様々な公務災害の「法定外補償」上積補償制度の存否、職員間格差

最低限の補償制度は漏れなくあるけれど

地方公共団体で働く人の災害補償は、 事業の種類、 勤務時間や任期によって適用される法律が違い、 内容もいろいろだ。 常勤職員と非常勤職員、 労基法別表第一の事業と官公署の事業。 賃金や給料を受け取るのか報酬なのか。
ただはっきりしているのは、すべての職位について、制度はあてがわれている。選挙で選ばれる首長や議員、学識経験が認められて委嘱される○○委員会の委員、 地域で選ばれ委嘱され無報酬で活動する民生委員、 火事が起きたときや訓練のときだけ勤務する消防団員・・・、漏れはない。
その補償内容についても労災保険法 (労働者災害補償保険法)と地公災法(地方公務員災害補償法) は均衡が図られている。地公災法第69条にもとづき各地方公共団体が定める非常勤職員の補償制度も、 「均衡を失したものであってはならない。」 (地公災法第69条第3項) と法律の条文で釘を刺してあるように、補償制度はすべからく公平にいきわたるようになっている。
憲法で 「勤労条件に関する基準は法律でこれを定める。」 (第27条第2項) を根拠とする勤労条件の一つとしての災害補償だから、 制度が公平でなければならないのは当然だ。
しかし、 これはあくまで“最低限の”勤労条件での話だ。

民間の法定外補償制度あるにはあるが少数派

低限の補償以外に、いわゆる法定外補償の制度がある。 民間の職場なら、 労使で上積補償の協定を定めていたり、 中小企業なら会社が損保会社と労災付加給付のための保険契約を結び、社内制度として労災保険法によるもの以外の給付をする制度を設けている場合が少なくない。
法令上の義務に上積みする (付加する)ものだから、 それだけでは事業主にとって制度を設ける誘因にはならない。 ところが制度を損保会社の保険契約でまかなうこととしたとき、 支払う保険金は税法上の損金扱いになるという利点があることから、 収益を上げている中小企業の経営者なら、 加入しておこうかということになる。かくして、 労働組合との上積補償協定締結などの要因がなくとも法定外補償制度は、中小事業場であっても珍しいものではなくなっている。
たとえば民間の労務行政研究所が07年に実施した 「人事労務管理諸制度実施状況調査」 によると、 調査対象となった上場企業クラスの法定外補償制度の実施率は、 業務災害で49.3%、通勤災害で38.4%となっている。損保会社は各社とも、法定外補償のための企業向け商品をそろえていて、 代理店が中小企業への営業に力を入れていることは、WEBで検索すればすぐわかる。
ただそうは言っても、 制度を設けているのは上場企業クラスでせいぜい半分にすぎない。産業別では製造業に限ると6割程度になるが、 非製造業では3~4割にとどまるという。 大手の労組であっても法定外補償制度を要求に掲げるのは製造業の産別であって、 非製造業が掲げることは少ないことも影響しているのだろう。 そういうことからすると、 いくら損保会社の営業が盛んであったとしても、 小規模な事業場で法定外補償制度を設けているのは少数派ということになる。

法定外補償に対応した公務災害の特別援護金制度創設

さて公務員の場合、法定外補償はどうなるだろう。国家公務員災害補償法と地方公務員災害補償法は、本体の給付ではない「福祉事業」のなかで、「障害特別援護金」と「遺族特別援護金」の制度を設けることにより対処する形をとっている。 障害特別援護金は、障害補償の受給権者に、公務災害の場合は第1級1540万円~第14級45万円、通勤災害の場合は第1級975万円~第14 級30万円を支給する。遺族特別援護金は、遺族補償の受給権者に公務災害で1850万円~744万円、通勤災害で1130万円~450万円を給付する (表1~3参照)。
労災保険にはないこの制度ができたのは、障害特別援護金が昭和51年4月、遺族特別援護金が50年1月のことだ。制度創設以来、たびたび給付額は改訂され、現在の水準まで引き上げられている。 (遺族補償一時金の受給権者の範囲が労災保険より広いことなど、 労災保険にくらべて本体給付も充実しているが、 援護金もこれに対応したものになっている。)
制度創設の理由としては、「民間企業における法定外給付を考慮して、 公務において独自に支給」 と説明されている。 民間の法定外補償の支給内容は様々だが、最近では遺族補償や障害等級第1級で2千万円程度の支給が平均的なところという評価がある。国家公務員災害補償制度の補償制度を運営する人事院の判断として、 こうした評価にもとづき制度設計しているといえるだろう。地方公務員災害補償法の福祉事業においても、 これに倣うかたちで制度ができている。

