建設アスベスト訴訟の動向 最高裁判決日、いまだ指定されず
10/22最高裁弁論「判決日追って指定」
アスベスト被害問題において注目されている国と建材メーカー(企業)に対して損害賠償をもとめた「建設アスベスト訴訟神奈川第一陣」の最高裁判所(第一小法廷 深山卓也裁判長)弁論が10月22日午後開かれた。
注目された判決日は「追って指定」となった。
建設アスベスト訴訟は、全国的に取り組まれてきた。
2008年の東京地裁から、神奈川、札幌、京都、大阪、福岡地裁で提訴。
現在、神奈川1陣、東京1陣、大阪1陣、京都1陣、福岡1陣について、最高裁判所にあがっている。
福岡1陣が最高裁第2小法廷だが、最初の3事件は最高裁第1小法廷にかかっている。
このうち神奈川1陣についてのみ、最高裁弁論期日が10月22日に指定された。弁論では、最高裁が上告受理した論点について、双方の主張が行われた後、注目の判決期日については、裁判所より「追って指定」とされ、現段階では未定となった。
最高裁の上告受理状況から、国の責任については、労働者ばかりではなく一人親方まで広く救済する方向とみられるとともに、建材メーカーの責任にまで一定踏み込んで認めるとの予想もある。
相次ぐ地裁・高裁判決、追加提訴
建設関連のアスベスト被害者は非常に多く、かつ、今後も増加するとみられており、その意味で建設アスベスト訴訟の動向は非常に重要である。
図に示したように、最高裁にあがった集団事件のほかでは、地裁・高裁段階での判決が続いている。
3月から8月にかけては、3陣提訴、2陣の追加提訴、新たな地裁における集団提訴が相次いでおり、今後もさらに増えていくとみられる。
当安全センターでは、国や企業の責任を追及する国家賠償・民事賠償裁判、労災認定をされなかった不支給決定処分取消を求めた行政裁判に関わってきた。
建設アスベスト訴訟についても、大阪を中心に積極的に支援することにしており、たとえば、12月中には大阪地裁における新たな集団提訴が行われる。年明けには、横浜地裁における新たな集団提訴も予定されている。
最高裁の動向とアスベスト被害救済制度をめぐって
神奈川1陣は10月22日弁論で結審し、判決日の指定待ちのところだが、ほかの最高裁係属事件についても、年明けに弁論が行われていくとの情報があり、年度内になるかどうかはわからないが、2021年は建設アスベスト訴訟最高裁判決が行われることが確実だろう。
(建設アスベスト訴訟原告団・弁護団が11月27日、最高裁に対しておこなった「早期の審理と判決の要請」について、稿末に紹介する)
そうした中で、アスベスト被害者の中における隙間と格差のない救済・補償制度を具体的にどのように現実のものにしていくのかが大きなテーマになる2021年になる。
まず、建設アスベスト被害の幅広い、迅速な救済実現であり、これは、最高裁判決の内容を軸にして具体的に進んでいくことになる。
そういう状況の中でも重要なのは、労災補償や司法救済の条件をもたない、アスベスト健康被害救済法による救済しか受けられていない被害者の救済内容と救済水準の向上にむけた法制度改正である。
労災時効となった被害者に対する救済制度は、必ず延長されなければならない。
しかしこれは最低の前提であり、それ以外になにを勝ちとっていくかにかかっている。
・中皮腫をはじめとした被害者のいのちを救済するための医療・治療・研究を飛躍的に推進させるために、石綿救済法第1条の目的に、このことを加える法改正を行うこと。
・治療中の患者の生活保障を充実させるため、療養手当の増額や通院費など各種手当てを創設すること。
・残された家族の生活を支えるための遺族給付を創設すること
この3つを柱とする法制度改正が目標だ。
2021年は救済法制度改正議論の年にあたっている。
くしくも建設アスベスト訴訟最高裁判決の年であることから、アスベスト被害者救済を全体とどうすすめていくのかが問われる年になる。
【建設アスベスト訴訟】最高裁に対する早期審理と判決の要請(2020/11/27)
建設アスベスト訴訟は、建築現場で中皮腫や肺がん、石綿肺などのアスベスト関連疾患に罹患した被災者やその遺族ら原告約1100名が、国と建材企業の責任を追及して、北海道、東北、埼玉、東京、神奈川、静岡、京都、大阪、福岡の全国各地で提訴し、最初の提訴からすでに10年以上が経過しています。なかでも、神奈川、東京、京都、大阪の4つの事件は、いずれも最高裁第一小法廷に係属しており、神奈川1陣訴訟については、去る10月22日、口頭弁論が行われ結審しています。
ところが、あろうことか、神奈川1陣訴訟は、結審後一カ月以上が経過しているにもかかわらず、現在まで判決日の指定が行われないというかつてない事態となっています。
2020(令和2)年10月時点で、建設アスベスト訴訟の被災者932名のうちすでに約7割(648名)が死亡、提訴後に死亡した被災者も239名にも上り、生存している被災者らも日々病苦と闘いながら生活しています。
まさに、原告らは、一刻も早い最高裁判決を一日千秋の思いで待っているのです。10月22日の弁論直後の10月25日には埼玉訴訟の原告Kさんが最高裁判決を聞くことなく亡くなっています。原告1人1人に残されている時間は、決して長くありません。さらに、原告らに止まらず、1万名を越える未提訴の建設アスベスト被害者らも、建設アスベスト訴訟の最高裁判決を大きな期待をもって注視しています。
「遅すぎた救済は、救済の名に値しない」と言われるように、最高裁には、一日も早く神奈川1陣訴訟の判決日を指定するとともに、他の事件についても、早期の審理と判決を行うことが強く求められています。
私たちは、最高裁がコロナ禍の中で様々な困難を抱えながらも迅速かつ適切な事件処理に努力しておられることは十分に理解しつつも、最高裁が人権の最後の砦として、本件においても、原告らの権利救済の訴えに応え、自らの職責を早期に果たされることを心より求めるものです。
関西労災職業病2020年11・12月516号
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