VDT作業による眼精疲労に労災認定ーCAD業務派遣労働者/大阪

1週間の病休で解雇

オフィスではパソコンを相手にする仕事が非常に多い。適度の休憩をとることが健康障害の予防の第一だとはいえ、これが実行できない職場も多い。

VDT作業による健康障害に悩む労働者が増えている現実の中で、派遣労働者の増加や企業業績の悪化などが相まって有効な予防措置がとられず、からだをこわされて解雇される(「契約解除」も同じ)場合も増えているのではないだろうか。

安全センターに相談のあったAさんの場合もこうした一人だった。極度の眼精疲労になりたった1週間休みをとったために派遣元の会社を解雇されそうになったAさんはユニオンひごろに加入し会社と交渉する一方で労災請求し、98年7月上旬に業務上認定された。

Aさんは現在、労働条件の悪いこの会社をやめ別の派遣会社にうつり、新たな職場で元気に働いている。

できない仕事をやれと

Aさんは日本キャリアサーチ(大阪市北区)(以下、キャ社)の派遣労働者としてCADなどの業務に約3年間従事していた。ただし、キャ社は派遣業未認可であり、今回の発症当時の派遣先には、Aさんにキャ社との業務委託契約を結ばせて就労させていた(社会保険、労働保険とも未加入状態。建設国保に加入させていた。いろいろ違法である。)。残っている「委託仕様書」には、基本給にあたる「月額単価」、時給に当たる「1工数当単価」、残業代に当たる「追加業務単価」が記載されおり、追加業務単価は、通常残業と深夜帯に分けて決められていた。

さて、Aさんは昨年12月から大阪市内の構造設計関係のB社に「CADオペレータ及び設計補助業務」ということで就労した。当初は問題なく仕事をしていたが、12月下旬に契約上にはないデータベースソフトの「ACCESS」(アクセス)を使用しての業務を命じられた。約束である表計算ソフトの「EXCEL」(エクセル)上での業務とは全く違う業務であった。

業務命令ということで仕事をしようと四苦八苦したが、要求された内容をこなすことはとても無理だったため、キャ社の営業担当者にアクセスの使える人を派遣するようにたのんんだが結局「そういう人がいない」という返事だった。

年が明けて、全く仕事が進まずしかたなくB社の上司に相談すると、「おしえてもらえ」というのでB社の取引先にその上司と相談に行ったものの「初心者で短期間に会社の求めるようなデータベースを作ることは無理。」と言われてしまった。逆に、B社が無理なことをAさんに押しつけていたことが証明されてしまったわけだ。


無責任な派遣元と派遣先の対応、なんとかクリアーしようとがんばることためのストレスからAさんは疲労困憊の状態だった。アクセスでの仕事は休止し、もとのソフトでの仕事に戻ったものの、眼のかわきや疲れを自覚するようになっていた。

痛み、吐き気…

そして、その週末の土曜日夕方から「激しい眼の痛みとおう吐」をもよおした。
日曜日には、「光がまぶしく、目が開けられない」ので暗いところで一日中休んでいた。
月曜日、症状が変わらないので近くの眼科に。目が開けられないのでサングラスをして、家族に手を引いてもらって行ったところ、『眼精疲労、左眼近視性乱視』と診断された。服薬、点眼薬を処方され、仕事を休むことになった。
火曜日、夜に派遣先の担当次長から「1週間代わりの派遣を入れるので休養して復帰して下さい」と見舞いの電話があった。
水曜日、再度眼科に受診したがやはり仕事は無理で、B社に「今週いっぱいは無理」と伝えた。

そして、金曜日、キャ社から「B社から仕事を切りたいと連絡があった。」と解雇を通告されたのだった。

そして、週明けの月曜日、B社に荷物を取りに行き話をきくと、B社では『(Aさんが)「エクセルをするのがいやだと言っている」という噂によって切った』ということだった。Aさんがそうではないことを説明すると、『ぜひ今まで通り仕事を続けてほしい』となり、ことの次第をキャ社に電話すると「あまり騒がせないで下さいよ」と言われた。

その後、無理にアクセスの仕事をさせられてまた症状が悪化し休業をとった他は、復帰して順調に仕事を続けた。

解雇を言い渡されたとき、センター、ユニオンひごろに相談してこられたのだった。一連の経過はAさんのことをキャ社、B社がいかに無責任に雇用し、使用しているか、何のために派遣労働者を使っているかをよく示している。

Aさんは決意してユニオンに加盟、団交に臨み、労災請求を行った。

これが労災でないなら…

団交で会社に対して、労災請求への協力、年次有給休暇の付与、社保加入などを約束させる一方で、Aさんは4月終わり頃ユニオン、安全センターとともに天満労基署に労災請求に赴いた。

