家事使用人 労働基準法適用除外廃止へ~労災保険も強制適用に
もはや時代錯誤-住み込みのお手伝いさん
住み込みのお手伝いさんがいる邸宅というと、かつてはそれほど珍しいものではなかった。そのお家のいろいろな家事を家人の指示のもとに任され、毎日の生活丸ごとを家族とともに過ごす。部屋を与えられ、毎月の報酬を受け取る。
労働基準法ができたとき、こうした立場の人については「家事使用人」と表現して、規制対象の労働者とは扱わないこととした。理由は「家事使用人の労働の態様は、各事業における労働とは相当異なったものであり、各事業に使用される場合と同一の労働条件で律するのは適当ではないため、これまで労働基準法の適用除外とされてきた。」(厚生労働省労働基準局編「令和3年版 労働基準法下―労働法コンメンタール」)というものだ。
住み込みはともかくとして、事業をやっているわけでもない一般の個人宅に出向いて個人と直接労働契約を結び、その指示のもと家事一般に従事している者というのが「家事使用人」ということになる。具体的な今の就労形態をあげると、ベビーシッター、子供の通園・通学の付添人、家庭教師、介護職、個人宅の引越の荷造り作業者・・・、かつて限られた人がイメージされた働き方も今や多種多様といえる。
こうした就労形態で働く人について労働基準法は次のように規定している。
第9条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
第116条第2項 この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
ベビーシッターや介護職、家事代行サービス、家庭教師など派遣する事業者ももちろんたくさんあり、そこから派遣される就労者は当然に労働者とみなされることになるが、労基法の適用にならない就労者も相当数になっているといえる。労働基準法が適用されないのだから、「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする。」(労災保険法第3条)とあるので、労災保険も適用されない。適用の道筋としてあるのは、家政婦や介護職で可能な特別加入をするぐらいのことである。
労働者と同様に指揮命令の下で働き、労働災害の危険も労働者と同様にあるにも関わらず、使用者が私人であるというだけで、労災保険の対象とならないのはいかがなものかという問題は、指摘され続けてきたところだ。
家事使用人の現行第2種特別加入者-わずか1741人に過ぎず
一昨年12月に設置された「労災保険制度の在り方に関する研究会」は、この問題についても検討課題とし、昨年7月30日に公表された中間報告書において、家事使用人について労災保険法を強制適用することが適当と結論付けた。
厚生労働省はこの研究会に先行して開催された「労働基準関係法制検討会」でも「家事使用人」について検討しており、労基法を全面的に適用する方向に結論づけた。理由としては、実質的な働き方が一般的な労働者とほとんど変わらなくなってきたとし、「家事使用人のみを特別視して労働基準法を適用除外すべき事情に乏しくなってきたと考えられる」としている。
これを踏まえて労災保険制度の在り方に関する研究会も次のように検討を進めた。
まず、家事使用人とされる個人と契約する介護職や家政婦の第2種特別加入者は2023年で1741人となっており、極めて限定された数字となっている。しかし、同年に行われた全国の家政婦(夫)紹介所(541か所)に登録し、個人家庭と契約し、個人家庭で家事業務を行ったことがある家事使用人9220人を対象としたアンケートでは、15.2%に業務時間中に病気やけが等の経験があるとの結果だったという。
こうした現状をふまえ、現行の労働基準法の災害補償責任及び労災保険法の適用対象とした場合、家事使用人を使用する個人が労働基準法第8章に規定する使用者責任を負い、労災保険法を適用すると、労災保険法や労働保険の保険料の徴収等に関する法律(徴収法)で事業主に課せられている義務を私家庭に対して課すことになることから生ずる問題がある。
研究会は、強制適用とすべきという結論を出しつつも、いくつかの課題について指摘している。
私家庭に手続的、事務的側面の負担が生じるので、代行機関に負わせるなどの方法が必要になること。
家事代行サービスとの競争上の不利さから現在の直接契約により働く人の負担面での対策の必要性。
労災保険料徴収において未納付の保険料徴収など私家庭に負わせることについて技術的な問題。
他、いくつかの問題点が指摘されている。
零細個人経営事業とかわらない私家庭への労災保険適用
しかしこうした問題は、従来でも個人経営の零細事業者、例えば個人で開業した喫茶店でアルバイトを雇用する場合など、私家庭に対する保険適用と変わりはないということもできる。
そういう意味では、小規模な農林漁業における暫定任意適用事業を強制適用とする際に生じる課題と同様であるともいえよう。研究会中間報告を受けて現在検討されている労働政策審議会労災保険部会に提出されている資料においても、労働保険事務組合への事務委託をどのように活用できるかという方法論も含め、より現実的な対応策をこそ検討すべきということになるだろう。
家事使用人の最低限の労働条件確保こそ大事
