NC旋盤作業等での切削油による皮膚炎、大阪西労基署の業務外決定取消し/大阪労災保険審査官

「皮膚炎」業務外は取消し

NC旋盤などの金属部品加工作業に従事した労働者Aさんは、切削作業で使用する切削油にばく露したために接触皮膚炎を発症した。その後さらに現場作業により切削油ミストへのばく露が継続したことで、気管支喘息も発症し、長期の療養・休業を余儀なくされたため、接触皮膚炎と気管支喘息について大阪西労基署(以下、西署)に労災請求(休業補償請求)を行った。

これに対して西署が不支給決定を行ったため、大阪労災保険審査官に対して審査請求を行った。請求は「接触皮膚炎」(皮膚症状)と「気管支喘息」(呼吸器症状)を別々の処分として受理され、今回、接触皮膚炎について、「『切削油による皮膚炎』は職業病リスト上の疾患であること」を理由として不支給決定処分が取り消された。労使の審査参与意見は4名全員が「取消し相当」だった。

気管支喘息については今後、決定が行われる予定。

なお本件はA氏が金属機械労働組合港合同に労働相談したことから当安全センターに支援要請があったもので熊谷信二氏(元産業医大教授)の全面的協力のもとで取り組んでいる。

2018
4/16



B社入社。
NC旋盤、ペンチレース、フライス盤、ボール盤を用いての金属加工に従事。手袋は使用しない。
切削油(不水溶性切削油、研削油)に上肢、衣服を通しての下肢、顔面にばく露。
4/28夜中に両腕に発疹。朝、顔面に発疹、ヒリヒリ感、次第に増強、顔面が発熱、痛くて耐えられないほどに。
4/29顔面が赤く腫れ、各症状持続し、T病院救急外来受診。(5/8まで休業)。
5/1T病院皮膚科受診。ステロイド剤など処方。
5/9出社。顔の腫れはなくなったものの、手と前腕の痒みで眠れない日々が続き、掻きむしるので出血した。
6月~休業した先輩社員にかわり、NC旋盤にも従事開始。NC旋盤において使用する切削油のミストにばく露するようになる。
局所排気装置なく、かつ、ときおり高圧で切削油を噴射して切削くずを飛ばす「ハイプレッシャー」方式を使用するなどで、ミストの吸入をするようになる。簡易マスクの使用はしたが、オイルミストに有効な防護マスクは使用せず(支給はもちろんなし)。
皮膚症状は2019年になっても軽快することなく、数カ所の開業医においてステロイド外用剤などを処方され、就労を続ける。
2019
4/6

発熱し、息苦しさ、咳・痰の症状が出始めた
4/9E病院受診。気管支炎疑いとして各種の投薬治療を受ける。「仕事に行くと悪化するので、仕事が原因だろう」との指摘。少し軽快したので、5/23、24と出社したが、翌日には同様な症状が出て、以後、現在まで休業となる
5/28N病院呼吸器内科受診。呼吸機能は正常範囲だったが、ピークフローが予測値の80.9%と少し低めであった。また気管支喘息の指標である呼気中一酸化窒素濃度が61ppbと高かった。仕事から離れて約2カ月後の7月23日には呼気中一酸化窒素濃度は28ppb(日本生命病院)と低下し、9月3日にも28ppb(H医療センター)であった。なお、N病院ではE病院の胸部CT画像(5月20日)について「気管支壁肥厚あり」とのカルテ上の所見あり。
12/13大阪西労基署に労災請求、B社は事業主証明拒否。熊谷意見書提出
2020
7/13

不支給決定通知(日付)
9月
下旬
個人情報開示決定、開示資料交付
9/30審査請求提出(大阪労災審査官)
11/5審査請求意見書(代理人片岡意見書、熊谷信二先生意見書提出)。
2021
10/22

口頭意見陳述(審査官、西署、A氏・代理人)
11/26口頭意見陳述を受けての意見書提出(熊谷、片岡)
7/14皮膚炎について原処分取消決定
A氏労災の発症、労災請求の経過

職業病リストの例示列挙疾病なのに

A氏の皮膚症状

「切削油による皮膚炎」は職業病リスト(労基則別表第1の2)例示列挙疾病である。

すなわち、労基則別表第1の2第4号の3

「すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等にさらされる業務による皮膚疾患」

が示されている。

さらに、職業病リストについての基本通達(労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令の施行等について基発第186号昭和53年3月30日、改正基発0410第1号平成31年4月10日)の記の第2、2、(4)、ハにおいて、

