ニチアス王寺工場元労働者、初のアスベスト国賠和解(泉南型)

ニチアス王寺工場では初(良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚患者)

大阪泉南アスベスト国家賠償訴訟最高裁判決を受け、国が、同判決の被災者と同じように石綿工場で就労しアスベストによる健康被害を受けた元労働者や遺族に対し、訴訟上の和解手続を通じて損害賠償を行っていることについては、泉南型国賠訴訟として本誌でもたびたび報告をしてきた。

今回、奈良県北葛城郡王寺町のニチアス株式会社王寺工場の元従業員である勝村正信さん(87歳)が2016年5月20日に提起した国家賠償訴訟について、本年4月25日、訴訟上の和解が成立した。この訴訟はニチアス従業員の国家賠償訴訟としては初めて提起されたものであり、ニチアス王寺工場の従業員として国と訴訟上の和解が成立したのは初めてである。

勝村さんは、1957(昭和32)年6月から1958(昭和33)年8月までニチアス王寺工場で石綿製品の製造作業に従事し、アスベスト粉じんにばく露した。2009(平成21)年6月に良性石綿胸水により労災認定を受けている。

国の抵抗あるも、アスベスト訴訟弁護団和解かちとる

泉南型国賠訴訟においては、賠償金の対象に関する要件について、「昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと」と掲げられており、国の責任期間が限定されている。勝村さんについては、昭和33年8月で退職していることから、昭和33年5月26日から同年8月までの2~3か月のみしか責任期間と重ならないこと、また、勝村さんが従事していた作業は石綿製品製造ではなく岩綿製品の製造であること、などと根拠のないことを国は主張し、徒に係争を長引かせた。約2年の時間を要したが、勝村さんは根気よく作業内容について主張を続け、ようやく賠償を受けるにいたったのである。

また、この日は新たにニチアス王寺工場の6名の元従業員について本人や遺族が提訴した。

ニチアス王寺工場の石綿粉じんによる被災者は、厚生労働省の「石綿ばく露作業による労災認定等事業場一覧表」によれば、労災認定数が、平成28年までに肺がん44名、中皮腫33名、石綿肺11名にのぼる。

労災認定を受けていないけれども、石綿ばく露により健康被害を負っている方も多くいることが予想される。勝村さんの和解をきっかけに、より多くの元従業員から声が上げられると期待したい。

今回和解をかちとったのはアスベスト訴訟弁護団でニチアスを相手取った損害賠償訴訟にも取り組んできた経験豊富な弁護団である。

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関西労災職業病2018年6月489号