さらに進めていうと、労災保険の暫定任意適用事業の場合は、労働条件の最低基準を定めた労働基準法は適用されていることから、少なくとも労働基準法第8章の災害補償義務は使用者に課されていた。ところが家事使用人の場合は、労働者と同じように就労していても、労働者ではないのだから使用者に補償義務は発生しない。万が一業務中の死亡災害があったとしても、使用者に労働基準法上の補償義務は生じないわけだ。現代の世の中で、同じように指揮命令の下で働いているというのに命の差別が歴然と存在するというわけだ。少なくともこういう状態は、速やかに解消しなければならない。
労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会での議論が進んでいるが、速やかに法改正を進めるべきだ。制度を周知して私家庭の負担をどのように支援する措置をとるかという課題への対策は必須ともいえるが、それは後付けで対処することも可能だ。いちばん大事なのは、現実に就労している家事使用人の最低限の労働条件確保なのだ。
家事従事者の過労死(2024/9/19東京高裁判決)「家事使用人」適用せずを逆転
介護業務で仕事に行っても家事業務は労基法適用外という理不尽
2015年の5月、寝たきりの高齢者の家に、まる一週間住み込みで家政婦兼訪問介護ヘルパーとして働いていた68歳の女性Aさんが、勤務の直後に急性心筋梗塞を発症し亡くなった。仕事内容は2時間ごとのおむつ交換をはじめとした介護業務に加えて、食事の準備など家事全般もこなさねばならず、個人の家庭なので休憩場所もなく睡眠も介護の対象である高齢者と同室という状況だった。文字通り24時間の勤務という実態であり、業務に起因して発病したことは、労災認定基準に照らすまでもなく明らかな状態だった。ところが遺族から労災保険の遺族補償給付と葬祭料の請求を受けた渋谷労働基準監督署長は、Aさんは労働基準法第116条第2項の「家事使用人」に該当するので保護の対象となる労働者ではなく、労災保険は適用されないとして不支給処分を行った。
その後審査、再審査を経て行政訴訟となり、東京地裁の判決も請求棄却判決だったが、2024年9月19日の東京高裁判決はこの処分を覆して処分取り消しとし、国側も上告せず、判決は確定した。
争点を少し詳しくみると次のとおりだ。Aさんが登録されていた訪問介護ヘルパー兼家政婦紹介事業者は、要介護者Bからの求人に対し、Aさんを紹介し同時に業務内容の大まかな指示書を交付していたという。その内容は、介護の業務を基本としながらBの息子の食事の準備やB宅の門扉の外、車庫、庭の清掃などの業務も含まれていたという。しかし、プラン外のサービスは自費扱いとの指示があり、あくまで介護業務が派遣の対象とされていたという。
原処分や東京地裁は、事業者が実質的に介護サービス等の代行業者であることを前提に、その労働者としてAさんが勤務していたことは認めたが、業務はあくまでも介護業務とその周辺であって、家事の仕事を託されたとはいえ、これは別の就業と判断したわけだ。その結果、労働時間の算出に当たっては、純粋の介護に従事した4時間程度のみを対象とし、他の業務はあくまで評価の対象外となり、それだけでは業務起因性を認められないとなった。
介護と家事は混然一体で労働者としての業務の範疇
2024年の東京高裁判決は、介護以外の家事の業務について、Aさんは要介護者Bやその息子と家事業務についての雇用契約は交わしていないこと、事業者から支払われる日給に家事業務が別途含まれていないこと、実際の業務の実態としてはBの息子の指示が多いこと、さらに事業者の側は実際に行った時間数や時間帯を把握しておらず、介護業務と家事業務が混然となって区別できないことなどを認定する。
そして、介護業務と家事業務は、B宅という同一の場所で従事するものである上、労働時間についても、賃金についても、明確に区分されていないから、これらの業務毎に異なる雇用主による別個の雇用契約が締結されていることとは整合し難いものと判断する。
賃金についても一体としてこの事業者が日給を支払っている実態があり、B宅の家事業務も含めた業務全体がAさんの業務と判断した。そして高裁判決はいう。
「このように、本件家事業務は、本件介護業務とともに、本件会社との雇用契約に基づき、本件会社の業務として行われたものであり、家庭内の私的領域に国家的規制や監督を行うことが不適切であるという労基法116条2項の趣旨は妥当しないから、本件介護業務はもとより、本件家事業務についても、亡Aが同項所定の『家事使用人』に当たるものとは認められない。」
家事労働は労働基準の埒外、法改正こそが必要
Aさんは介護業務に従事する労働者として勤務していたため最終的には労災保険の対象となったが、実態として職業紹介としての家政婦紹介所の機能による家政婦として勤務していたとすると、労働基準法が適用されないことになる。そのために労災保険制度では特別加入制度として「介護作業従事者及び家事支援従事者」が設定されているが、その加入率は19%にすぎない(総数9220人のうち1741人、2023年)。
個人家庭と契約する働き方で、労働基準法が適用されないとすると、無茶苦茶な労働時間、最低賃金を無視した日給など、Aさんの判決に例示された過酷な仕事の実態に何も規制が及ばない場合があり得ることになってしまう。
この東京高裁判決からも「家事使用人」については速やかに労働基準法の規制を適用し、労災保険についても強制加入の対象とすべきといえる。(事務局 西野方庸)
関西労災職業病2026年2月573号
