建設アスベスト訴訟最高裁判決、国・建材メーカーの責任確定/原告・弁護団が声明2021年5月17日

建設アスベスト訴訟最高裁判決記者会見(大阪会場)にて

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すべてのアスベスト被害救済への大きな一歩

建設アスベスト訴訟について最高裁判所(第一小法廷・深山卓也裁判長)は、5月17日午後3時、初めての判決を言い渡した。

判決は被告である国と建材メーカーの賠償責任を認める画期的判決なった。

しかしながら「屋外労働者に対する賠償責任を認めない」という点は、明確に糾弾されるべきである。

今回の最高裁判決の対象は、横浜、東京、京都、大阪の各地裁に提訴された各第一陣訴訟であったが、現在進行中の他の訴訟の行方を決する判決となる。

建設アスベスト訴訟の現在の規模は原告数で1200人余りといわれている。また、提訴を準備中の被害者、今後発生するだろう被害者を含めるとどの程度の建設関係被害者が出るのかはまったくの未知数。さらに、アスベスト被害の半数以上を占めるとされる建設アスベスト被害の救済の道筋が一定つくとはいえ、その周辺被害を含めて労災補償を受けられず、石綿救済法による低水準の救済給付に止まっている被害者、制度的救済を受けていない被害者など石綿被害救済制度については多くの問題がある。

今回の判決が、そうした問題解決の一里塚になるかどうかは今後の闘いにかかっている。

国と建材メーカーの責任が一定の範囲で認められたが、建設被害者の救済制度作りも緒についたばかりだ。

建設アスベスト訴訟大阪訴訟第二陣原告共同代表の郡家滝雄氏は「このたびは最高裁で完全勝利判決をえることができ原告団一同たいへんよろこんでおります。これもひとえにみなさまのご支援の賜物です。しかし、救済されなかった原告がおられ、救済するための仕事がまだ仕事は残っています。これからも頑張ってまいります。」とコメントを寄せて下さった。

郡家滝雄氏(大阪訴訟第二陣原告共同代表)

大きな山は越えたが闘いは続く。

最高裁判決に際して原告団・弁護団が発した声明全文を以下に紹介する。最高裁判決の内容、評価などについて本声明を参照されたい。

2021/5/17 最高裁裁判所

声 明

2021(令和3)年5月17日

首都圏建設アスベスト神奈川訴訟原告団・弁護団
首都圏建設アスベスト東京訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト京都訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト大阪訴訟原告団・弁護団
首都圏建設アスベスト統一本部
関西建設アスベスト統一本部
建設アスベスト訴訟全国連絡会

  1. 最高裁判所第一小法廷(深山卓也裁判長)は、本日、首都圏建設アスベスト神奈川第1陣訴訟(以下「神奈川1陣訴訟」という。)、首都圏建設アスベスト東京第1陣訴訟(以下「東京1陣訴訟」という。)、関西建設アスベスト京都第1陣訴訟(以下「京都1陣訴訟」という。)及び関西建設アスベスト大阪第1陣訴訟(以下「大阪1陣訴訟」という。)について、一審被告国及び一審被告建材メーカーらの責任を認める判決を言い渡した。
    最高裁判所第一小法廷は、すでに東京1陣訴訟、京都1陣訴訟及び大阪1陣訴訟において、一審被告国の上告受理申立てを不受理としており、労働者のみならず一人親方及び中小事業主(以下「一人親方等」という。)に対する国の責任を認めた原判決は確定していた。
    また、同第一小法廷は、京都1陣訴訟及び大阪1陣訴訟において、原審で責任が認められた一審被告建材メーカーらの上告受理申立てを不受理としており、主要曝露建材について高いシェアを有する建材メーカーらの共同不法行為責任を認めた原判決が確定していた。
    今回の最高裁判決は、これらを前提として、国の責任期間や違法事由、一人親方等に対する国の責任を認める法理等を明らかにするとともに、建材メーカーらの責任期間や注意義務の内容、共同不法行為責任を認める法理等を明らかにした。
  2. 国の責任について

