2022年度過労死等の労災補償状況公表脳・心臓疾患、精神障害ともに、請求件数増加
コロナ関連過労死事案の発表なし
厚生労働省は2023年6月30日、2022年度の過労死等にかかる労災補償状況を公表した。
脳・心臓疾患の労災補償状況では、請求件数803件、決定件数509件、うち支給決定件数は194件で認定率は38.1%だった。
精神障害の労災補償状況は、請求件数2683件決定件数1986件、うち支給決定件数は710件で、認定率は35.8%だった。
2020年、2021年度は、新型コロナウイルス感染症に関連する過労死事案が、脳・心臓疾患、精神障害それぞれ件数のみではあるが公表され、その件数は2021年の脳・心臓疾患事案が8件中2件の認定、2020年に精神障害事案7件中認定は0件というものだった。
しかし、今回のプレス発表では記載がない。
先日、毎日新聞が、介護施設内でクラスターが発生し、事務職であるにも関わらず、職員不足のために介護や遺体の移動などをさせられた職員が、うつ病を発症して労災認定されたと報じた。このような事案は感染者が急増したときや、医療機関や介護施設などでクラスターが多発した時期には、多くあったはずである。
にもかかわらず、厚生労働省はカウントするのはやめたようだ。
今年に秋ごろには改定される予定の、精神障害の労災認定基準では、心理的負荷評価表の出来事に「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」という項目を新設する。今回報道された事案は、この項目で判断される可能性が高い。
脳・心臓疾患、基準改正で認定件数増
脳・心臓疾患の労災認定状況について見ていこう。
公表された表1-1の通り、請求件数は2021年度より50件増加で803件、決定件数は16件減の509件、そのうち支給決定件数は194件で22件増加した。これら件数のうち、死亡ケースは、請求件数218件、決定件数139件、支給決定件数54件だった。
認定率は38.1%で、決定件数は減少したが支給決定件数は増加したことにより、5.3%上がった。2020年に認定率が29.2%まで下がったが、そこからは少しずつ上がっている。
脳・心臓疾患の労災認定基準は、2021年9月に改正され、「長時間の過重業務」について、時間外労働時間が月に100時間、あるいは月平均80時間に至らないが、それに近い場合に、労働時間以外の負荷要因も評価対象として、総合評価するとした。
2021年半ばの改正だったので、2022年についてはすべてこの改正基準で判断されたことになり、その影響も考えられるだろう。後ほど、時間外労働時間別表で見てみよう。
業種別では支給決定件数が多い順に1位「運輸業・郵便業」支給決定件数56件(請求件数172件・決定件数111件)、2位「建設業」支給30件(請求93件・決定69件)、3位「卸売業・小売業」支給26件(請求116件・決定78件)で、「卸売業・小売業」が請求・決定件数は「建設業」より多いが、支給件数では「建設業」の方が多くなっている。2021年の支給件数が17件だったので、13件増加している。全体で22件増加したうちの13件が「建設業」ということになる。また「運輸業・郵便業」と「建設業」は認定率が高く、それぞれ50.4%と43.4%である。「卸売業・小売業」については33.3%であまり高くない。これは毎年の傾向である。4位「宿泊業・飲食サービス業」支給19件(請求56件・決定29件)で、こちらも請求で14件、決定16件、支給件数は12件も増加している。5位「医療・福祉」支給14件(請求77件・決定62件)、同じく5位「製造業」支給14件(請求72件・決定41件)となっている。「医療・福祉」は前年より支給件数が8件増加したが、「製造業」では9件減少している。請求・決定件数も減少している。また、気になるのは、「医療・福祉」は62件決定があっても支給は14件で認定率はたったの22.5%と低い。業種によって、認定率の差が大きいのが現状である。
職種別では、支給件数の最も多いのは「輸送・機械運転従事者」で支給決定件数57件(請求件数155件・決定件数112件)、請求・決定件数ともにダントツに件数が多い。2位「専門的・技術的職業従事者」で支給27件(請求85件・決定75件)、同じく2位「サービス職業従事者」で支給27件(請求130件・決定64件)、3位「管理的職業従事者」支給19件(請求48件・決定41件)、同じく3位「販売従事者」支給19件(請求92件・決定48件)となっている。
年齢別では順位は変わらず、50~59歳の支給決定件数が67件、40~49歳が58件、65歳以上が49件、30~39歳が18件となっている。しかし、60歳以上の件数は前年に比べて13件、30~39歳は9件増加した。決定件数は60歳以上が5件、30~39歳は2件増えただけなので、支給件数の増加割合が高いことになる。
時間外労働時間別のデータを見てみよう。
