パナソニックの製造工程管理業務従事者中皮腫で労災認定~点検で立ち入った天井裏の吹付けアスベスト~

本機関誌の2025年6月号で、元パナソニック(当時は松下電器産業)社員のAさんの労災を請求した話を書いたが、この度、労災が認定され、その後の諸々が落ち着いたので、改めて報告する。

◆退職から22年後の発症

2024年8月11日、安全センターにAさんから相談の電話がかかってきた。中皮腫にかかったが、何か補償はないかという相談だった。
Aさんは大阪生まれ大阪住まいで、年金記録によると、中学卒業後2年強、卵の卸問屋で働き、1958年9月26日に松下電器産業株式会社に入社した(本人の証言だと、高校卒業後入社したと言っていたため、2025年6月号にはそう書いた)。その後、配属は転々としたものの、2000年9月20日に60才で定年退職するまでずっと松下電器産業に勤めていた。
そして、2022年に調子が悪くなり病院に行き、しばらく通院や様々な検査を繰り返した後、2023年7月に中皮腫と確定診断された。
相談は補償のことを聞かれていたので、まず労災補償、建設アスベスト給付金、アスベスト健康被害救済給付の3つの補償の説明をした。その後、一旦経歴を聞いたところ、業務上のアスベストばく露が認められるかわからなかったので、労災補償とアスベスト健康被害救済給付の2つを並行して進めることになった。
まず救済給付だが、これは、ばく露歴に関係なく、基本的にアスベスト関連疾患と認められればもらえる給付金である。Aさんが罹患した中皮腫は、ほぼアスベストが原因で発生するものなので、これが確定診断されていればほぼ給付が決定する。Aさんの娘さんに申請を頑張っていただき、審査に4か月ほどかかったものの、予想通り給付された。これで一旦は余裕ができた。

◆アスベストばく露探し

次に労災保険についてだが、これは、その人がアスベスト関連疾患であることに加え、業務でアスベストにばく露したことが証明されると支給決定される。疾患の方は中皮腫なので認定基準的には問題ないとして、大事なのは職歴の方である。電話口でざっと聞いていた経歴では、コンデンサの製造に関わっていたということだったので、その製作過程でアスベストを扱うことがあったのかなと思っていたのだが、実際に会って話を聞いてみると、コンデンサの組み立てや、その前にやっていたスピーカーの組み立てという直接製品を製造する作業は最初の数年で、しかも携わった工程ではアスベストを使ってなさそうだった。その後は品質管理部に異動し、コンデンサの機能検査を1年ぐらいやった後、工場内(製品はほぼコンデンサ)の工程検査を定年までずっとやっていたということだった。
工程検査も、ざっと聞いたところではアスベストを扱っているような作業ではなかったのだが、何度も通って詳しく聞いてみると、様子が違ってきた。週に1、2回工場内を見回りするのだが、その工程で、ほこりがあると品質が落ちるので、機械の裏や、天井裏にも入って見回りしていたというのである。天井裏に入っていたということは、吹き付け材がむき出しになった場所をうろついていたということだ。松下電器のコンデンサ工場は、1961年に、京都府宇治市の木幡に作られた。Aさんも、その時にスピーカー部門からコンデンサ部門へ異動となって工場を移ってきた。その年代を考えれば、工場の吹き付け材にはアスベストが含まれている可能性が高い。
アスベストが含まれていたであろう別の証拠がないか調べるべく、神奈川労災職業病センターの鈴木江郎氏が毎年情報開示してくれている、「全国の労働基準監督署に提出された石綿除去工事の一覧表」を見ていると、2006年に、Aさんが勤めていたその工場が京都南労基署にアスベストの除去工事を申請していた。そこでその計画書を開示請求してみたのだが、実はこの工事で石綿除去をした場所に関しては、Aさんの業務とそんなに関係のない、保安室、ボイラー室、中央棟の庇だった。しかし、それでAさんと関わりないというわけではない。むしろ、よい証拠になるのである。通常、除去工事は、吹き付け材等の飛散の危険が高いものが「むき出し」になっているところに行うもので、天井板で密閉されている天井裏には行わない。鉄骨造りの建物は鉄骨全体に耐火被覆をするので、天井裏に吹き付けがされなかったわけはなく、また、庇と内部の鉄骨は通常一体になっているので、わざわざ違った吹き付け材が使われていることもまずない。そうすると、Aさんが歩き回っていた天井裏には吹き付け材があり、それは今回除去された吹き付け材と同じものだと考えるのが妥当だという論理である。
こちらの弱いところは、Aさんが松下電器産業で働いていたことは年金記録ではっきりしているのだが、Aさんの作業内容を証言してくれる人がおらず、Aさん本人の言葉だけによっているところだ。
当時の同僚はもう連絡を取れる人がいない。そして、松下電器産業(現パナソニック)の従業員はあまり協力的ではなく、作業内容の証明不可は記録が残ってなかったら仕方ないとしても、上記の工事の資料も持っているが渡せないとまで言われてしまった。ただし、労基署から連絡があったら最大限対応すると言っており、労災認定後、調査資料を開示請求したら、Aさんへの辞令による所属の確認と、断熱材の除去計画と進捗状況(パナソニックの提出書類に一面黒塗りされたA4紙が1枚あったので、パナソニックに内容を聞いてみたらこう回答してきた)を出してくれたようなので、最低限の資料は提供してくれたようだ。
そんな形で、Aさんの陳述書と私の意見書に開示した工事の資料を付けて、京都南労基署に労災請求した。正確に言うと、休業補償の時効が来ていたので、2025年の1月14日に請求だけしておいて、同年3月17日に、陳述書や意見書等の添付書類を出した。
その結果として、同年8月25日付けで、Aさんの中皮腫は労災認定された。