    最高裁判所第一小法廷は、国は、1975(昭和50)年10月1日(改正特化則施行日)以降2004(平成16)年9月30日(改正安衛令施行日前日)までの間、事業主に対し、屋内作業者が石綿粉じん作業に従事するに際し防じんマスクを着用させる義務を罰則をもって課すとともに、これを実効あらしめるため、建材への適切な警告表示(現場掲示を含む。)を義務付けるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは著しく不合理であり、国賠法1条1項の適用上違法であると判示し、神奈川第1陣訴訟について国の上告を棄却して国の責任を確定させ、神奈川1陣訴訟について被災者20名に対する国の賠償責任を確定させた。
    また、労働者でなくとも屋内建設現場においても、石綿粉じん作業に従事して石綿粉じんに曝露した者との関係においても国賠法1条1項の適用上違法になるとし、一人親方等(解体作業に従事する者を含む)に対する国の責任を認め、神奈川1陣訴訟及び大阪1陣訴訟について、原判決を一部破棄して審理をやり直すべく原審に差し戻した。
    本判決は、建設アスベスト訴訟に関する初の最高裁判決であり、労働者だけでなく一人親方等に対する国の責任を認めた点において画期的な意義を有するものと高く評価できる。
    しかし、屋外作業者に対する国の責任を否定したことや責任期間で救済に線引きしたこと等は極めて不当であり、強く抗議する。
  3. 建材メーカーらの責任について

    最高裁判所第一小法廷は、建材メーカーらは、配管工等の後続作業者も含めて警告義務があり、これに違反したとして注意義務違反を認めた。また、建設アスベスト被害者に対する民法719条1項後段の類推適用による共同不法行為責任を認め、神奈川1陣訴訟の大工の被災者24名につき自判して増額し、また中皮腫の被災者4名につきメーカーらの上告を棄却した上、建材メーカーらの責任を確定させた。さらに、神奈川1陣訴訟のその余の職種及び東京1陣訴訟について原判決を一部破棄して審理をやり直すべく原審に差し戻した。
    最高裁が建材メーカーらの共同不法行為責任を認めたことは、被害者が建材メーカーの行為と損害の間の因果関係の立証が困難である本件の特質を正しく受け止めたものとして高く評価することができる。
    しかし、京都1陣訴訟及び大阪1陣訴訟について、原判決が屋外作業者に対する建材メーカーの責任を認めた結論を覆し、クボタ、ケイミュー及び積水化学工業の責任を否定したことは極めて不当であり、この判断には強く抗議するものである。
  4. 国は建設アスベスト被害者に謝罪し、全ての建設アスベスト訴訟を早期に解決するとともに、建設アスベスト被害者補償基金を創設せよ

    2008(平成20)年5月16日に建設アスベスト訴訟が東京地裁に提訴されてからすでに13年が経過した。この間、全国各地で建設アスベスト集団訴訟が提起され、原告の総数は、今回最高裁判決を受けた4事件を含め、被災者単位で900名を超えているが、そのうち7割を超える者が亡くなっており、生存被災者は3割にも満たない。もはやこれ以上の解決の引き延ばしは許されない。
    2020(令和2)年12月14日、東京1陣訴訟における最高裁判所第一小法廷の上告受理決定により国の法的責任が確定し、同年12月23日、田村憲久厚生労働大臣は、原告代表者を大臣室に招いて謝罪するとともに被災者救済のための協議の場を設けるとの考えを示した。
    国は本最高裁判決を真摯に受け止め、全国の建設アスベスト訴訟を速やかに和解によって解決すべきである。
    また、建材メーカーらも徒に訴訟を引き延ばすことなく、早期解決のため、和解のテーブルに着くべきである。
    さらに、アスベスト関連疾患による労災認定者はこれまでに約1万8000人に上り、建設業がその半数を占め、石綿救済法で認定された被害者の中にも相当数の建築作業従事者が含まれている。また建設アスベスト被害者が今後も毎年500~600人ずつ発生することが予測されている。そこで、これらの被害者が裁判などしなくとも早期に救済されるよう、「建設アスベスト被害者補償基金」を創設することが喫緊の課題となっている。現在、与党建設アスベスト対策PTにおいて協議が進められているが、国及び建材メーカーは、与党PTと連携し、基金創設に向け最大限の努力をすべきである。

    以 上

関西労災職業病2021年5月521号