フリーランスの特別加入制度<フリーランス法>がスタート-連合の特別加入団体が11/1に始動

すべてのフリーランスが労災保険特別加入の対象に

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が、11月1日から施行される。
従業員を使用せずに事業者からの業務委託を受ける個人事業者(フリーランス、法律では「特定受託事業者」と定義する。)について、①企業などの発注事業者との間の取引の適正化、②就業環境の整備を図り、安心して働ける環境を整備することが、この法律の目的だ。
取引の適正化とは、業務委託をする事業者に対して①フリーランスに業務委託をしたときの給付の内容、報酬の額等を明示する、②給付を受けた日から60日以内の報酬支払期日を設定して支払う(再委託は30日以内)、③具体的行為を7つ挙げ利益を不当に害してはならないとする義務を課した。
就業環境の整備としては、①募集情報の提供で虚偽の表示等をしてはならず正確かつ最新の内容に保つ、②フリーランスが育児介護等と両立して業務を行えるよう申し出に応じて必要な配慮を行う、③ハラスメント行為に対する相談対応等の体制整備等の措置、④業務委託を中途解除する場合等には30日前までに予告、という義務を課すこととしている。
違反した場合の対応としては、公正取引委員会、中小企業庁長官又は厚生労働大臣は、違反行為について助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をすることができるものとし、命令違反や検査拒否等に対し、50万円以下の罰金に処する、とした。
このフリーランス法の施行にあわせて施行されるのが、労災保険の特別加入制度の対象範囲拡大だ。(本誌6月号で既報)
個人事業者について、これまでのように業種や作業内容を特定して特別加入を認めるのではなく、フリーランス法の対象となる特定受託事業及び消費者から直接委託を受けて行う同種の事業について、業務の内容を問わず特別加入を認めることとなる。
建設業や運送事業者などの一人親方や農作業従事者のような特定作業従事者の特別加入は、特別加入を希望する者が団体を作り、団体として加入することを前提としている。したがって通常の場合、個人事業者が労災保険に加入する場合、すでに運営されている特別加入のために設立された団体、つまり特別加入団体を通じて加入することとなる。
法律上、労災保険特別加入のしくみは、特別加入団体を一つの事業場とみなし、特別加入者はそこで働く労働者とみなして適用することとなっている。つまり所在地を所轄する労働基準監督署に届け出て、都道府県労働局長に要件の具備が確認されたら特別加入団体と認められることになり、その構成員が特別加入者となる。以降、特別加入団体は個々の加入、脱退をその都度労働基準監督署を通じ労働局長に届け出る事務を扱う。
これまでの業種や作業ごとに設立された特別加入団体は、加入者数が原則30人以上であることや、労働災害防止のための取り組みをしているなどの要件が確認されたら認められることとされている。
建設会社や設備工事の自営業者に、消費者向けのサービスを委ねるメーカーが主導する団体や、地域の同業種組合など、様々な特別加入団体が業種、作業の種類ごとに設立されていて、現在約4500団体が運営されている。

(出 典 )「特 定受 託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」(内閣官房新しい資本主義 実現本部事務局、
公正 取引委員 会 、中小企業庁、厚生労働省)を基に厚生労働省労働基準局労災管理課において作成。
(参 考 )「フ リー ランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ」 ( 厚生労働省ウェ ブサイト) :
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

要件さえ満たされたら認められるので、設立はそう難しいものではなく、実際、インターネット上で検索してみても、建設業などの場合、ウェブサイトのみを加入の窓口にして、事務手数料の収入を目的にしたとみられるビジネスとしての特別加入団体も少なくない。
また特別加入制度には、実質的には労働者として指揮命令を受けて仕事をしているにも関わらず、使用者責任を逃れるために請負人として特別加入をさせる事例が紛れ込んでいることはよく知られている。もともと違法な取り扱いのため、その比率のデータがあるわけではないが、加入者の申告で加入手続きをとるならばチェック機能が働くことはなく、そのまま加入者として扱われることとなる。
さらに特別加入制度では、その加入者が日常行う業務の種類が明確になっていることが必要という問題がある。労働者は使用者の指揮命令により、働き、その対価として賃金を受け取るのに対し、個人事業者はどの行為が業務にあたるのかが不明確な場合がある。そのためこれまでの一人親方等の特別加入は業種等でその枠を固定してきたのだった。特別加入団体は、その個々の加入者の業務について加入時に明確にしておく必要がある。
このような特別加入制度がもともと持っている問題点は、今回のフリーランスの特別加入制度で設立される特別加入団体では、しっかりした対処ができる体制が整っている必要がある。

連合フリーランス労災保険センターが11/1から加入申し込み受付開始

労働政策審議会労災保険部会での議論でも当初より指摘されており、今回の省令改正に伴って発出された行政通達では、新たな特別加入団体の要件が示された。
その要件は、①活動期間1年以上で100名以上の会員の存在、②全国を単位として団体を運営し都道府県ごとに加入を希望する者が訪問可能な事務所を設けること、③災害発生時の労災保険給付等の各種支援を行うこと、④加入者に対し適切に災害防止のための教育を行うこと、とされている。
この要件を満たすことができ、特別加入団体を運営する意向を持った団体は、現在のところ労働政策審議会労災部会でのヒアリング対象となった、労働組合の連合とフリーランス協会(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)ということになる。
このうち連合は、5月の段階で「連合フリーランス労災保険センター」の設立を方針化し、着々と準備を進め、フリーランス法施行が迫る9月と10月に地方連合向けの説明会を開催したところだ。
「連合フリーランス労災保険センター」はすでに特別加入団体として承認済みとなっており、厚生労働省のHPでも掲載されている。
実際にフリーランスの特別加入希望者が加入手続きを行うためには、現在のところ1団体のみである同センターに申し込むことになる。申込先は以下のとおり。

団体名 連合フリーランス労災保険センター
所在地 101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-2-11
電話番号 03-5761-8338

厚生労働省の団体承認要件の一つである都道府県ごとに訪問可能な窓口は、各都道府県の地域連合となっているが、地域ごとの十分な対応は不可能なため、地域での問い合わせがあれば同センター事務局へつなぐ対応となる。また、わかりやすいウェブサイトが準備されており、こちらを通じての申し込みも可能となっている。
もちろん将来的には地域窓口で適切な対応がとられる必要があるが、しばらくの時間が必要となるだろう。
いずれにしろ、業種を特定しない特別加入は、これまでの厚生労働省の事務局や審議会での議論からは予想もしなかった問題がでてくる可能性も否定できない。今後、周知が進むにつれ、問題点が顕在化することもあるだろう。注意深く見守りたいと思う。

関西労災職業病2024年10月559号