ニチアスは白旗降伏か?そうあって欲しいものだ!初めてニチアス敗訴ーアスベスト(石綿)損害賠償裁判 岐阜地裁で勝訴

ニチアス・関連企業退職者労働組合の結成

「私たちは、それぞれ働いていた時代は違いますが、ニチアスやその系列、関連企業において、毎日アスベストの舞い飛ぶ中で働いていました。ロクな安全対策もなく、アスベストが危険である話も知りませんでした。これから私たちの身体がどうなっていくのか、会社は一体どのような面倒を見てくれるのか、心配と不安は尽きません。そこで私たちは労働組合を作りました。・・・(中略)全国でアスベスト被害に苦しんでいる多くの人々のために頑張りたいと思います」。

ニチアス・関連企業退職者労働組合の結成宣言である。

労働組合が結成されたのは2006年9月。組合員5人の小さな小さな労働組合であった。その後全造船ニチアス・関連企業退職者分会に組織形態を変更。委員長だった庄田誠治さんは既に亡くなり、今は書記長だった仲井力さんが委員長を務めている。

退職労働者に団交権を認定

ニチアスに団体交渉を拒否され、奈良県労働委員会に団交拒否の不当労働行為を申し立てたのが2007年4月。当時、同じように兵庫県労働委員会に救済を申し立てていた住友ゴム工業の退職した労働者と歩調を合わせた闘いで、最高裁が、退職労働者が加入した労働組合の団体交渉権を認めるという、歴史的な成果を上げた。

ニチアスの損賠責任を認める初めての判決

その後、結成の時に宣言した通りに組合員を増やし、2010年10月には、札幌地裁、奈良地裁、岐阜地裁の3ヶ所で同時にニチアスに対する損害賠償訴訟を提起した。

今回の判決はこの3つの訴訟の一つである。

12年11月には札幌地裁で和解が成立し、14年10月には奈良地裁が原告の請求を棄却し、今年6月には大阪高裁が原告の控訴を棄却したため、原告は上告して闘っている。岐阜地裁の判決は、一番最後の地裁判決となった。

この間、ニチアスが地裁からの和解提案を拒否するなどの経過から、原告が勝訴する確率はかなり高いと予想していたが、9月14日の判決は、元従業員2人に4180万円(原告1人につき2200万、内一人は既に受け取っていた退職時見舞金600万円を差し引き、それに弁護士費用を加えた額)の賠償を命じた。この間のニチアスに関連する訴訟で、初めて被害者の請求を認めた判決である。

軽症の時に書いた念書の効力を否定

当初、山田さんが一人で提起した訴訟に角田さんが合流したり、山田さんのじん肺が労災認定されたりという経過もあって、判決が他の2件に較べて遅くなった。

角田さんがこの裁判に合流するについて、角田さんは1995年の退職の時、既にじん肺の管理区分認定が管理3イで、退職見舞金として600万円を受け取り、その時に「いかなる事情が生じても補償等で一切の異議を申し立てない」という念書を書いていたという事情があった。

水俣病の原因企業であるチッソが、一部の患者・家族との間で、低額の見舞金の見返りに「将来の補償請求をしない」という内容の契約を結んだが、熊本地裁は「公序良俗に反して無効」という判決を出している。角田さんは、600万という低額の見舞金で、一切の異議申し立てを封印するニチアスの念書に、「効力はない」と主張した。

判決はこの念書の効力を否定し、非可逆的に進行するじん肺という病気や、癌を起こしやすいアスベスト被害の特性を判断して、重篤化した現在の症状に応じた補償を命じるという、極めて妥当な判断をした。

ニチアスは白旗降伏か??控訴せず

判決後の、原告、労働組合、支援者の関心は、「ニチアスは控訴するのかな?間違いなくするだろうな~」であった。当日のご苦労さん会は「『取り敢えず』祝勝会」となった。

その後、事態は急展開した。

9月18日、会社の代理人から原告の代理人(位田、平方弁護士)に「ご連絡」が送られてきた。

「山田氏および角田氏が控訴をされないのであれば、・・・本判決容認額をお支払いする用意があります」。遅延損害金を加えて4720万円を支払うという内容である。

原告側は控訴せず、ニチアスも期限の9月30日までに控訴せず。ニチアスのアスベスト訴訟で初めて、地裁判決が確定した。
「ニチアス、白旗降伏か?」と思いきや、「判決に不服はあるものの、本裁判は提訴から5年が経過して長期化する中、これ以上の長期化を避けることを含め、総合的な判断のもと控訴しないこととした」というのがニチアスが出したコメントであった。

この裁判を長期化させたのはどこの誰だ。

「本裁判は提訴から5年が経過して長期化」したなどとは、よくもまあそんなことが言えるものだ、というのが実感ではあるが、ここは位田弁護士(アスベスト訴訟弁護団)のコメント、「被害者の早期救済につながり、今も石綿の被害に苦しむ人や遺族にとっても朗報になる」で我慢しておこう。

労働組合の推測では、軽症の時にわずかな見舞金を受け取って「いかなる事情が生じても補償等で一切の異議を申し立てない」という念書を書いた労働者は、三桁、100人はいるのではないかと思われる。

今後の団体交渉の中でその実態を明らかにすると共に、追加の補償につながれば、と思う。

原告・山田益美と仲井力ニチアス退職者分会委員長

関西労災職業病2015年10月460号