過労死防止大阪センター第11回総会・シンポジウム参加レポート~変則的に働く人に手助けを~/大阪

初夏の日差しも暮れた2025年4月25日の午後6時30分、エル・おおさかの研修室2にて、過労死防止大阪センターの第11回総会・シンポジウムが開催された。
過労死防止大阪センターは、「過労死等防止対策推進法」が2014年6月20日に成立、11月1日に施行されたことを受けて作られた団体で、国及び大阪府並びに府下自治体の過労死等防止対策とも連携しつつ、大阪において過労死等の防止と救済に取り組むことを目的として活動している。
今回の総会・シンポジウムには、団体の会員のみならず、一般参加者もあり、会場がほぼ埋まるほどの人数が集まった。また、zoomでのオンライン参加もあり、過労死について問題視している人が多くいることに力づけられた。
総会では、去年の活動の振り返りと来年の活動方針の決議が行われた。シンポジウムは、「『新しい働き方』にひそむ労働問題」というテーマで開催され、リモートワークや複数事業所での兼業、スキマバイト、公務員の公益通報に関わる問題などの事例を通じて、現状や課題が報告された。どれも参考になることが含まれており、有意義な時間だったと思う。このレポートでは、そんなシンポジウムでの報告で、特に気になったことを書いていく。

過労死防止大阪センター事務局長 北出茂氏

まず、大阪労働局労働基準部監督課長の嘉副(かぞえ)崇夫氏からの報告だ。2023年までの労働時間や労災件数に関する数値の推移、2024年8月2日に改正が閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」、大阪労働局の取組の説明があった。
報告中の「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」というグラフでは、2003年から2023年までの、全雇用者に対する上記の者の割合が表示されていた。基本的に、年代が進むにつれてだんだん割合が減っているのだが(2003年は12.2%、2023年は5.0%)、2019年度の値から2020年度の値にかけて特に大きく減っている(6.4%から5.1%)。これは、当時のことを考えると、新型コロナウイルス感染症の流行が原因の一つだと推測される。興味深いのは、その後2021年~2023年にかけて、コロナ感染症のピークが過ぎても、割合が元に戻るのではなく、横ばいのままということだ。コロナウイルスの流行は、良くも悪くも皆の働き方に大きな影響を与えたのだろう。少なくとも雇用者にとっては、残業時間が減る方向の変化で良かったと思う。
また、「業種別の60時間以上の雇用者割合」という表をみると、運輸郵便が1位で2023年に18.5%、続いて宿泊・飲食サービスが16.0%、教育・学習支援業が15.9%となっている。気になるのは、教育・学習支援業の割合が増加傾向にあることだ。近年、教職員のオーバーワークに焦点が当てられたニュースをよく見かけるようになったが、それに拍車がかかっているということだろうか。教育関係の仕事の労働環境も注意して活動しないといけない。
次に、弁護士の笠置裕亮氏の、リモートワークに関するアンケート調査の結果と、リモートワークをしていた労働者の労災事例の報告である。報告を聞いて驚いたのは、労働基準法の38条2第1項に、事業場外労働の労働時間のみなし制度について規定があるということだ。それは「下記の2つの条件を満たしつつ事業場外で労働している雇用者で、労働時間の算定が難しい場合は、所定労働時間労働したものとみなす」というものである。言葉だけ見ると、リモートワークは残業時間を無視して所定時間だけ働いたとみなすということであり、恐怖の規定だが、2つの条件が割と厳しく、それは
(1)情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
(2)随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
の二つである。要は、使用者が労働者と常時連絡を取れるようにしてなくて、かつほぼ指示無く自由に仕事をやらせていて、さらにその人の具体的な労働時間がわからない場合は、会社の所定の時間だけ労働したことにするという規定だ。
そう聞くと、連絡も取れない状態で、労働者に自由に仕事をやらせることなんて実際には滅多にないだろうと思えるのだが、しかし、この規定が適用されてしまい、問題になる事例が少なくないとのことである。
今回報告された事例は、在宅勤務している労働者で、業務時間が膨大だったため精神失調を起こしたというものだった。この件も、下手をしたら所定時間だけ労働したとみなされるところだったが、上司の指示のメールが頻繁に送られていたことで、情報通信機器が通信可能な状態にあることを暗に指示されており、また、随時指示があったものとして、このみなし制度の適用を防ぐことができたとのことだ。私も、将来事業場外労働の残業問題に当たった時は、上記の規定を念頭に置いて対応しようと思う。
3つ目に、弁護士の村田浩治氏から報告された、スポットワークのリスクについてである。スポットワークとはいわゆるスキマバイトで、1日や長くて数日程度の、短期間のアルバイトのことだ。そして今回は、そのスキマバイトをマッチングアプリで探して就労するケースのリスクについて説明していただいた。報告では、かなり多くの問題点について指摘しており、着替えの時間や作業の研修時間、早上がりで繰り上がった時間が作業時間にならずに給料が支払われない、社会保険に入ってないので労災が請求できない、作業内容が提示されていたものと違うなどが挙げられる中、私が特に気になったのは、評価システムの利用方法についてである。
こういうマッチングアプリの評価システムは、大抵、雇用主(アプリの管理者でなく、バイト先の責任者)からの労働者への評価と、労働者からの行った仕事や雇用主への評価の双方向で点数がつけられるようになっているとのことだ。スポットワークの場合、基本的に労働者とその仕事は一期一会なので、職場の改善が行われにくい。もし行われるとすれば、それはこの評価システムを使って、多くの労働者が、悪条件の職場を低評価にした場合だろう。そうすれば、新規の労働者はそんな低評価の職場を選ばなくなっていく。しかし、それはできないという。なぜなら、勤めた先に低評価を付けると、それが雇用側に伝わり、雇用側から低評価をつけられたり、明らかにその低評価を付けた人への求人が減るというのである。本当なら大変な話だ。ただ、この話は、東京新聞の、ある個人へのインタビューでの一節なので、本当にそうなのかはわからない。だが、インターネットで軽く調べただけでも、そういう意見が大量に出てくるので、実際にどうかはともかくとして、多くの人がこの疑惑をもっているということである。すると評価は忖度されてしまい、職場改善は起こらない。非常に危険な状態だ。
正直に言うと、私も、スキマバイトのような、あとくされのない働き方は好きだ。なので、本当にスキマ時間でやる人はもちろん、そういう働き方をメインにする人がいるのもわかる。だから、そういう人たちのために、まず安全面から、ちゃんと職場改善が行われるように制度を作っていかないといけない。

シンポジウムで特に気になったことの報告は以上だ。
様々な働き方が生まれれば、様々な問題が生まれる。今後、安全センターにもリモートワークやダブルワーク、スポットワークなどの新しい相談が増えるだろう。今回の報告を少しでも生かして、相談者の手助けができるよう活動していく。

(事務局 種盛真也)

関西労災職業病2025年5月565号