広島地裁に新たに提訴-建設アスベスト訴訟~被害者8名(原告15名)、被告は建材メーカー6社/広島

今回提訴にあたって
藤井裕弁護士
(アスベスト訴訟関西弁護団・広島アスベスト訴訟弁護団)
2025(令和7)年3月28日、広島地裁への初めての提訴を行いました。被害者8名について、遺族12名を含む15名を原告とし、被告は建材メーカー6社、損害賠償請求総額は2億8800万円です。
被災労働者8名の職種(疾病)は、大工(肺がん2名、中皮腫1名、びまん性胸膜肥厚1名)、内装工(中皮腫1名)、ダクト工(肺がん1名)、保温工(中皮腫1名)、サッシの取付作業者(中皮腫1名)。
死亡被害者5名の死亡時年齢はそれぞれ54歳、69歳、73歳、77歳及び80歳でした。
被告のメーカーは、ニチアス株式会社、株式会社エーアンドエーマテリアル、株式会社エム・エム・ケイ、太平洋セメント株式会社、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社、積水化学工業株式会社の計6社です。
2020年(令和2年)12月の大阪地裁への関西弁護団による第1次提訴から4年余り経っての広島地裁提訴となりましたが、先に進んでいる大阪地裁の裁判の中では証拠や主張が積み重ねられてきています。広島地裁の事件でも、それらを利用しながら早期の解決を目指します。全国各地の裁判所で、建材メーカーの責任を認める判断、判決は、2024年末までに約20に及んでいますが、未だ建材メーカーは全国の個別被害者への責任を争っています。1日も早く、建設アスベスト被害の全体解決・救済を実現できるよう頑張りましょう。

【記者会見コメント】
原告・山本壽雄さん
私は、山口県宇部市の山本です。
会社の健康診断において、肺の異常を指摘され、山口医大を受診したところ右肺の肺がんと診断されました。すぐに手術をうけ、右肺上部の3分の1を摘出しました。
長年にわたり、建設関係の仕事をしていたので、アスベストが含まれる建材を切断したり、加工したので、その際に知らず知らずのうちにアスベストを吸い込みました。
労災保険の手続きをおこない、私の肺がんはアスベストによる肺がんであると認定されました。
今も定期的に病院に行っていますが、いまだに、手術のあとにずきんという痛みを感じることがありますし、息苦しさを感じます。また、いつ肺がんが再発するのかの不安をいつも持っています。
建設の仕事をしてきましたが、建材の中に身体に悪いアスベストが含まれていることは知らされていませんでした。マスクを着けるようにと教えてもらったこともありませんでした。
肺がんになったことで私の人生は大きくかわりました。建材メーカーは、危険だと知りながら私たちに使用させたことをあやまって欲しいと考え、今回の裁判に参加することにしました。皆さんのご支援をお願いします。
関西訴訟の現状と全国の状況
位田浩弁護士
(アスベスト訴訟関西弁護団)
1 アスベスト訴訟関西弁護団は、2020(令和2)年12月21日に原告被災者3名で大阪地方裁判所に初めて提訴しました。被告は国と建材メーカー11社でした。その後、2023(令和5)年8月30日の第7次提訴まで行っています。現在の原告は被災者数で27名、被告は建材メーカー12社です。
この間、2021(令和3)年5月17日、先行する東京1陣訴訟など4つの訴訟について最高裁判決が出され、国と主要な建材メーカーの責任が認められました。最高裁判決を受けて、国は、被災者に対して謝罪を行うとともに、国を訴えていた原告団・弁護団との間で基本合意書を締結して和解による解決を図ることになりました。また、同年6月には建設アスベスト給付金制度が立法化され、訴訟によらないで国が一定の給付金を支払う体制が整備されました。
他方で、建材メーカーは、最高裁で確定した分は損害賠償を履行しましたが、東京高裁に差し戻された東京1陣訴訟をはじめとする全国の訴訟において、個々の被災者との関係で、建材到達事実や法的責任を争いつづけています。このような建材メーカーの訴訟対応のため、各地の裁判は長期化しています。
2 私たちの関西1陣訴訟においても、建材メーカーは責任逃れの主張をくり返しているため、それに対する反論を行っています。最高裁判決により建材メーカーの警告義務違反が認められたことから、あとは、各被災者が被告となっている建材メーカーの石綿含有建材を取り扱ったこと(建材到達事実)を主張・立証することが重要になります。使っていた建材のメーカー名が特定できればいいのですが、分からない場合であっても、建材の種類が分かれば、いわゆるシェア論により特定の建材メーカーの建材を使用していた蓋然性を主張・立証することが可能となってきます。
具体的な立証については、生存原告の皆さんは中皮腫や肺がんなどの悪性疾患にかかっておられることから、早急に本人尋問を実施すべきと考え、裁判所へ証拠保全の申立を行いました。2024(令和6)年1月から5月にかけて、大阪地裁、福岡地裁、鳥取地裁において11名の本人尋問を実施しました。その後、尋問の結果をふまえて、原告ごとの石綿曝露状況や被害状況等に関する補充主張を行いました。
また、遺族原告の皆さんについては、被災者といっしょに働いていた同僚の陳述書や遺族原告の陳述書を提出するとともに、同僚証人及び原告本人の尋問を行うよう裁判所に請求しています。
関西1陣訴訟は、次回の7月1日の裁判期日をもって、裁判所の主張整理がおおむね終了することになっています。今秋以降に遺族原告関係の立証に入っていく予定です。
なお、関西弁護団は、高松地方裁判所においても、原告が被災者3名、被告が建材メーカー4社となる建設アスベスト訴訟を行っており、こちらの裁判も今年6月に本人尋問を実施する予定です。
3 ところで、2021(令和3)年5月の最高裁判決以降も、建材メーカーが責任を争っているため、京都、神奈川、大阪、北海道、九州など全国各地の訴訟で勝訴判決が出ており、主要な建材メーカーの責任が認められています。
そういう中、昨年12月に東京1陣訴訟、今年1月に東京2陣訴訟、今年2月に大阪2陣3陣訴訟について、係属している高等裁判所から、建材メーカーの賠償責任を認める内容の和解案が提示されました。それまでの立証を踏まえて、裁判所が言い渡す予定の判決内容をベースとした和解案であり、建材メーカーが各原告に一定の賠償金を支払うことを内容としています。原告団・弁護団は、早期解決のため、いちはやく裁判所の和解案を受け入れることを表明し、建材メーカーに対して和解案に応じることや今後の和解解決のために継続協議をすることなどを求めています。しかし、建材メーカー側は、裁判所の和解案についても難色を示しているようです。現在は裁判所をはさんで水面下の和解協議が行われている状況にあります。もしも和解交渉が決裂したときは、この和解案に沿った判決が言い渡されることになるでしょう。
4 被告の建材メーカーは、最大のアスベスト被害を引き起こした張本人です。責任を認めて裁判所の和解案に応じるべきです。今後、その解決水準をもとに、全国各地の訴訟において、アスベスト被災者の救済を図るのが建材メーカーの責任のはずです。
私たちの関西1陣訴訟においても、しっかりと主張・立証を行い、勝訴判決を得ることが求められています。ただ、提訴後に5名の生存原告が亡くなられています。関西弁護団は、早期の解決を獲得するべく全力を尽くしたいと考えています。
(建設アスベスト関西訴訟を支援する会ニュース【第4号】より転載)
関西労災職業病2025年6月565号
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