基金参加を拒む建材メーカーへの大量提訴方針を宣言~建設アスベスト訴訟全国連絡会

建設アスベスト訴訟全国連絡会は、2021年6月16日、声明を出し、あらたに設立される補償のための基金による給付金制度を一定の成果と評価する一方、未だに同制度への参加を拒否している建材メーカーに対して、基金への参加を要求すると共に、建材メーカーへの大量提訴をもって建材メーカーを追い詰めていくことを「宣言」した。

建設アスベスト訴訟最高裁判決(2021年5月17日)を受け、6月9日には「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立した。来春には法施行予定となった。給付のための基金が特別行政法人労働者健康推進機構に設置される。

これにより、国の損賠賠償責任については、この新たな基金による給付金制度において行政認定により果たされていくことになった。基本的に裁判によらない、基金制度による補償制度の実現である。

制度概要は次の通り。

  • 支給対象:石綿吹付け作業(1972年10月~75年9月)、一定の屋内作業(75年10月~2004年9月)に従事した労働者や一人親方等
  • 被害者の請求により、厚生労働省の審査会が審査、認定すれば、給付金を支給する
  • 独立行政法人・労働者健康安全機構に支払いのための基金設置

ところが、この給付金制度への参加(基金拠出)を、最高裁判決で敗訴確定した建材メーカーすら参加を拒んでおり、更に、個別訴訟での争いを続ける姿勢を崩していない。

これに対して、全国連絡会は以下の声明を出し、建材メーカー各社の不当性を訴えるとともに、さらに世論を喚起し、建材メーカーの基金参加を実現するために、さらに建材メーカーに対する大量提訴などをもって臨んでいくことを宣言した。

声 明

2021(令和3)年6月16日
建設アスベスト訴訟全国連絡会

1 本法成立の経過概要
本年6月9日、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が今国会において可決、成立した。
本法が成立に至った経緯の概要は、以下のとおりである。すなわち、本年5月17日に言い渡された、国の規制権限不行使の違法と建材メーカーの共同不法行為責任を認めた最高裁判決を踏まえて、与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム(以下「与党PT」という。)が、①係属中の訴訟の統一解決、②建設アスベスト給付金制度の創設、③建材メーカーの対応の在り方についての検討等をとりまとめた。
これを受けて、翌18日午前、菅義偉総理大臣が首相官邸に原告団、弁護団及び建設アスベスト訴訟全国連絡会(以下「全国連絡会」という。)の代表を招き、被害者・遺族への真摯な謝罪表明を行うとともに、現在係属中の訴訟の全面的解決と未提訴被害者の権利救済について指示した。
そして、同日夕方、田村憲久厚労大臣と原告団、弁護団及び全国連絡会の代表との間で「基本合意書」が取り交わされた。この基本合意書では、第1に田村厚労大臣から改めて被害者・遺族に対する謝罪の意が表明され、第2に最高裁判決以前に提訴された係属中の訴訟の和解についての基本方針が、第3に最高裁判決時点において未提訴の被害者に対する補償の内容がそれぞれ示され、さらには第4に石綿被害の再発防止対策や被害者に対する補償に関する事項等について全国連絡会と継続的に協議することが合意された。
本法は、これらに基づき未提訴被害者に対する救済制度を具体化するものとして、全党・全会派が賛同した議員立法として国会に提出され、可決、成立したものである。

2 本法の評価と課題
本法の給付金制度は、雇用労働者のみならずいわゆる一人親方や中小事業主も含め、1万人を超える現在の建設アスベスト被災者に加えて、今後30年間に新たに発生すると推計される約2万人もの被災者も救済対象とした。そして、簡易迅速な救済のため、裁判を起こすことなく、行政が給付を認定する制度としたことも評価される。給付額は症状の程度に応じて550万円~1300万円であり、症状が悪化した場合は差額分が追加給付される。
しかし、最高裁判決が違法の始期や屋外作業者に対する責任という点において線引きを行ったため、給付金制度にもかかる格差が持ち込まれた。これらの点については後続訴訟や本法附則第2条に基づく今後の法改正で隙間のない救済を実現する必要がある。
そして、最大の課題は、今回の最高裁判決で国にとともに責任を断罪された建材メーカーが、不当にも未だに係属中の訴訟で加害責任を争い、補償基金制度への参加や拠出を拒んでいることである。建設アスベスト被害に対する完全な賠償を実現するためには、建材メーカーによる補償基金への拠出が不可欠である。そのため、建材メーカーに対する大量提訴などに取り組み、世論をいっそう喚起し、与党PTをはじめ国会議員の方々のお力をお借りして、完全な補償基金制度実現に向けて奮闘していく所存である。

以 上