業種を問わず「業務委託」は労災保険の対象に~11月から始まるフリーランスの特別加入制度~

フリーランス法施行にあわせた労災保険適用の拡大

今年の11月、労災保険特別加入の対象が大きく広がることとなる。

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」)」が11月1日に施行されるのにあわせて、業種を問わず「特定受託事業者」であれば労災保険の特別加入を可能とする労働者災害補償保険法施行規則の改正が行われたからである。

労働者ではないが、労働者に準じて労災保険を適用する特別加入制度は、労働者を雇用して事業を行う中小事業主(第1種)、労働者を雇用せずに事業を行う自営業者(第2種)、そして労働基準法の適用がない海外派遣者(第3種)で構成されている。

このうち第2種は、建設業の一人親方など11業種の一人親方と農作業従事者など14業種の特定作業従事者、あわせて25業種の特別加入が認められていた。厚生労働省の事務当局は、これまで、業務の範囲が特定できるかなど労災保険の運用に足る業種かどうかを検討して業種を追加してきた。令和3年度の芸能関係作業従事者、ITフリーランス、柔道整復師、アニメーター、令和4年度の歯科技工士、針きゅう師など、次々と対象業種が広がったのは記憶に新しい。

いちいち候補業種を挙げては検討して業界のヒアリングをして拡大するなどというのはいかがなものか、自己責任で仕事をすることを生業とする人々は、そもそも業種を限定することなどできず、またその業務に起因して災害に遭う危険性はどんな仕事でもあるだろうなどという見方は、厚生労働省の当局ならずとも囁かれ続けてきたところだ。

今回の改正は、「我が国における働き方の多様化の進展に鑑み、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事することができる環境を整備するため」に制定されたフリーランス法が、業種を問わずに「特定受託事業者」という当事者を法律上、明確に定義したことから、その枠組みをそのまま労災保険制度の運用に当てはめることにより解決をはかったものということができる。

対象業務は企業等からの業務委託が前提

まず、今回の改正で新たに労災保険特別加入の対象となるのは、「フリーランスが企業等から業務委託を受けて行う事業(特定受託事業)」または「フリーランスが消費者から委託を受けて行う特定受託事業と同様の事業」とされている。

個別の業種を定めるのではなく、業務委託を受けるという事業の進め方で加入の可否を決めるということになる。法律上フリーランスは「特定受託事業者」と表現され、その定義は「業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいう。」(フリーランス法第2条第1項)としている。

「業務委託」とは企業などがその事業のために他の事業者に、物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供を委託することとしている(フリーランス法第2条第3項)。

つまりフリーランスが企業等から業務委託を受けて行う「事業者間の委託取引」が特別加入の対象ということになる。さらにこの業務委託を受けて事業を行うフリーランスが、当該事業と同種の事業を消費者から委託を受けて行う業務も特別加入の対象業務としている。

業種を問わず、フリーランスの業務全体に網を広げた形だが、よくよく見ると特別加入者として補償の対象とならない仕事もいろいろありそうだ。

ちょっとわかりにくいので、厚生労働省がチラシで図解で説明しているカメラマンの場合を見てみる(下図参照)。

フリーランスのカメラマンが企業等から宣材写真の撮影を委託されて行う業務は特別加入の対象業務となり、それ以外で一般消費者から家族写真の撮影を委託されたらそれも対象となる。しかし自作した写真集を販売する事業も同時に手掛けたとしてもこれは対象業務とはならない。

そして、消費者だけから委託を受ける場合はもともと対象とならない。つまりあくまでフリーランス法が適用されるような「事業者間の委託取引」が基本であって、あとはそれに準ずるものも付属的に対象とするわけだ。

ただし行政通達では、「業務委託事業者以外の者(いわゆる消費者)のみから委託を受けて事業を行う者であっても、業務委託事業者(いわゆる事業者)から業務委託を受けて事業を行う意向を有する場合には、対象となること。」(R6.4.26基発0426第2号)としているので、基本的には消費者相手の事業をやっていても「企業からの仕事も受けるよ」と意向を示せば認めるということになる。この点についてどのように運用するのか、解釈により加入促進には差ができそうだ。

特別加入団体は全国単位の団体で都道府県ごとの事務所設置が要件

つぎに第2種特別加入では必須となる特別加入団体の要件である。

通常の業種別の特別加入団体の要件は、たとえば加入者の人数要件は原則30人などとされていて、安全衛生対策の取り組みなどいくつかの要件はあってもハードルはそれほど高いものではなかった。しかしフリーランスの特別加入団体の要件は、次のようなもので、結構厳しいものとなっている。