認定基準に該当する80~100時間未満の支給決定件数がいつも一番多く、49件だったが、今回は60~80時間未満の件数も同じく49件で前年に比べて、20件増加した。
やはり認定基準の改正で、80時間未満であってもほかの負荷要因を加味して認定となったケースが増加したのではないかと思われる。
その他として、「短時間の過重業務・異常な出来事」で認定された件数も記載されており、2022年度は26件で、前年比10件増だった。やはり改正で短期間の過重業務も連続1週間の深夜勤務などを過度な長時間労働と例示しており、その影響があった可能性がある。
改正で認定されるケースが増えたのなら喜ばしいことだ。
多いハラスメント事案
精神障害の労災補償状況は、請求件数が2683件で前年度より337件増加、決定件数は1986件で33件増、支給決定件数は710件で81件増加した。うち自殺事案は請求183件、決定155件、支給67件で決定・支給件数ともに12件減少した。(表2-1)
請求件数は変わらず右肩上がりで、決定件数・支給件数も増加しているが、認定率は35.8%と2.6%増加したものの、あまり変わらず低い。
まず、業種別の件数を見てみる。
支給決定件数の多い順で、1位は「医療・福祉」164件(請求件数624件・決定件数474件)、2位「製造業」支給104件(請求392件・決定301件)、3位「卸売業・小売業」支給100件(請求383件・決定282件)、4位「運輸業・郵便業」支給63件(請求246件・決定150件)、5位「建設業」支給53件(請求158件・決定98件)となっている。「医療・福祉」は前から多かったのであるが、2018年、2019年は製造業に続いて2番目で70件程度であった。それが2020年に2倍近い148件となり「製造業」を抜いて1位になった。2021年142件、2022年164件と多い状況が続いている。ちょうど新型コロナ感染症の患者が増加した時期と重なるので、コロナ対応に伴う医療現場の困難な状況や人手不足、長時間労働などを理由とした増加の可能性が考えられる。
認定率では、「建設業」54.0%、「宿泊・飲食サービス業」45.1%、「運輸業・郵便業」42.0%が高く、「医療・福祉」34.5%、「製造業」34.5%、「卸売業・小売業」35.4%と比べて高いのは、長時間労働での認定が多いからではないかと思われる。
職種別の支給決定件数で見ると、1位「専門的技術的職業」支給175件(請求件数699件・決定件数499件)、2位「事務従事者」支給109件、(請求566件・結滞405件)、3位「サービス職業従事者」支給105件(請求373件・決定293件)、4位「販売従事者」支給87件(請求308件・決定239件)、5位「生産工程従事者」支給82件(請求251件・決定204件)という順である。「専門的技術的職業従事者」では保健師・助産師・看護師が46件、社会福祉専門職業従事者26件など医療・福祉の割合が高い。
年齢別の支給決定件数では、40~49歳が支給決定213件で一番多く、次が20~29歳で183件、3番目が30~39歳で169件だった。脳・心臓疾患の支給件数と比べて、若い人の数が多いのは変わっていない。
時間外労働時間別では、支給決定件数710件のうち半数の360件が、極度の心理的負荷があったり労働時間を調査するまでもなく認定となったケースで、残りのうち、87件が20時間未満の時間外労働であるが認定されている。
出来事別支給決定件数では、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」がやはり1位で147件だった。前年の125件から22件増加した。2位は、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」で89件。3位は、「仕事の内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」で78件だった。4位は、「同僚等から、暴行又はいじめ・嫌がらせを受けた」で73件。5位は「セクシュアルハラスメントを受けた」で66件だった。6位は、「特別な出来事」61件で、これは極度の負荷や長時間労働によって負荷が「強」と判断されたものだ。このように上位にあたる出来事で分かるように、支給決定件数の4割ほどがハラスメントにあたる出来事である。精神障害事案は益々ハラスメントによる請求が増加し、とどまることを知らない。
最後に大阪の認定率だが、2022年度は34.5%だった。請求件数287件、決定件数162件、認定件数は56件だった。2021年度は36%であったので、少し下がったが、以前のように全国平均の10%程低い状態にはもどらず、ほっとしている。
この秋には、精神障害の労災認定基準が改定される予定である。出来事もかなり改変されるので、それが今後どのようになるのか、また注目していく。
【厚生労働省発表の資料】
関西労災職業病2023年8月546号
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