地方公共団体の見舞金条例 それぞれ独自の補償制度も

一方で地方公共団体においては、民間の法定外補償に該当する制度として、 見舞金条例を制定するところが、 都市部を中心に増えている。
筆者がWEBで個々の地方公共団体の例規集をあたってみただけで、 「○○市見舞金支給条例」 が相当数制定されていることが分かった。ただ、条例制定は地域的な偏在がはげしく、 大阪府下でも北部の自治体では軒並み制定されているのに対して、 東部、南部は存在しない方が多数派だ。京都府、 兵庫県はごく一部に制定がみられ、 和歌山県は皆無である。
見舞金条例が制定されている地方公共団体は、 もともと地公災法上設けられている援護金の受給に、 所定の見舞金が重ねて支給されることになる。
全国的に調べてみても、 都市部で偏在的に各団体が見舞金条例を制定している地域がいくつかあることが分かる。ただ、その法定外補償内容の設定の仕方をみると、 基本的な考え方の違いからか、 いろいろな適用関係の特徴があることが分かる。

特別援護金が実施されない東京23区の非常勤職員

ここでは東京都の特別区の例をみてみよう。東京23区は共同事務処理をする「特別区人事・厚生事務組合」を特別地方公共団体として設置しており、公務災害補償についても共通の条例を制定し、 その事務を処理している。 具体的には、 地公災法第69条にもとづき定められた「特別区非常勤職員の公務災害補償等に関する条例」 や見舞金制度を定めた 「特別区職員の公務災害等に伴う見舞金の支給に関する条例」 を運用している。
まず、 第69条にもとづく非常勤職員の公務災害補償条例は、 その対象となる職員を「特別区の議会の議員、委員会の非常勤の委員、非常勤の監査委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、非常勤の調査員並びに嘱託員その他の非常勤の職員」 とし、労災保険法などの適用とならない23区全部の非常勤職員すべてとしている。
ただこの条例の補償実施の内容は、 総務省が示していて、 ほとんどの地方公共団体がそのまま倣って制定している条例 (案)によるものから少し変えている。
福祉事業について規定した条文の第1項は「次のような事業を行うよう努めなければならない。」とし、その第2号は「被災職員の療養生活の援護、 被災職員が受ける介護の援護、 その遺族の就学の援護その他の被災職員及びその遺族の援護を図るために必要な資金の支給その他の事業」とある。この条文にもとづき休業援護金、奨学援護金、特別支給金など、労災保険と同等の給付が行われることになり、 そこに公務災害の場合は、 障害特別援護金と遺族特別援護金が追加して実施されることになる。 この実施する福祉事業の種類は、 施行規則の条文の中に列記される。
ところが東京23区の条例では、 この公務災害独自の給付金が省かれているのだ。つまり議会の議員や非常勤の委員会の委員、その他の非常勤職員については、実施対象から外しているのだ。 もちろん常勤の公務員など地公災基金の補償を受ける職員は、 全国一律で当然に特別援護金を受けることになる。
こうした制度設計は、これだけをみるととても不可解だ。東京23区だけが非常勤職員を単純に差別するというのもおかしな話だ。 ところがもう一つある、 見舞金の支給を定めた条例を読んでみると、 考え方が分かる。

