攻撃」が多かったように、暴言・誹謗中傷、ひどい叱責をされるというハラスメントのほか、シフトを減らされたり、仕事を回してもらえなかったり、退職を迫ったりという個人からではなく会社による差別待遇、不当な行為の相談も何件もあった。その中には、COVID-19がらみで、仕事が減って退職や配置転換を迫られているというものも数件あった。

相談への対応は、証拠集めや会社とのやりとりへのアドバイス、具体的に行動したい人には近くのユニオンを紹介した。組合や第三者の介入が難しい、あるいは望まない場合は、労働局の相談窓口を教え、個別労働紛争解決制度などを利用するようアドバイスした。

パワハラ防止対策はまだ大企業にのみ義務が課されただけで、中小企業への適用は2022年4月からである。劇的に何かが変わることはないが、地道に措置義務があることを周知し、ハラスメントには会社が対応しなければいけないという意識を持っていくことが大切だと思う。職場内の雰囲気が変わっていくきっかけになることを望む。(田島陽子)

関西労災職業病2020年6月511号