通勤災害の認定について(13)ショッピングセンター駐車場は「経路」か

日常生活上必要な行為

通勤の途中において、労働者が通勤から逸脱、中断をする場合には、その後は就業に関して行う行為というよりも、 もともとの目的が逸脱・中断の元となった行為のためであるから、もはや通勤ではない、という原則がある。 しかし、 労働省令で定めるところの、 通勤の途中で日常生活上必要な行為で、やむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、 当該逸脱又は中断の間を除き、 合理的な経路に復した後は再び通勤と認められることになる。日常生活上必要な行為とは、

  1. 日用品の購入や、これに準ずる行為、
  2. 職業訓練や学校教育、 その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為、
  3. 選挙権の行使や、これに準ずる行為、
  4. 病院や診療所において、 診察または治療を受ける行為や、 これに準ずる行為、
  5. 要介護状態にある配偶者、 子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹ならびに配偶者の父母の介護(継続的に、又は反復して行われるものに限る)

である。
すでに述べたように、合理的な経路に復した後は再び通勤になるが、 逆にこれらの行為中に発生した災害は通勤災害にはならない。今回は、合理的な経路に復する、 ということがどの時点に起点を有するのか審査請求事案を通して考えてみたい。

ショッピングセンター駐車場内の事故

事件の概要は以下の通りである。
請求人は事業場での勤務を終え帰宅の途中、ショッピングセンターに立ち寄り、 日用品の購入を行った後、 帰宅するため自宅に向かってショッピングセンターの駐車場内を原動機付自転車で走行していたところ、 第三者の運転する普通乗用自動車と衝突し転倒した。 救急車で病院に搬送されたところ「右側橈骨遠位端骨折、下顎挫創等」と診断された。

審査請求にあたり、 請求人は、審査請求の理由として、要旨、次のとおり述べている。

「ショッピングセンター内を通過する経路をとって通勤することもしばしばあり、本件事故は、日用品の購入後、合理的な経路に戻った後に発生したものなので通勤行為の中断中ではない」
しかし原処分庁は、

  1. 請求人によれば、通常の通勤経路は、ショッピングセンターの南側を迂回する経路であり、公道のみを通行するものである。また、当署での調査時には、ショッピングセンターの敷地内を通過する通勤経路については特に述べていなかった。
  2. 請求人は、勤務終了後にショッピングセンターで日用品を購入し、通常の合理的経路に復する前に被災したものであって、通勤災害には該当しない。
  3. ショッピングセンター内を通過する経路が合理的経路の1つとして認められた場合であっても、請求人はショッピングセンターで日用品を購入していることから、滞留中は通勤の中断中に該当し、通常の通勤経路である公道に復するまでの間は通勤とは認められない。また、経路の逸脱、移動の中断として取り扱わないこととされている「ささいな行為」にも該当しない。

との意見を提出している。

これに対し審査官は、

  • ショッピングセンターの敷地については、 地域住民等による通り抜けを制限しておらず、 地域住民等が日常的に通行しており、 道路に準じた実態があると認められることから、 私有地の通り抜けの是非という倫理的な問題は格別、 通勤経路としての合理性は否定されないと判断する。
  • 本件災害は、日用品の購入後、合理的経路と認められるショッピングセンター敷地内の中央通路に復した後に事故が発生したものであり、 「経路の逸脱」 中ではなかったものと認められる。
  • 購入した品目、所要時間等から、「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為をやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」 に該当すると判断する。

として、 一般的に通り抜けのために利用されている事実があることから、 「道路に準じた実態がある」ものとして、ショッピングセンター内を経路として認めている。

これまでも自転車の二人乗りなど 「本来であればやってはいけないこと」 をやってしまった帰結としての災害であっても、 通勤災害として認められうる事案を紹介してきたが、 本件では私有地の通り抜けも一般的に利用されているのであれば通勤経路になるということを示唆している。

本件のショッピングセンターのレイアウトや住居との位置関係など詳しいことが分からないため、安易に「買い物を終えて、帰宅のために移動を開始した時点で通勤に復した」と結論付けることはできないが、一定の条件が揃えば普段利用する経路に戻る途中の災害であっても通勤災害として認められるのではないだろうか。

関西労災職業病2018年1月484号