公務災害障害補償不支給決定に対する取消訴訟始まる/自治労枚方市職員関係労働組合
枚方市で給食調理員として働く森岡隆浩さんは、2013年5月7日、職場から自転車で帰宅途中、横断歩道を渡っていたところ右折してきた乗用車に跳ねられて、頭部および腰部を負傷した。
星ヶ丘医療センターに搬送され、しばらく入院を余儀なくされたが、公務災害補償基金大阪府支部(以下、基金)に通勤災害請求を行った際は「頭部外傷、頭皮挫創、頸部捻挫及び腰部打撲」という傷病名で請求していた。受傷当初は頭部の負傷が気になるし、いつまでも痛かったが、入院をはじめて間もないころから腰の痛みが目立ってきた。そのため入院中にMRI検査を行い、腰椎すべり症が確認されていた。
問題は、基金が途中で療養を打ち切ったことにはじまる。すべり症の治療のために関西医科大学付属滝井病院に転院し、腰椎固定手術を経て療養継続中だった2014年12月4日、基金から「傷病の症状固定について(通知)」が森岡さんに届けられる。この通知によると、遡って8か月以上も前の2014年3月27日をもって症状固定とするため、同日以降の療養補償は行わない、ということだった。「症状固定と判断する至った主な理由」を見ると、「基金が認定した傷病名は『頭部外傷、頭皮挫創、頸部捻挫、腰部打撲』のみであることから、腰椎すべり症に対する療養は地方公務員災害補償上の療養補償の対象とは認められず、また当該疾病の療養を目的とした関西医科大学付属滝井病院への転移も認められません」と記載されている。認定した傷病は「腰部打撲」であって「腰椎すべり症」ではないという理由である。腰部打撲の結果、腰椎すべり症になったのではないか、これらは一連の疾患だろうと、森岡さんは、所属する枚方市職員関係労働組合の支援を受け、改めて腰椎すべり症について公務災害請求を行った。
星ヶ丘医療センターのカルテを見ると、森岡さんは事故直後から腰痛を訴えており、事故2日後には骨折などないことから腰背部打撲と診断されている。しかし、10日後も変わらず痛みを訴え、そして15日後にMRI検査を受けた結果、「変形性腰椎症、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄(L3/4)」と診断されていた。同部位における最終的な診断が腰椎すべり症だったものの、腰椎の変性が受傷直後から確認されているのである。これらの点を指摘しながら、リハビリのために通院していた整形外科の主治医や腰椎固定術の執刀医の意見も踏まえて改めて2017年5月に請求したところ、2018年7月27日にようやく腰部脊柱管狭窄症および腰椎すべり症が追加傷病として認定された。
ようやく救済されたものと思いきや、療養は急性症状に限るとして、2014年3月27日をもって症状固定とされていた。傷病名だけ追加して、療養については腰部打撲で認めた範囲のまま、2014年3月27日までの療養までしか認めず、腰椎すべり症の固定術のために転院したのちについては認めないという。労組も同日以降の療養費について改めて請求しようと森岡さんの所属先である教育委員会に掛け合ったが、基金がすでに打ち切っているという理由でまったく動かない。そこで、腰椎固定術後の後遺障害について障害補償給付請求を行うことにした。2019年2月末に行った請求は、まず症状固定日をめぐって基金と争いになった。森岡さんは手術をしてはじめて症状固定となったことを主張し、治ゆ日を2018年12月28日と診断書に記載している。リハビリで通院していたクリニックの主治医も手術をした関西医科大学付属滝井病院も同意見である。しかし基金が認めた症状固定日は2014年3月27日であるから、その日の状況について診断書を提出するよう求めてきた。しばらく押し問答のようなやり取りが続き、改めて診断書を提出したが、主治医の主張はかわらず症状固定日は2018年12月28日である。結局基金はカルテなどから判断し、2014年3月27日時点で「障害なし」という判断を下した。
事故1か月後には退院し、職場復帰はしたものの、「頚から頭が痛くなった。腰部もあいかわらず痛い。仕事始めているが腰くずれ?のような感じになったりする。職場では皮むきなど力は使わないよう仕事をしている(2013年6月受診時のカルテ)」ため、職場に戻っても仕事ができるような状態ではなかった森岡さんが、手術を経てようやく普通に仕事ができるようになったのである。腰椎固定により障害等級9級が認められるべきであったし、この手術がなければ今のように働くことはできなかったに違いない。
腰痛をめぐる問題
