安全のきいわあど/その35・医師による面接指導2

職場における医師の役割は、法律でいろいろと定められている。最初に大規模な工場で選任が義務付けられたのが「工場医」だった。昭和13年の工場法改正で、「500人以上の職工」が条件になっている。戦後になると労働基準法は「医師である衛生管理者」の選任を義務付けた。1972年にできた労働安全衛生法は、「産業医」を新たに位置付け、選任義務の要件をあらためて定めた。

50人以上で選任を義務付け、1000~3000人では専属でなければならず、3001人以上なら2人以上とされている。

職務の内容は、

①健康診断及び面接指導等の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康保持のための措置に関すること

②作業環境の維持管理に関すること

③作業の管理に関すること

などが省令に列記されている。

また、産業医は少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならない。

以上は個々の職場ごとに選任される「産業医」という職についての決め事だが、これ以外に労働安全衛生法の条文では「医師による面接指導」という言葉がたびたび出てくる。

最初に出てきたのは2006年改正による長時間労働者に対するものだ。

脳心臓疾患の労災認定基準改正で、長時間労働による蓄積疲労の概念が取り入れられたことから、月100時間超の時間外労働を行った労働者について、その申し出により医師による面接指導の実施が事業者に義務付けられた。この労働者の申し出を前提とした実施は、その後、いわゆる働き方改革関連法により、申し出がなくとも実施が義務付けられ、80時間超の場合で疲労蓄積があり面接を申し出た者についても実施と改められた。(労働安全衛生法第66条の8第66条の8の2

新たに設けられた高度プロフェッショナル制度が適用される労働者については、労働時間よりやや幅が広い健康管理時間が、1週間当たり40時間を超えた場合、その時間について1か月あたり100時間を超える場合には、速やかに医師による面接指導が義務付けられている。(第66条の8の4

他にも長時間労働を行った労働者について、一定の要件により、申し出た者について面接指導が義務付けられている。

さらに、もう一つあるのは、ストレスチェック制度による調査票による検査の結果、高ストレス者と判明し、当該労働者が希望する旨を申し出た場合の面接指導だ。(第66条の10)この場合は、調査票による検査段階では高ストレス者であることは事業者に伝わらないが、面接指導希望した段階で伝わることになる。

さて、こうした面接指導を行う医師は、50人以上の事業場ではたいていの場合産業医が行うことが想定できるが、50人未満の場合はどうだろう。一つは健康診断などを実施する医療機関の医師が担当することが考えられるが、もう一つの手段としてあるのが地域産業保健センターである。小規模事業場対策として全国くまなく運営されているにも関わらず、いまだに十分な活用がみられないというのは大問題といえるだろう。

関西労災職業病2022年4月531号