◆ばく露の推認

今後の参考として、何が調査の決め手になったのか知るべく、今回の労災の調査復命書を開示請求した。その中の調査結果概要にはこう書かれていた。

「(2)石綿ばく露への従事したことについて
ア パナソニックインダストリー株式会社宇治
(中略)請求人は、その中でも、昭和46年から、定年退職する平成12年9月21日まで、宇治工場の品質管理部門においてコンデンサの製造管理業務に従事している際、天井裏に石綿が見えていたが、マスクを付けることもなかったため石綿にばく露したと考えていると申述した。
この点について、(黒塗り)の調査結果から、昭和46年時点の所属は不明だが、平成12年4月時点では、宇治のアルミコンデンサ工場電極生産技術課設備管理係に所属していることが確認できた。(黒塗り 3行に渡る結構長いもの)が確認できた。
また、令和7年3月18日、関西労働者安全センター事務局種盛氏から受理した、『パナソニックエレクトロニックデバイス(株)キャパシタビジネスユニット石綿除去工事』より、平成18年5月11日から同年6月18日まで宇治工場のボイラー室、庇、保安室の天井部分に吹き付けられている石綿除去工事が計画されていることがわかり、請求人が勤務していた建屋には石綿があった可能性が高いと推認できる。
よって、(黒塗り)から請求人の当時の業務内容は確認できなかったものの、品質管理部門に所属していた、昭和46年から平成12年9月21日までの30年間、石綿にばく露した可能性は否定できないと判断した。」

この内容からすると、①本人の陳述と、パナソニック側の出した資料により、30年間宇治工場で品質管理部門として働いていたであろうことが推認された、②提出した石綿除去の工事計画によって、宇治工場に石綿があったことが推認されたという2点が組み合わさって、業務上石綿のばく露があったと認定されたようである。要は、仕事内容はともかく、30年も石綿のある工場で働いてたんだから、ばく露していたのでしょうという結論のようだ。そう考えると、やはり大きかったのは石綿除去工事の計画資料だろう。
まとめると、どこでばく露したかはっきりしない工場作業員の石綿ばく露認定においては、とにかく石綿が工場にあったことを証明して、そこで長く働いていたんですと主張するのがよいようだ。
今後も、相談者を全力でサポートしていく。

関西労災職業病2026年2月573号