照度基準引き上げ、独立個室型便所の位置づけ~事務所衛生基準規則の改正

事務所における衛生基準を定めた事務所衛生基準規則(以下、「事務所則」という。)が改正され、この12月1日に公布された。主な改正内容は、作業面の照度基準の引き上げ、便所の設置基準、救急用具の内容の改正などとなっている。ここでは照度基準と便所の設置基準の改正について紹介する。

どこの事務所もそんなに暗くない/時代遅れの照度基準を改正

従来の事務所則の照度基準は次のようなものだった。

第10条 事業者は、室の作業面の照度を、次の表の上欄に掲げる作業の区分に応じて、同表の下欄に掲げる基準に適合させなければならない。ただし、感光材料の取扱い等特殊な作業を行なう室については、この限りでない。

作業の区分基準
精密な作業300ルクス以上
普通の作業150ルクス以上
粗な作業70ルクス以上

2 事業者は、室の採光及び照明については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法によらなければならない。
3 事業者は、室の照明設備について、六月以内ごとに一回、定期に、点検しなければならない。

JIS(日本産業規格)が2010年に示している基本的な照明要件によると、「ごく粗い視作業、短い訪問、倉庫」で100ルクス、「粗い視作業、断続的に作業する部屋(最低)」で200ルクス、「普通の視作業」では500ルクスとされている(JIS Z 9110)。したがって従来の最低基準である「粗な作業」で70ルクスというのは不適切ということになる。70ルクスがどのぐらいの明るさかというと、夜間の路上で街灯の下にいる明るさというのだから、作業をする環境としてはいかにも暗すぎる。

そもそもの事務所則の基準が、昭和46(1971)年の制定時のままになっているため、まったく時代にそぐわないままで、現在まで経過してきたということに問題があるといえよう。

今回の改正では、第10条第1項の表(上)を次のように改めることとした。

作業の区分基準
一般的な事務作業300ルクス以上
付随的な事務作業150ルクス以上

「一般的な事務作業」とは、改正前の「精密な作業」と「普通の作業」のことをいい、「付随的な事務作業」とは「粗な作業」に該当する。しかし現実にはJIS Z 9110の規定では、「精密な作業」で1000ルクス、「超精密な作業」で2000ルクスが推奨されていたり、基準はあくまで最低基準であり、作業に応じた照度が必要なことは明らかだ。行政通達では「個々の事務作業に応じた適切な照度」について、「事業場ごとに検討の上、定めることが適当」とした。

また、高年齢労働者が増加していることから、すべての労働者に配慮した視環境を確保するため、個々の作業面における照度の適切な確保が重要としている。

ただ、今回の照度基準の改正は、事務所則に限られており、すべての職場に適用される労働安全衛生規則の同様の規定(第604条)はそのまま変更されていない。

あまり議論されないのに、不可欠な衛生設備である便所

便所の設置基準がどうなっているか。安全衛生対策に取り組んできた人たちでも、意外に従来の規定をよく知らないということがある。従来の規定は次のとおりだ。

第17条 事業者は、次に定めるところにより便所を設けなければならない。
一 男性用と女性用に区別すること。
二 男性用大便所の便房の数は、同時に就業する男性労働者60人以内ごとに1個以上とすること。
三 男性用小便所の箇所数は、同時に就業する男性労働者30人以内ごとに1個以上とすること。

四 女性用便所の便房の数は、同時に就業する女性労働者20人以内ごとに1個以上とすること。
五 便池は、汚物が土中に浸透しない構造とすること。
六 流出する清浄な水を十分に供給する手洗い設備を設けること。
2 事業者は、便所を清潔に保ち、汚物を適当に処理しなければならない。

まず、男性用と女性用を区別することが原則であって例外はない。そのうえで、同時に就業する人数に応じて便房の数や小便所の数が設定されている。たとえば住居用にできているマンションの一室を事務所として使用している場合、普通、便所は一つなので、そもそもが違反状態ということになる。ただこの違反は見過ごされてきただけだった。

男性用女性用は原則だが、10人以下の独立個室型は1か所でOKに

今回の改正では、男性用、女性用の区別は原則としながら、少人数(同時に就業する労働者が常時10人以内)の作業場において、独立個室型の便所で足りることとした。この「独立個室型」とは、男性用と女性用を区別しない四方を壁等で囲まれた一個の便房により構成される便所のことだ。つまり、便房ごとにパーティションで区切られ、上部と下部に隙間が空いているものは独立個室型とは言わない。たとえば車いす対応のバリアフリートイレなどはこの独立個室型に含まれる。

ただ、この少人数での例外規定については、パブリックコメントでたくさんの批判が寄せられたという。男女別に例外を設けることは、性犯罪などの社会問題がある中で基準の後退であるというものだ。

