ニチアス羽島工場元労働者のアスベスト(石綿)被害損害賠償訴訟で勝訴、ニチアスを断罪-岐阜地裁判決/岐阜

大手建材メーカー「ニチアス」羽島工場の元従業員が罹患した石綿肺に対する損害賠償補償について、2024年1月31日、岐阜地裁はニチアスに対し1430万円を支払うよう命じた。

ニチアスは元従業員の石綿健康被害を過小評価し、5年をかけて被災者の訴えを踏みにじってきた。

被災者は1970年1月に退職するまで10年10ヵ月ニチアスで就労してきたが、その間石綿含有保温材シリカライト及びスーパーライトの製造に従事するなど、常時石綿粉じんにばく露する環境で就労をしてきた。退職時に石綿健康管理手帳を取得することなく、2017年にようやくじん肺管理区分申請を行い、管理区分2の石綿肺と続発性気管支炎が確認された。

その後、アスベストユニオンの組合員として団体交渉を通じてニチアスに対して補償を求めたが解決せず、訴訟へと発展する。訴訟の中でニチアスが田村猛夏医師や芹澤和人医師を利用して展開した主張は、被災者の石綿肺は労災として認められるほど重症ではない、ということだった。

今回の岐阜地裁の判決は、これら被告の主張を一蹴し、被災者に損害賠償を支払うことを命じたが、これまで多くの石綿関連疾患の病苦に苛まれる元従業員を抱える事業所の傲慢と鉄面皮に対する断罪である。

被告ニチアスを支持する医師たち

田村猛夏医師は奈良労働局の労災協力医員でじん肺審査医である。また、芦澤和人医師は国の労災疾病臨床研究事業「じん肺健康診断とじん肺管理区分決定の適切な実施に関する研究」の研究代表者である。両名とも環境省の石綿健康被害判定小委員会に名を連ね(田村医師は令和6年名簿になし)ているが、このような立場の医師が、国の制度であるじん肺管理区分制度に基づいて判定された決定に疑義を示すことは、制度の根幹にかかわる問題だと強く懸念する。

この問題は、すでに全国安全センター連絡会議から厚生労働省に申し入れているし、アスベストユニオンからも抗議文を同省に出している。今回、両名の主張は地方じん肺審査医が管理2として判定したものを覆す意見、すなわち管理2に満たないとの判定だった。詳細にCT上の陰影まで検討した原告に対し、芦澤医師は「じん肺の診断はレントゲン写真で行うもので…」とCTの活用を否定したが、芦澤医師はCT画像を用いて粒状影の個数、大きさとCT値、分布系からじん肺の重症度を定量評価し、じん肺の診断を支援するシステムを開発した「じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究」の研究代表者でもある。自分たちの開発したものは無用の長物とでも言うのだろうか。次回の会計検査院の実地検査では、この研究で浪費した624万円を返還するよう厳しく審査してもらいたい。

判決の意義

今後も石綿関連疾患については被災者が増加するおそれがあるが、近年は業務上認定を受けた被災者に対し、国からの損害賠償や給付金が支払われる枠組みが整備されつつある。国が積極的に被災者に補償をする姿勢は評価できるが、一義的には事業所が元従業員・労働者に補償するべきである。

今回の判決は、改めて労災被害に対する企業責任の大きさを明らかにしたものであると考える。

関西労災職業病2024年2月551号