アスベスト国賠(泉南型)訴訟で除斥期間を理由に棄却 奈良地裁

断熱材メーカーとしてアスベスト含有材を製造していた「ニチアス」の子会社である竜田工業で就業し、石綿肺に罹患していた元従業員に関する泉南型国家賠償訴訟の判決で、6 月 23 日、奈良地裁は損害賠償請求権が消滅する除斥期間を経過したことを理由に棄却した。

被災者は 2012 年に亡くなっていて、遺族が分かっていることは、被災者の石綿肺について 2005 年に管理区分2の決定を受けたということだけである。しかし、竜田工業に在籍中の 1993 年にすでに管理区分2の決定を受けていたことが国が提出した資料から明らかになり、この時期を起算点として裁判所は判断したのである。

管理区分決定については被災者に専属する情報であり、情報開示請求で得られるものではない。遺族による、故人のアスベスト労災請求情報について開示を認める判決が確定しているが、労働局によるとこの判決限りで他の事案に波及するものではないという。そうなると提訴するまで除斥期間を過ぎていたということは知る由もなく、その一方で、国家賠償訴訟に関する個別周知を厚生労働省から送付されていることを考えると、遺族がこの結論に納得できないのはもっともである。

1993 年から 2012 年までの約 20 年で、石綿肺の症状は進行したとも考えられるが、国による疾病の判断のみを基準とすると判示され、踏み込んだ判決とはならなかった。今後は控訴審で争っていくことになる。

奈良地裁では、これまで 40 名のアスベスト労災被災者について7度の損害賠償訴訟が提起され、その多くがニチアス王寺工場を始めとするニチアス関連企業である。本年4月にも新たに3名の被災者について訴訟が提起されたほか、今後も個別周知が行われるごとに訴訟件数は増加していくと考えられる。

これからの課題は、本来であれば管理区分決定を受けるべき元労働者が、中皮腫や肺がんの疑いがないというだけで、未だに症状の進行について適切な判断がされてないことを掘り起こしていくことだろう。(酒井恭輔)

関西労災職業病2020年7月512号