通勤災害の認定について(5)自転車二人乗りで事故

おまえが悪い、と一概に・・

前回に引き続き、被災者が「そんなことをするから事故に遭うんだ」と事業主から言われてしまうようなケースを勉強しよう。今回は、自転車に二人乗りして帰宅する途中の災害である。
誰しも自転車の二人乗りをして警官に注意されたり、 幼少時には大人にしかられたりした経験があるものだが、その結果転んでケガなどをすると「ほれ、言わんこっちゃない」と非難される。

さらにそのケガについて労災請求をするとなれば、 「自分が悪いくせに労災請求をするの?」 と呆れられるかもしれない。 しかし、 自転車に二人乗りして通勤することが合理的な方法だと判断されれば、 その結果の負傷も通勤災害として認められるのである。
認定事例として紹介するケースは、 以下のような事件である。

被災労働者は、 午後3時30分に業務を終えた後、会社の玄関で、 自宅の近くに住んでいて自転車で通勤している同僚と会ったので、その同僚の自転車の荷台にのせてもらい、 通常の通勤経路を帰宅する途中、砂利道でハンドルをとられ、 自転車と共に転倒し、負傷した。

自転車に二人乗りをすることは一般的に禁止されているが、 処分庁は、 あえて二人乗りをして通勤したことが、「合理的な方法」 による通勤と認められるかどうか審査したうえで、 この件を通勤災害として結論付けている。

この結論に至る前提として、 災害発生場所は香川県の田舎道であり、 車の交通量は少なく、 二人乗りがよく見られるという背景があった。 このような環境で、自転車の二人乗りという通勤方法が合理性を欠いたものと解するのは妥当ではないと判断したのである。

この論理で考えると、逆に、車の交通量が多く、公共交通の発達している大都市で、 誰も二人乗りなどしていない環境であれば、自転車の二人乗りは合理的方法ではないという判断もありうる。そのため、単に環境の問題だけではなく、自転車の方が実は早く帰宅できるとか、交通事故や人身事故で交通機関が麻痺していたとか、 終電を逃したため会社の自転車を二人乗りして帰るなどの、 自転車の二人乗りに合理性が認められる可能性がある事情を見逃してはならない。

時代背景変わり「支給制限」該当もあり得る?

ところで、 紹介した事例は昭和49年に起こった事案であり、 当時の感覚で自転車の二人乗りが「一般的に禁止」 と解説されている。 しかし、40年以上も前の、昭和の時代の話であり、市民生活をおくるうえでの規制や社会常識も現在とは大きく異なる。自転車も車両であるということはこれまでも法律には書かれていただろうが、 信号無視も無灯火も注意されることはあっても罰金を取られることはなかった。 当時は自転車の二人乗りに社会も寛容だったに違いないが、 現在は危険な違反を繰り返す自転車利用者に自転車利用講習の受講を義務付ける時代である。 また、 最近は自転車の左側通行を徹底するために路側帯にまで自転車の進行方向表示が施されるようになっている。このように「一般的に禁止」というレベルではなく、社会的な害悪として危険な自転車利用が駆逐されるようになってくると、 自転車の二人乗りが「故意の犯罪行為もしくは重大な過失により負傷、疾病、傷害もしくは死亡もしくはこれらの原因となった事故を生じさせたとき」 (12条2の2)にあたり、保険給付の支給制限の対象になるのではないだろうか。

このような疑問が湧いてきたので、 次回はその行為に対する非難の度合いがさらに強い飲酒運転を例にあげて、 「合理的な方法」に入るか考えてみよう。

関西労災職業病2017年2月474号