石綿(アスベスト)健康被害救済法改正への3つの緊急要求~格差とすき間をなくせ/治療研究に基金活用を/時効救済の延長継続を
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
中皮腫をはじめとするアスベスト疾患の患者・家族の団体である「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」が、法施行から15年を迎えた「石綿健康被害救済法」改正を求める緊急要求をかかげて運動を展開している。
全国会議員の法改正への賛同署名を集める取り組み、国会議員地元での陳情など、今後の法改正議論の開始を念頭に努力している。
本誌連載「死ぬまで元気です」の執筆者である右田孝雄氏(患者と家族の会関西支部・全国事務局、NPO中皮腫サポートキャラバン隊理事長)も精力的に動き回っている。
当安全センターは患者と家族の会全国・関西支部事務局として、救済法改正実現のためともに運動を進めているところだ。
患者と家族の会が作成した「三つの緊急要求」パンフレットを以下に紹介する。多くの皆さんのご理解とご協力を心から訴える。(以下、パンフレットから)
私たちが「要求」をまとめた理由
2016年12月に中央環境審議会環境保険部会石綿健康被害救済小委員会が取りまとめた、「石綿健康被害救済制度の施行状況及び今後の方向性について」では、同制度の5年以内の見直しが必要であるとされています。
2021年12月には、この報告書が取りまとめられてから5年が経過します。治療環境の変化や新たな司法判断が出されるなど、制度をとりまく状況は大きく変化しています。
私たちは、「命の救済」の実現と「すき間」と「格差」のない石綿健康被害救済法(以下、救済法)の抜本的な見直し求めます。
1 「格差」のない療養手当と「すき間」をなくす認定基準の見直し
制度設計時から、石綿健康被害をとりまく社会状況は大きく変化しています。
例えば、2021年5月17日に最高裁判所が建設労働者らに対する国の責任を認定しています。国が責任のあり方について改めて検討し、石綿健康被害救済制度を「救済」から「補償」に変える抜本的な見直しに着手する必要があります。
それが直ちに困難であるとしても、少なくとも石綿健康被害救済法1条を改正し、「健康で文化的な生活の確保」を明記した上で、具体的には生存権を確保するために生活保護費(単身者)を参考にして療養手当の倍増を図るか、後述①②③のような新たな給付を設けることが考えられます。その上で、消費税や物価変動に対応するため、給付額の見直しのための検討の場を毎年設けることも必要です。
石綿肺がんは中皮腫の少なくとも2倍以上の被害者がいるとされていますが、申請・認定者数が10年以上伸び悩んでいます。
最大の原因は、石綿肺やびまん性胸膜肥厚にある「ばく露歴」が判定に用いられていないことにあります。
石綿肺についても、労災では認定される続発性気管支炎などの「合併症」が認定のための判定基準から外されています。
建設業界における一人親方などを救済するため、労災と同様の石綿ばく露基準を採用する必要があります。
被災者の個別状況に応じた、新たな給付の新設を!
- 発症前の所得状況などを加味し、「特別療養手当」や「療養者家族手当」などを設定して支給。
- 交通費、差額ベット代、介護保険制度の利用に係る実費について「療養支援手当」を設定して支給。
- 救済給付調整金とは別に、遺族に対して年金ないしは一時金、および就学児のいる家庭には就学援護費を支給。
2 治療研究促進のための「石綿健康被害救済基金」の活用
アスベスト健康被害の中でも、とりわけ中皮腫はいまだに根治が難しく、予後も2年程度の厳しい悪性腫瘍です。2018年にニボルマブ(オプジーボ)が二次治療薬として承認されてから、わずかに治療選択の幅が広がりました。治療環境の改善をさらに図っていくことは急務です。
しかしながら、研究資金が十分に確保されておらず、中皮腫の治療法開発にとっては不十分な状況が続いています。たとえば、岡山労災病院ほかで実施された「オプジーボ+アリムタ+シスプラチン」の三剤併用療法において高い奏功率を示した第二相試験に続く「第三相試験」をはじめとする新規治療が、研究費不足などの関係で実施できない状況にあります。
このような有望な治療研究に全面的な資金投入をして、「命の救済」へ具体的支援を行い、患者と家族が中皮腫を克服できるための治療研究の開発に向けて、大きく前進していかなければなりません。
救済法では、認定者への給付の支払いのために「石綿健康被害救済基金」を設置していますが、令和2年度までの約5年間の残高が約800億円のまま推移しており、消化する見込みも全くありません。そこで、石綿健康被害救済法第1条の(目的)に「治療研究の推進」を加え、基金から治療研究分野への積極的支出を行うべきです。
この法律は、石綿による健康被害の特殊性にかんがみ、石綿による健康被害を受けた者及びその遺族に対し、医療費等を支給するための措置を講ずることにより、石綿による健康被害の迅速な救済を図ることを目的とする。
石綿健康被害救済法【第一条 目的】
3 待ったなしの時効救済制度の延長
労災時効となった遺族を対象とした特別遺族給付金について、一部被災者(2016年3月27日以降の死亡者遺族)の請求権が無くなっており、2022年3月28日以降は被災者の死亡から5年を経過したすべての遺族の請求権が無くなってしまいます。法改正をして、請求権を無期限で延長する必要があります。
なお、船員保険受給者の遺族補償に関して、年金受給している遺族がいない場合はその他の遺族へ何の給付もされておらず、同給付金の対象として一時金を支給する必要があります。
石綿救済制度の特別遺族弔慰金・特別葬祭料にかかる法施行前の中皮腫および肺がん死亡者の遺族の請求権が2022年3月28日以降に無くなってしまいます。法改正をして、請求権を無期限で延長する必要があります。
関西労災職業病2021年11・12月527号
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