通勤災害の認定について(8)友達や恋人宅への 「帰宅」
就業のための拠点
前回は単身赴任者の住居について学習した。家族の住む家と、 赴任先の家の2つの住居を持つ単身赴任者がいずれの家から勤務先に向かっても通勤として認められることはもとより、 2つの住居間の移動も通勤となる。また、平成18年からは、単身赴任者が家族の住む家に帰る頻度が1ヶ月に1回程度でも行き帰りが通勤として認められるようになっている。
労災保険制度上の「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、 本人の就業のための拠点になっている所をいう。 家族が住んでいる場所ということで、仮に1ヶ月に1度しか家族の元に帰らなくても、 「日常生活の用に供し」、「就業のための拠点になっている」と認められ、 その移動が通勤として認められるのだろう。
さらに通常は家族のいるところから出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊まり、 そこから通勤するような場合には、 当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる。 「就業のための拠点」 としてわざわざ借りている以上、 布団以外何もない部屋であっても住居とされるのである。
私的事由は不可というが・・
一方、 麻雀をするために同僚宅に泊まり、 翌日その同僚宅から出勤するような場合は就業の拠点として認められないので通勤として扱われない、 とわざわざものの本に書かれている。
それでは、早出や長時間の残業の場合に会社の近所に住む同僚宅に宿泊するケースはどうなるのだろうか。 マイカー通勤者が、 前日泊まった婚約者宅から出勤する途中の災害の概要から考えてみよう。
被災労働者は自宅から90分掛けてマイカー通勤をしているが、 被災前日の午後7 時に業務終了後、会社の近くに住む婚約者宅に泊まり、翌朝出勤のため婚約者を同乗させ、 会社に向かう途中交差点で右折車と衝突して負傷した。 この事件に対し、 婚約者宅は被災労働者の就業のための拠点たる住居とは認められないとして通勤災害には該当しないという判断がなされた。
このケースでは、 「被災労働者が勤務上の事情や交通事情等により婚約者宅に宿泊したものではなく、 もっぱら私的事由による」ことから、婚約者宅を「就業のための拠点としての住居」 として認めなかったものである。
そのため、私的事由ではなく、勤務上の事情や、 交通ストライキなどの交通事情、 あるいは台風などの自然現象等の不可抗力によりやむを得ない事情で就業のために一時的に住居の場所を移しているような事案であれば、 通勤として認められるであろう。
会社の近所に住んでしまったばかりに 「残業をしていたら終電を乗り過ごした」 と職場の先輩が転がり込んできた場合、その日、あなたの家は労災保険制度上「先輩の住居」と化す。そして台風で自宅まで帰ることが困難になれば、 友人や恋人の家に「帰る」ことも通勤になりうるのである。
時代が違うのでないか
ところで、 今回紹介した婚約者宅の宿泊に関する不支給事案は昭和48年の事件で、ほぼ半世紀前の話である。同棲や週末夫婦などの家族形態の多様化が受け入れられつつある現代では、 勤務上の事情や交通ストライキに巻き込まれなくても、このようなケースが通勤として認められるのではないかと考える。
加えてこの事案では、 「被災労働者は以前にも残業等で遅くなった場合は、 しばしば婚約者宅に泊まっていた」という調査記録も残されており、被災労働者にとって婚約者宅は帰るべき家のひとつであったということがわかる。被災者にとって、「日常生活の用に供し」、「就業のための拠点」になっている以上、住居として扱われて差し支えないのではないだろうか。
関西労災職業病2017年6月478号