  • 特定の業種に関わらないフリーランス全般の支援のための活動の実績(活動期間が1年以上、100名以上の会員等がいること)を有していること。
  • 全国を単位として団体を運営すること。その際には、都道府県ごとに加入を希望する者が訪問可能な事務所を設けること。
  • 加入を希望する者等に対し、加入、脱退、災害発生時の労災給付請求等の各種支援を行うこと。
  • 加入者に対して、適切に災害防止のための教育を行うこと。

活動実績1年以上、100人以上の会員という要件もさることながら、全国を単位とした団体で、都道府県ごとに訪問可能な事務所ということになると、対応できる団体は限られてくる。

昨年11月に開かれた労働政策審議会の労災保険部会でヒアリングに応じたフリーランスの取り組み実績のある団体は、労働組合の連合とフリーランス協会(一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)だった。現在のところ、対応が可能な団体としてはこの二つではないかと推測されるところだ。

ただしこの2団体ともに、明確な労災保険特別加入の取り組み準備を進めているという情報は発信されておらず、今後の動きが注目されるところだ。

いずれにしろ、多様な業種全部に対応するのが原則であり、その中には現行の特別加入制度でも常に問題点として指摘されている、実態は労働者であるにも関わらず自営業者として扱われるようなことが拡大されるようであってはならない。

消費者だけの業務委託はダメ、個人商店主は相変わらず埒外

先にもふれたように、今回の改正は「希望するすべて」のフリーランスが特別加入できるように対象範囲を拡大する(フリーランス法参議院附帯決議)というが、あくまで特定受託事業者としての業務に限られている。

企業等から委託を受けた業務と同じ種類の業務なら個人消費者から受けた仕事も対象となるが、そうでない業務を合わせて行うときその業務は対象とならない。厚生労働省のチラシにある図で示されているカメラマンのケースと同じような場合は相当出てくるだろう。

そもそも企業等からの業務委託はなく、消費者のみを相手にする事業者は、これまでと同様に特別加入の道は閉ざされたままということになる。たとえば家族経営の商店は特別加入することはできない。

フリーランス法を前提として制度を設計したからそうなってしまうといえばそれまでだが、それではなぜ受託事業に限定する必要があるのだろうか。これまでの特定作業従事者の特別加入制度のように、業務の範囲の特定が困難だからなどというのは理由にならない。そもそも職種を限ることなく加入を認めるのだから、例えば、指定農業機械作業従事者のように、どんな機械を使うのかとか限定をしようがない。

行政通達では業務遂行性を認める行為を次のように定めている。

a 契約に基づき報酬が支払われる作業のうち特定フリーランス事業に係る作業及びこれに直接附帯する行為(「直接附帯する行為」とは、生理的行為、反射的行為、準備・後始末行為、必要行為、合理的行為及び緊急業務行為をいう。)
(注1)「特定フリーランス事業に係る作業」とは、特定受託事業者が行う作業のうち、業務委託を受け契約を締結してから最終的な物品、情報成果物又は役務の提供に至るまでに必要となる作業をいう。ただし、自宅等で行う場合については、特に私的行為、恣意的行為ではないことを十分に確認できた場合に業務遂行性を認めるものとする。
(注2)「直接附帯する行為」としては、例えば、契約を受注するための営業行為、契約締結に付随する行為及びその事務処理等が該当する。

b 契約による作業に必要な移動行為を行う場合(通勤災害の場合を除く。)
(例)契約を締結するための事前打ち合わせに係る移動、業務委託事業者又は業務委託事業者以外の者からの指示による別の作業場所への移動等

c 突発事故(台風、火災等)等による予定外の緊急の出勤途上の場合

はて?

消費者から委託をうける場合を対象業務に含めたら、業務遂行性の判断は難しくなるだろうか。そんなことはない。「事業者間の委託取引」をしているフリーランスが同種業務を消費者から受けるのは認めるが、それ以外の業務や消費者のみは認めないというのは、理由がない。

せっかく自営で働く人々の災害補償を万全にと改正を進めたのに、なぜこんな無駄な障壁を設けることになったのだろう。

複数事業掛け持ちは複数加入が必須、周知が足りない複数事業労働者給付

それからもう一つ気になることがある。

フリーランスの特別加入は業種を問わないが、既存の特別加入の制度がある一人親方や特定作業従事者の事業については、そちらで加入となる。当然のことだが、現実には複数の業種の仕事をかけ持つ事業者の割合は相当多いだろう。従来の特別加入者にも共通することだが、複数の業務に従事する事業者は、それぞれの事業について特別加入をしておかなければならない。

2020年の労災保険法改正により、複数事業労働者の給付基礎日額は合算されることになっているのだから、特別加入者自身が制度自体を理解していないと不適切な加入になる可能性がある。この点について、現在の特別加入制度に関する各種のチラシやリーフレットはまったく触れていないのはどうしたことだろうか。

枠は大きく拡大されたが、問題は山積しており、11月以降、どのように進んでいくのか、注目が必要だ。

関西労災職業病2024年6月555号