経過からして労災認定されないとは到底考えられなかったが、団交でも会社は労災休業中のたった1週間の立て替え払いさえせず「労災請求したかったらどうぞ」という不誠実な対応だったので、労基署には会社のこれまでの対応を説明するとともに早期の業務上認定を申し入れる必要があった。

労基署は「前例もないし。とにかくよく調べてから。」と慎重な対応であったが、その後、Aさんの仕事状況にもよく配慮しながら調査を進め、この種の疾病ではかなり迅速な業務上決定が行われた。通常ではまず起こらない症状であることや仕事と症状との関連性が明確である点を的確に判断したものと思われる。

VDT作業による頚肩腕障害については労災認定例は少なくないが、「眼精疲労」で認定されたケースはなぜか当センターでは経験がなかった(頚肩腕障害で認定された被災者の一症状である場合はある。)。しかし、世の中ではありふれた現象だと思われ、多くは私病ですましたり、解雇や退職を強要されてもそのままになっているケースが多いのではないだろうか。

そうした意味でAさんケースが労災認定された意味は決して小さくない。

眼精疲労の業務上認定

前提として確認しておきたいのは、VDT作業による健康障害は、眼精疲労という眼の障害だけに止まらない、頚肩腕障害、精神症状など肉体的、精神的負担が引き起こす症状は幅広い、従って、疾病名にこだわることが不適切な場合があるということである。

眼精疲労の認定事例については、95年8月にある関東地方の国立大学事務職員が「眼精疲労等」として公務災害認定を受けた事例がある(「かながわ労災職業病」1997年9月号 神奈川労災職業病センター)。

このケースで、被災者は、頭痛、おう吐、めまい、たちくらみ、ものを読めないなど多彩な症状を呈した。92年3月ある病院の内科に受診し、その病院の眼科で「眼精疲労等」と診断され、その年の12月、紹介先の大学病院眼科において「VDT症候群」と診断された。職歴、発症経緯からVDT作業が原因となって発症していることが明らかであるから、診断名としてはある意味で的を得ていた。

しかし、この場合の認定当局である文部省は「眼精疲労等」のみ公務災害認定し、「VDT症候群」は公務外とした。この場合の不服審査機関の人事院も同様の決定を下している。このケースは認定当局が問題の本質から目をそらした典型的な例といえるだろう。

労災保険を管掌している労働省は10年前に「VDT作業と眼精疲労」(医学監修・昭和大学医学部教授深道義尚、労働省労働基準局編」日本総合労働研究所、1988年)の中で眼精疲労の労災認定についての考え方を当時の知見に基づいて示している。

この中でVDT作業によって起こりうる健康障害として、まず「頚肩腕症候群」をあげ労災認定にあたっては、頚肩腕症候群の認定基準(現在では、上肢障害認定基準(基発65号、1997年2月)に従うとしている。

それに続いて、眼精疲労をとりあげ条件付きながら業務上疾病として取り扱われる場合があるとし、結論的には「VDT作業従事者に発生した眼精疲労の取扱に当たっては、個々の事例について、その基礎にある疾病又は異常の的確な把握と、従事したVDT作業の詳細な状況(作業時間、作業環境、作業条件など)が重要であり、これらを総合して判断されることとなる。」と述べている。労災認定についてはとても前向きとは言えまい。

要するに現在、明定された認定基準はなく、非公式にはいろいろ複雑でわかりにくいことが書かれたこの「解説書」があるということである。その後、労働省として、VDT作業に関連する健康障害調査を実施したということもきかないので、この書物の記載が依然行政内部では有効と考えてよかろう。

以上のような次第なので、眼精疲労を含め、VDT作業に伴う健康障害の労災認定に取り組む際には、医師の所見だけではなく、職歴、病歴の正確な把握をして、健康障害実態の全体像と労働との関連を明らかにすることがまずなによりも大切である。その際精神的ストレスの影響や精神症状についても、いたずらに本人の性格、素因として片づけたり、無視してしまったりしないようにすることが、疾病の治療と予防にとって重要だということも気をつけなければならない点だろう。

最後に付け加えると、Aさんのケースにおいて、受診した眼科医は請求に協力的であった。眼科開業医は労災保険指定をとっていることはほとんどなく、今回も、労災請求にあたっては本人とユニオンからの説明を要したが、ごくふつうに協力的であった。前述の関東の事例でも同様だったということで、眼科関係ではVDT作業のやりすぎがこうした症状を招くことはごく当たり前こととして認識しているということだろう。

関西労災職業病1998年8月275号