和歌山県田辺市が第三者委員会設置へ/市危機管理局長公務災害死亡の原因調査で

事実調査と評価を

和歌山県田辺市の職員だった中野典昭さんが2018年8月に、台風の対応に当たった後に亡くなって公務災害に認定された件について、少し進展があった。

前回本誌2022年8月号で、中野さんの遺族が田辺市に対して、台風対応の時に中野さんにどのような負荷がかかったのか事実を明らかにするように求め、田辺市と話し合いを行った経緯を報告した。

田辺市は、災害時に防災体制のトップである副市長が登庁しなかったことについては、「本来は登庁するべきであった」と認め、遺族に公務災害に至った経緯を説明するなどの対応を怠ったことについては謝罪した。しかしながら、副市長を自宅待機とした経緯や実際の責任体制がどうだったかについて、充分な説明をしなかった。話し合いの中で、田辺市は中野さんの死亡の原因となった業務上の負荷について、新たに調査や判断を行うことはないということが分かった。

田辺市議に協力を要請

田辺市との話の中で、度々、「我々には調査権限はありませんので…」という言葉があった。それなら、調査する機関を設置してもらおうと、遺族は考えた。遺族は、田辺市に有識者による第三者委員会の設置を求めることとした。
企業や自治体など組織内の不祥事などの調査のため設置されることが多い第三者委員会であるが、田辺市としては特にそのような機関を持っているわけでもなく、設置を求めたとしても実行するかしないかを決めるのは田辺市だ。ただ申し入れても実現する可能性は低い。
第三者委員会を設置するには、まず、市によって条例を作成して市議会に通し、同時にそれに伴う予算案なども市議会の承認を得なければならない。
市議の協力は不可欠として、まず、遺族から田辺市議に面会を求め、説明し協力を求めることとした。
遺族は20名いる市議のほとんどと面会した。公務災害で職員が死亡しているということから、耳を傾けてくれる議員も多かったという。死亡の原因究明ということであれば協力できるという返答もあり、田辺市と田辺市議会に申し入れを行った。

第三者委員会の設置を申し入れ

2022年11月14日、田辺市長宛、田辺市議会議長宛に申入書を提出した。

申し入れの内容は、以下の通り。

  1. 台風20号への対応業務について、①組織体制(職員の配置状況や連絡体制を含む)、②責任の所在、③意思決定の具体的プロセス、④具体的な対応内容(各職員の職務執行状況を含む)等の事実経過を調査すること。とくに中野典昭にかかった負荷要因について詳細に明らかにすること。
  2. 調査した事実に基づいて、問題点を明らかにすること。
  3. 委員会は、調査結果について報告書を作成し、市民に公表すること。

その後、先に市議会から回答を文書で渡すと連絡があり、12月5日、回答を受けとった。

回答内容は要約すると、第三者委員会は市議会が設置するものではない、というものだった。回答を受けとった後の話し合いで、市議会として設置はできないが、田辺市が設置をするように働きかけはできると言われた。市議会からの提案にしたがい、田辺市に働きかけを行ってもらうことになった。

田辺市からの回答

その後、市議会からかなり遅れて田辺市からも回答文書を渡すとの連絡があり、12月19日に面談する予定を設定した。

ところがすぐに、田辺市から日程延期の申し出があり、理由は市議会の話を聞く予定が入って、回答はその後にしたいということだった。了解し、連絡を待つことにした。

しばらくして、回答を郵送したいと連絡があった。以前に日程調整で1か月くらい先まで日程が入れられなかったこともあったため、年末も近く、日程を再調整して年が明けても困るので、とりあえず送ってもらうことで了承した。その際に、第三者委員会を設置する方向としたとの言葉もあった。

12月20日回答書が届いた。回答書の日付は12月19日だった。

「第三者委員会を設置する方向で取り組んでいくことにいたしました」という内容だった。

回答書によると、まず設置するための根拠となる条例を制定する必要があるので、条例案を2023年3月の市議会に提出する、第三者委員会の設置はその後となる、ということだった。

これまで田辺市との話し合いで、まったく調査がされずにきたため、初めて何らかの調査が行われる可能性が出てきた。

この回答を受けて、12月26日に遺族は田辺市役所で記者会見した。

中野さんの妻は、「やっと、第一歩」と言い、喜びよりも第三者委員会はどのような人が委員となり、どこまできちんと調査できるのかとの心配が前面に出ていた。

年が明けた1月16日、第三者委員会についての今後のスケジュールや条例の詳細について、田辺市から説明を受ける機会を持った。

条例については、今回の中野さんの案件の第三者委員会に限定した内容とする予定であること、委員については大阪など和歌山県外でこれまで田辺市と関わりがない団体に推薦を依頼するとした。委員は3名と考えていて、弁護士会・社労士会に推薦を依頼するつもりであるが、受けてもらえるかはわからない、あと1名は学識者に依頼したいとのこと。

中立の第三者という観点で、妥当な判断である。

3月の議会で条例が成立すれば、可能なら4月中に委員を任命して、5月には委員会を立ち上げたいが、委員がいつ決まるか次第である。予算案を条例と同時に来年度一年の予算を立てる。もし一年で委員会の目的が達成できなければ予算は持ち越し、委員会を続ける。

分かったことは、このくらいで条例の詳細が明らかになるまでは、はっきりしたことは分からない。

ともかく、無事第三者委員会の設置に動き出した田辺市、今度こそ、事実に近づくことを期待する。

2022年12月19日付田辺市長名回答

関西労災職業病2023年1月539号