公務災害補償においても公務上や通勤で負傷したり病気にかかった場合は「必要な療養を行」うことになっている(地方公務員災害補償法26条)。しかし、「必要な療養」の範囲については、基金支部が狭く解釈しているように思える。腰痛については、「腰痛の公務上外の認定について」(昭和52年2月14日地基補第67号)と、「『腰痛の公務上外の認定について』の実施について」(昭和52年2月14日地基補第68号)で詳しく記載されているが、その療養については基本的には保存的療法(外科的手術によらない治療法)とされているが、「適切な保存的療法によっても症状の改善がみられないもののうちには、手術的療法が有効な場合もあること」、その治療の範囲は「既往症又は基礎疾患のある職員に腰痛が発症し増悪した場合の治療の範囲は、原則としてその発症又は増悪前の状態に回復させるためのものに限ること。ただし、その状態に回復させるための治療の必要上既往症又は基礎疾患の治療を要すると認められるものについては、治療の範囲に含めて差し支えないこと」とわざわざ記載している。森岡さんの手術も元のように働くために必要な手術を行ったのであるから、加齢が原因で変性したとしても認められるべきである。
基金はこの主張に対し、上記通達は公務上外の認定について定められたもので通勤災害の認定について定めたものではないということ、また腰椎すべり症は基礎疾患であり、腰椎固定術はその根治治療にあたるから公務災害補償の対象にならない、と反論、療養中の2014年3月27日時点で可動域検査もされておらず、後遺障害はないという原処分の判断を支部審査会、本部審査会も支持した。
提訴
2024年8月末に基金大阪府支部の公務外認定を取り消すことを求めて提訴、第1回期日である10月23日に森岡さんは枚方市職員関係労働組合の執行役員や自治労をはじめとする多くの傍聴者の前で以下のように意見を述べた。
「2013年5月7日、職場からの帰宅途中に交通事故に遭い、私の生活は一変しました。事故前の私は、健康で体力にも自信があり、趣味のバスケットボールをプレイヤーとして楽しんでいました。
その日、私は、自転車で青信号の横断歩道を渡っていたところ、右折してきた自動車にいきなり衝突されました。身体の左側からぶつかられ、自転車ごとはじき飛ばされたところまでは憶えていますが、事故直後のことはほとんど記憶がありません。気が付いたときには、病院のベッドで治療を受けていました。事故を目撃した同僚からは、気を失って、血だらけで倒れていたところを救急搬送されたと聞きました。
事故当初は、頭部を9針も縫っていたことから、頭の怪我が心配でした。目の回りも内出血を起こして青く腫れ上がり、1週間くらいは腫れが引きませんでした。頭や首、腰など全身のあちこちが痛みました。とくに、腰には、単にぶつけただけとは異なるような痛みを感じ、入院中にX線やMRI検査を受けました。その結果、「腰部脊柱管狭窄症」と「腰椎すべり症」を起こしていることが分かりました。
転院後もリハビリ治療を続けましたが、腰の痛みは改善せず、歩くにも不自由を感じました。しかし、職場を長く休むわけにもいかないことから、一旦は職場復帰をしました。
当時の学校給食センターでは、約2600食もの給食を作っており、重い物を持ったり、業者がもってきた食材をダンボールからカゴに移しかえたりする作業がありました。事故前は難なくこなしていましたが、事故後は腰痛のためにそれらの作業を1人ではできなくなりました。他の職員に手伝ってもらったり、作業を交代してもらったりして、周りの方々にも大きな迷惑をかけてしまいました。
その後、腰椎を固定する手術を受けたことで、ようやく、他の職員と同じ程度の作業ができるようになりました。ただし、今も、下肢に麻痺が残り、左足に力が入りません。そのため、左足を引きずるようにして歩くことになり、つまずくこともよくあります。つま先立ちをすることもできず、走ることもできません。座っているだけでも腰が痛み、夜寝ているときにも腰の痛みで目が覚めることがあります。今なお、何をするにしても不自由を感じ、辛い日々を送っています。
「腰部脊柱管狭窄症」と「腰椎すべり症」は通勤災害によって起こったものですから、公務災害の認定請求をしました。ところが、地方公務員災害補償基金は、急性症状に限り通勤災害に該当するとし、腰椎を固定する手術は私の持病に対する治療であり、その後に残った後遺障害も通勤災害と因果関係がないという不当な判断をして、障害補償を認めませんでした。
私は、事故前に腰に負担や痛みを感じたことはまったくありませんでした。腰椎を固定する手術は、通勤災害に遭わなければ、する必要のなかった手術です。私が給食調理業務をするうえで必要不可欠な治療だったことは間違いありません。この治療やその後の後遺障害について、公務災害として認められなければ、安心して働くことはできません。
どうか、公正な判断をしていただきますようお願いいたします。」
仲間が安心して働ける環境を確保するためにも森岡さんは労組と力を合わせて戦い抜くと傍聴者の前で誓うのであった。
関西労災職業病2024年11・12月560号
コメントを投稿するにはログインしてください。