この点について、行政通達は次のように説明する。

「イ 便所の設置に関する例外(第17条の2第1項関係)
① 作業場に設置する便所については、作業場の規模にかかわらず男性用と女性用に区別して設置することが原則である。一方で、住居として使用することを前提として建築された集合住宅の一室を作業場として使用している場合など、便所が1箇所しか設けられておらず、建物の構造や配管の敷設状況から、男性用便房、男性用小便所、女性用便房の全てを設けることが困難な場合もある。このような場合についても例外なく、便所を男性用と女性用に区別して設置する原則を適用した場合、作業場の移転や便所の増設に必要なスペースを確保することによる作業環境の悪化などが生ずるおそれがあることから、同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合は、独立個室型の便所を設置した場合に限り、例外的に男女別による設置は要しないこととしたものであること。
② 本条は便所を男性用と女性用に区別して設置する原則の適用が困難な作業場における例外規定であり、同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合においても、可能な限り便所は男性用と女性用に区別して設置することが望ましいことはいうまでもないこと。
③ 同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合であって、既に男女別の便所が設置されている場合において、本条を根拠に便所の一部を廃止し、又は倉庫等他の用途に転用することは、本条の趣旨を踏まえれば、不適切な対応であり、許容されるものではないこと。
④ 新たに作業場を設ける場合(建物を新たに設置する場合のほか、既存の建物の一部を賃貸等により作業場として使用する場合も含む。)については、当該作業場で同時に就業する労働者の数が常時10人以内である場合には、独立個室型の便所を1箇所設ければ足りるものであるが、同時に就業する労働者の数が常時10人を超えた場合には、直ちに法違反となる一方、便所の増設は容易ではないことを踏まえれば、あらかじめ男性用と女性用に区別した便所を設置しておくことが望ましいこと。」

つまり、建物の構造の理由からやむを得ない場合などの例外であることが、行政解釈上ではあるが、強調された上での例外措置であるということになる。

独立個室型便所設置で/人数要件を緩和

また、男性用と女性用を区別した便所を設置した上で、独立個室型の便所を設置する場合は、男性用大便所の便房、男性用小便所及び女性用便所の便房をそれぞれ一定程度設置したものとして取り扱うことができるものとしている。具体的には、男性用大便所又は女性用便所の便房の数若しくは男性用小便所の箇所数を算定する際に基準とする当該事業場における同時に就業する労働者の数について、独立個室型の便所1個につき男女それぞれ10人ずつ減ずることができる。

表現上ややこしいが、便器の必要数を数えるとき、独立個室型を一つ設けていれば、10人ずつ減らせるということだ。

その他、行政通達では、独立個室型の要件について、つぎのように明確に規定している。

「⑤ 「独立個室型の便所」とは、男性用と女性用に区別しないそれ単独でプライバシーが確保されている便所のことをいい、仕切り板又は上部若しくは下部に間隙のある壁等により構成されている便房からなる便所と対をなす概念の便所であること。「壁等」とは、視覚的、聴覚的観点から便所内部が便所外部から容易に知覚されない堅牢な壁や扉のことをいい、「四方を壁等で囲まれた」とは、全方向を壁等で囲まれ、扉を内側から施錠できる構造であることをいうこと。
なお、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律施行令」(平成18年政令第379号)に規定されている車椅子使用者用便房やオストメイト対応の水洗器具を設けている便房からなる便所についても、上記要件を満たす場合は、当然、独立個室型の便所に該当するものであること。
⑥ 独立個室型の便所は、施錠できることが要件とされているが、便所の使用に際し、(i)内部に他者が侵入し、施錠された場合に退避困難となること、(ⅱ)施錠された便所内で体調不良者が発生した場合に救護等が困難となること等から、便所内に容易に押下することができる非常用ブザー等の設置や、異常事態発生時に外部から解錠できるマスターキーを事業場管理者が有しておくことなど、非常事態を想定した対応を衛生委員会等で調査審議、検討等を行った上で定めておくことが望ましいこと。」

さらに、制定したころからの時代の移り変わりを感じさせる改正もいくつかある。「カードせん孔機」の事務作業(第1条、第12条)などは見かけなくなって久しいし、睡眠や仮眠の場所に備える用品に「かや」はもはや必要ないので削除している。

事務所の安全衛生対策をあらためて見直そう

事務所の衛生基準というものは、きわめて多くの職場の日常に関わるものであり、必要不可欠な職場環境を律するものであるにもかかわらず、あまり議論のテーマとはなってこなかった。とくに今回改正された、便所をどう設置するかという問題は、快適な職場環境を整えるうえで、きわめて大切であるにもかかわらず衛生委員会等での議論の俎上の上がることも少ないのではないだろうか。そういう意味では、事務所則改正を今後の安全衛生対策を進めるうえで、一つのきっかけとしてみるのもよいのではないだろう。

関西労災職業病2021年11・12月527号