通勤災害の認定について(3)「就業に関し」:終業後の時間の使い方

「就業に関し」の範囲

この連載は今のところ労働者災害補償保険法7条2項の 「就業に関し」 に焦点を当てている。
条文を読み返してみると、「…通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、 業務の性質を有するものを除くものとする。」と書かれており、「就業に関し」とある以上、 住居と就業の場所等の移動が就業に伴うものでなくてはならない。

すなわち、業務に就くために移動することと、業務を終えて帰宅することが同法でいうところの通勤であり、 条文の解説には、「通勤と認められるためには、往復行為が業務と密接な関連をもって行われることが必要とされる」との記載がある。

「密接」というと、辞書には「すき間もなく、ぴったりとくっついていること」 という意味が与えられており、 字句通りに受け取ると、 出勤してすぐに仕事に取りかかり、 終業後はすぐに帰路につくということになるだろう。業務前に仕事と関係のない活動をするために家を出て職場に向かうことや、仕事が終わったにもかかわらずすぐに帰宅しないとなれば、 それらの移動は通勤ではないということになる。

例をあげると、 社内サークル活動のために朝練に来る途中に事故に遭った、用もないのに会社に行った、終業後に労働組合の会合に参加した帰りにケガをした、 というようなケースである。

しかし、あまり厳密にすると会社は単に仕事をするためだけの施設になってしまう。解説には「業務の終了後、事業場施設内で、囲碁、麻雀、サークル活動、労働組合の会合に出席をするような場合には、 社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほどの長時間となるような場合を除き、 就業との関連性が認められる」との記載があることから、今回は「就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほどの長時間」 ではないものの範囲を考えてみよう。

「就業に関し」の事例

昭和40年代後半から 50年代初めに判断されてきた事例であるが、 次のようなケースで就業との関連性が途切れていないとされてきた。

  1. 業務終了後、事業場施設内で労働組合の用務を行った後の帰宅する途中の災害
    被災労働者は、 業務終了後引き続き労働組合の会計の仕事を社内の自分の席で1時間25分行った後、帰宅する途中に負傷した。 事業場内施設で行った組合用務1時間25分は、「社会通念上就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほど長時間」 にはあたらないとして通勤災害が認められている。
  2. 業務終了後、 事業場内施設内で慰安会を行った後の帰宅する途中の災害
    被災労働者らは夜勤明けの午前6時以降、入浴・着替えをしたのちに、当日雨で中止になった職場の潮干狩りのために用意した弁当の処分会を1時間ほど行った。 その後の帰宅途上で交通事故に遭ったが、弁当を食べていた1時間程度の時間が 「就業と帰宅との直接的関連を失わせるほど長時間」 ではないと判断され、通勤災害として認められている。
  3. 業務終了後、 事業場内施設内でサークル活動を行った後の帰宅する途中の災害
    被災労働者は、午後5時10分に業務終了後、 社内茶道室においてお茶の稽古に参加した。 その後午後8時頃退社したところ帰宅途中に暴漢に襲われて殺害されたが、 業務終了後から退社までの時間が2時間50分と 「社会通念上、就業と帰宅との直接的関連を失わせるほどの長時間」であるため、その後の帰宅は通勤ではないため通勤災害として認められなかった。
  4. 業務終了後、事業場施設内で長時間過ごした後の帰宅する途中の災害
    被災労働者は、業務終了後の午後5時5分から午後7時10分までの2時間5分、 翌日の労働組合の年度総会に提出する決算報告書資料の作成を行い、 その後帰宅途中に負傷した。 業務終了後の事業場滞留時間から判断した場合、 一般的にはその後の帰宅行為には就業関連性が失われたものといえるが、 その時間は極めてわずかであり、かつ滞留事由に拘束性・緊急性および必要性があり、 また、 事業主が事業場施設内において組合用務を行うことを許可している等の要件を充足していることを考えると、本件帰宅行為に就業との関連性を認めるのが妥当であると判断された。

これら4つの事例によれば、1時間半程度の滞留では長時間と判断されず、 3時間近く終業後も事業場に残っていたケースで業務外とされている。 また、 2時間5分の場合は、 事業場に留まった時間だけを考えると就業との関連性が失われていると判断されるが、 「その時間は極めてわずか」と述べられているところから、 「就業と帰宅との直接的関連を失わせると認められるほどの長時間」 とは2時間以上となると考えられる。

2時間は目安

もっとも、その2時間についても厳密に2時間を超えることで就業との関連性が認められなくなるというものではなく、背景事情も考慮される。
先にも述べたように社会通念上2時間程度は事業場でサークル活動や囲碁、 麻雀を行うことで就業との関連性を失わないとしているが、このような活動がそれほど一般的ではないような気もする。
もう少し現代的な活動を入れるとすれば、 終業後にネットサーフィンで2時間を費やすことなどがあげられるだろうか。

関西労災職業病2016年11・12月472号