安全のきいわあど/その37・電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)
粉じんや化学物資など有害物を体内に取り入れることを防ぐ、最後の砦となるのが呼吸用保護具(マスク)だ。人の五感で感じることのできない微細な有害物をフィルタで取り除き、体内に入り込むことを防ぐ、極めて大事な装置だ。
マスクの保護性能は、フィルタの捕集性能とマスク(面体)と顔の密着性で決まる。どんなに捕集性能が高いフィルタであっても、顔面と面体の間に隙間があると、そこから外気はそのまま入ってくることになってしまう。
しかし電動ファン付き呼吸用保護具であれば状況は異なる。通常の防じん防毒マスクなら、肺力で外気を吸引するので、面体内が陰圧になるのに対し、電動ファン付きは電動により送気するので、面体内は陽圧になる。つまり仮に隙間ができたとしても外気が直接面体内に入りにくく、有害物も進入しにくくなるわけだ。
また、肺力による吸気にたよる従来のマスクにくらべて、面体内が陽圧に保たれているわけだから、当然に身体の負担も軽減されることとなる。
この電動ファン付き呼吸用保護具(Powered Air Purifying Respirators、「PAPR」)は、法令や通達で後掲のような作業に使用が義務付けられている。また、厚生労働省は防じん用のPAPRについて2014年に構造規格を定め型式検定の対象としてきたが、防毒用のPAPRについても今年10月1日より型式検定の対象とすることを決めている。したがって、猶予期間を過ぎる2026年10月1日以降は、型式検定に合格したものだけが使用可能ということになる。
防じんマスク、防毒マスクともに義務付けられた作業でなくとも、PAPRの使用は大いに勧奨されている。たとえば「第10次粉じん障害防止総合対策」(2023.3.30)では次のように使用を勧奨する。
1 呼吸用保護具の適正な選択及び使用の徹底
(2) 電動ファン付き呼吸用保護具の使用
電動ファン付き呼吸用保護具は、防じんマスクを使用する場合と比べて、一般的に防護係数が高く身体負荷が軽減されるなどの観点から、より有効な健康障害防止措置であり、じん肺法第 20 条の3の規定により粉じんにさらされる程度を低減させるための措置の一つとして使用すること。
https://www.mhlw.go.jp/content/001081822.pdf#page=8
従来の呼吸用保護具にくらべ、もちろん値段は張る。しかし、作業の快適性は大きくかわるし、何より命には替えられない。最後の砦、保護具は大切だ。
PAPRの使用が義務付けられている作業
〇粉じん障害防止規則
ずい道等建設作業のうち「動力を用いて掘削する場所」、「動力を用いて鉱物等を積み込み又は積み卸す場所」、「コンクリート等を吹き付ける場所」における作業
〇石綿障害予防規則
石綿除去作業のうち、「石綿除去作業用マスク区分1」を使用する作業
〇通達「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」
ナノマテリアルを製造・取り扱う作業
〇通達「インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業による健康障害防止対策の徹底について」
インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業
〇通達「廃棄物焼却施設内作業におけるダイオキシン類ばく露防止対策要綱の改正について」
ダイオキシン類等のばく露のおそれのある作業のうち、レベル1に該当する作業
〇特定化学物質障害予防規則
リフラクトリーセラミックファイバー等を窯、炉等に張り付ける等の「断熱又は耐火の措置」を講ずる作業
同措置を講じた窯・炉等の「補修」、「解体・破砕等」の作業
関西労災職業病2023年8月546号
コメントを投稿するにはログインしてください。