常勤と非常勤で格差つける東京23区の上積補償制度

東京23区の 「特別区職員の公務災害等に伴う見舞金の支給に関する条例」 は、 地公災法にもとづいて福祉事業として実施される各種給付に付加して支払われる 「見舞金」について定めたものだ。要するに民間の法定外補償に対応するものといってよい。
見舞金の対象となる「職員」は、①地公災法第2条第1項第1号の規定に該当する職員、 ②特別区非常勤職員の公務災害補償等に関する条例第2条の規定に該当する職員、 ③前号に掲げる者以外の非常勤の職員となっている。 ③は労災保険法が適用される非常勤職員や消防団員も含まれることになる。 したがって見舞金は区から委嘱されたり任用されたりして働くすべての職員について、 その職員に適用される法定の災害補償給付が行われるのと同時に、 見舞金が支払われることになる。
ただし、見舞金の額は「常勤職員及び議員」と「非常勤職員」に分けてあり、非常勤職員は低い額の見舞金が適用されることとなる (表4参照)。
つまり民間の法定外補償に見あった分の支給額がいくらになるかというのは、 常勤と非常勤で差を明確につけたうえで、 すべての受給権者に支給するということになる。 具体的に遺族補償の受給権者に支給される額を考えると次のようになる。
常勤職員は、 遺族特別援護金18,600,000円に見舞金30,000,000円で、合計48,600,000円。 議員の場合は、 見舞金だけが支給されるので30,000,000円。非常勤職員は見舞金だけで21,600,000 円。
見舞金条例を設けていない地方公共団体の場合は特別援護金だけになるので、 東京23区の場合、 この見舞金があるので特別援護金を上回る額が支給されるので、 そもそも見舞金がないところに比べると支給額は高いことになる。ただ、常勤と非常勤で差をつけていること自体をどう考えるかという問題は残るだろう。
(このような制度設計がされているのは、東京都も23区とまったく同様である。)

常勤、条例適用非常勤、労災適用非常勤消防団員・・格差ない自治体も

東京23区のような常勤、 非常勤で差をつける補償制度と対照的な設定の仕方をしている地方公共団体もある。 ここでは大阪府高槻市の例をあげておくことにする。
同市の場合、 地公災法第69条にもとづく条例の規定は、 当然に福祉事業で障害特別援護金を遺族特別援護金を実施しているが、 その対象とならない労災保険が適用される非常勤職員についても 「労働者災害補償保険法の適用を受ける職員の休業補償等に関する規則」 の中で支給することを規定している。
また、 労災保険が適用される非常勤職員が不均衡な補償とならないように、 念のための条文まで設けられている。 (今年3月号でも触れているが、 あらためて掲載する。)

高槻市
○労働者災害補償保険法の適用を受ける職員の休業補償等に関する規則
平成10年3月25日規則第6号
(障害特別援護金及び遺族特別援護金)
第6条 法第12条の8第1項第3号に規定する障害補償給付又は法第21条第3
号に規定する障害給付を受けた職員に対し障害特別援護金を、法第12条の8第
1 項第4号に規定する遺族補償給付又は法第21条第4号に規定する遺族給付を
受けた者に対し遺族特別援護金をそれぞれ支給する。
2 障害特別援護金及び遺族特別援護金の支給については、 高槻市議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例(昭和42年高槻市条例第52号
以下「条例」という。)の適用を受ける職員の例による。
(その他の補償又は福祉事業)
第7条 前3条に定めるもののほか、法の規定による保険給付又は労働福祉事業
が行われる場合において、 条例を適用した場合に行うことができる補償又は福
事業に満たないときは、 その満たない分に相当する補償又は福祉事業を行うものとする。

そして同市の見舞金条例は、 対象となる「職員」を、①地公災法、②労災保険法、③議会の議員その他非常勤職員の公務災害補償条例、④消防団員等公務災害補償条例の適用を受ける者と規定している。 見舞金の支給内容は、 公務上災害と通勤災害で差をつけず、死亡見舞金が30,000,000 円、障害見舞金が第1級30,000,000円~第14級750,000円としている。
したがって、 同市の場合法定外補償に見あう給付は、 差別なくほぼすべての職員について同額が支払われることになるわけだ。

特別援護金を控除する見舞金条例も

あともう一つ、 名古屋市の見舞金条例の事例をあげておこう。
同市の場合は、 見舞金の支給対象を常勤職員に限っているが、 金額は死亡見舞金が30,000,000円、障害見舞金が第1級30,000,000円~第14級750,000円という額は、 高槻市と同様だ。 ただ同市の条例には 「福祉事業との調整」 という条文を設けている。つまり、出向先で労災保険が適用される場合などを除いて特別援護金が支給される場合は、 見舞金からその額を控除して支給するというのだ。
また、 派遣された職員が派遣先で同一の理由で見舞金相当額の給付を受けるときは、 それも控除するとしている。
こまかい調整規程を設けたものだとも思えるが、 これもある意味、 合理性があるといえるかもしれない。

さて、 東京23 区や東京都の制度と高槻市の制度はどちらが適正なものといえるか、 見舞金条例そのものが制定されていない地方公共団体の公務災害補償制度は、地公災法上の特別援護金制度でよしとするのか、 しかるべき議論があってよいと思うのだがいかがだろうか。

(201910_504)