通勤災害の認定について(6)飲酒運転による事故

「支給制限あり得る」扱い

飲酒運転の厳罰化により、酒を飲みながら車を運転する人は見かけなくなったし、自家用車で行かなければならないような場所にある田舎の飲み屋が商売あがったりだという話も聞くようになった。夜の繁華街を歩いていると、大都会でも地方都市でも「運転代行」 と書かれた札を掲げる車も辻ごとに見掛けるし、もはや全国どこにいっても飲酒運転をする人などいなくなったと言っても過言ではないだろう。

一方、 本連載でたびたび事案を引用している「通勤災害認定事例総覧」(平成3年労働省労働基準局補償課編)には、通勤における「合理的な方法」について、「軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがある」と書かれている。

通勤途中に飲酒をするとか、 帰宅前に一杯やってから車に乗るなど、 喉を潤す程度のことであれば飲酒運転であっても事故等が発生した場合、通勤災害として認められるらしい。

しかし、 25年以上も前の資料である。飲酒運転に関する道路交通法の改正があった2009年以降はこの文言も変わっているのではないだろうか。 「業務災害及び通勤災害認定の理論と実際」 (労務行政研究所編)は、初版は平成9年だが、改訂を重ねて平成26年に第4版が出版されている。最新版を購入したので、通勤災害における「合理的な方法」 の解説を読んでみよう。

すると驚くことに、 「軽い飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、 免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがある」と、 一言一句変わらずそのままの解説が記されている。社会の流れに逆行することになるが、「労働者が故意の犯罪行為または重大な過失により…負傷、疾病、傷害、死亡もしくはこれらの原因となった事故を生じさせ、又は負傷、疾病もしくは障害の程度を増進させ、もしくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる」 と労災保険法の条文にも記されているとおり、 犯罪行為であっても、 支給制限 (給付額の30%が控除される)は定められているが、支給しないとは書かれていない。

給付されないケースは、「労働者が、故意に負傷、疾病、傷害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、 政府は、 保険給付を行わない」 とあるように、 労災保険から保険給付を受けるべく、 故意に事故を発生させたときである。

ところで、 飲酒運転をしながら通勤災害が認められたケースをどうしても見つけることができなかった。前述のネタ本からは、「認められなかった」 ケースしか出てこなかったのである。そのため、通勤災害として認められなかった飲酒運転ケースから、どの程度であれば認められるのか検討してみよう。

飲酒運転での不支給事例

  1. 業務終了後飲酒し、 バイクで帰宅する途中の災害
    タクシー運転手として勤務していた被災労働者は、夜勤明けで仮眠をとったあと浴場で入浴後に清酒3合を飲酒し、バイクで帰宅途中、歩道より子供が車道に飛び出したため、これを避けようとして転倒し負傷したが、清酒3合を飲んでバイクを運転することは、正常な運転ができないおそれがある「酒酔い運転」に該当することから、「合理的な方法」 で通勤をしたものとはいえず、 通勤災害と認められなかった。
  2. 帰宅途中において過度の飲酒の結果、水田に転落し溺死した災害
    業務終了後午後6時20分頃焼酎を持参して自転車で退社し、その後の足取りは不明であるが、 同日午後9時頃水田に転落し溺死した。 焼酎は2~3合減っており、死体検案時の所見によれば血中アルコール濃度が405mg/dlであり、被災者は泥酔ないし昏睡状態であり、 正常な自転車の運転はもちろん歩行することさえ困難な状態であったと認められることから、 このような状態で自転車を運転することは通勤のための合理的な方法とはいえず、 通勤災害と認められなかった。

この2例から考えると、「酒酔い運転」の場合は合理的な方法にあたらず、 「酒気帯び運転」 程度であればまだ 「合理的な方法」として認められる可能性があるといえるだろう。

道路交通法の解説によると、 酒気帯び運転は、血中アルコール濃度が0.15mg/ml以上となっており、 この濃度が0.25mg/ml以上となると道路交通法上の罰則が大きくなる。

「酒酔い運転」は、血中アルコール濃度に関係なく動作が不確かになり、感覚が鈍くなっている状態を指すが、本人はしっかりしているつもりでも、血中アルコール濃度の高さから酒酔い運転と判断されることもありうる。
いずれにせよ自分の通勤交通災害が認められるか否かよりも、他者を事故に巻き込まないかという、より大きな問題につながっていることから、 飲酒運転は絶対にしてはならない。

関西労災職業病2017年3月475号