ハ 「すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等にさらされる業務による皮膚疾患」(第4号3)
[要旨]
本規定は、職業性皮膚疾患の原因物質として従来から知られているすす、鉱物油、うるし、タール及びセメントに加えて近年多数の障害発生をみたアミン系の樹脂硬化剤等の混合物質に作業環境下において業務に従事することにより発生する皮膚疾患を業務上の疾病として定めたものである。
[解説]
(イ)例示された有害物質の意義は、以下の述べるとおりである。
<中略>
b 「鉱物油」とは、植物性油に対する鉱物性油を総称するもので、石油、ケツ岩油、石炭系油等がある。
<中略>
(ロ)該当する業務としては、例えば、次に掲げるものがある。
<中略>
b 鉱物油:切削油等の潤滑油、電機絶縁油又は熱処理油の製造又は取扱業務等
<中略>
(ハ)「皮膚疾患」について
<中略>
b 鉱物油による皮膚疾患には、急性皮膚炎(かぶれ)、油疹(毛包炎又は毛嚢炎ともいう。)等がある。色素沈着とゆうぜい(イボ)の形成がみられることがある。

と記載されており(下線筆者)、「切削油」は鉱物油に該当する。

A氏の皮膚炎は就労・ばく露開始から12日後に発症していてどの主治医も接触皮膚炎と診断し治療しており、職場を離れると軽快している事実がある。よって、A氏の皮膚炎は職業病リスト上の疾患=例示列挙疾病、といえる。

したがって西署は「職業病リスト上の疾患にあたり業務上」と容易に判断できた事案であった。

例示列挙疾病だと知らなかった!?

不支給決定後の個人情報開示請求で入手した西署の調査結果復命書(以下、復命書)を読んだところ、こうした職業病リストに関する記載がまったくなかった。

一般的に、職業性疾病についての労災請求がなされると労基署は種々の調査を行い調査内容と結論を復命書にまとめる。
復命書の書式として、「職業病リストの何々の疾患に該当するかどうか」を検討することから始めて、結論部分で「該当するから業務上」あるいは「該当しないから業務外」というスタイルをとる。

例示列挙疾病であるときは、その例示列挙疾病であるかどうかの検討をすることになるので、必ずそのようなスタイルになる。

だが不思議なことに本件の復命書はまったくそうなっていなかった。

そこで審査請求にあたって、請求書の「審査請求の理由」に「本件処分に係る接触皮膚炎は、労基則別表第1の2第4号3に該当する疾患であるにもかかわらず、他の原因として明らかに立証されたものが皆無であることを踏まえずに行われた不支給処分であるため」と記載して提出した。

そうしたところ、審査請求後ほどなく、上記の通常スタイル、つまり、労基則別表第1の2第4号3の疾患に該当するかどうかを判断するという形式に変更して、復命書の同内容で書き換えられた原処分庁意見書が審査官に提出されたのである。

つまり、本件の皮膚炎について「切削油による皮膚炎が職業病リストに例示列挙されていること」そして「例示列挙疾病にあたるかどうかということが調査の眼目になるということ」を、私たちの審査請求書を見るまで西署が知らなかったとしか考えられず、これには唖然とするほかなかった。

常識通りの業務上判断

いずれにしても(西署とは違って)審査官は、A氏の皮膚炎を「例示列挙疾病に該当するかどうかを判断する」という当たり前のスタートラインに立つことになった。

「例示列挙疾病であること」の意義は、切削油へのばく露と皮膚炎の医学的因果関係(評価)が確立しているという前提がある、つまり、『一定の要件を満たし、特段の反証がない限り業務上の疾病と認定されるべきものであるとされている』(『』は決定書から引用)ということである。

たしかにAさんの場合、「非特異的IgE値が高値であること」「MAST36検査が擬陽性」であり一定のアトピー素因があるとはいえるのだが、問題は、表に示した仕事状況と発症・症状経過との関係において、業務上疾病ではない=不支給処分とする、ほどのもの(質と程度)があるのか、という点である。

この点、審査官は各証拠、医証を検討したうえで『請求人の素因が大きく影響したとまでは言い難く、業務上の有害因子が相対的に有力な発症原因であったと判断するのが妥当であると認められる』とした。また、『業務を休業することにより、ばく露がなくなってしばらくすると症状が軽減』している事実はその判断の『大きな補完要因である』とも判断した。

そして『以上のことから、総合的に判断すると、請求人に発症した本件疾病は、一定の要件を満たし、特段の反証がなされたまでとは言えないと当審査官は判断することから、別表第4の3「すす、鉱物油、…皮膚疾患」に該当すると当審査官は判断する』と結論づけた。

ズサン極まる

要するに、「切削油に業務でばく露したら接触性皮膚炎を発症するということは職業病リストに掲載されているほどで、いわば自明のことである。にもかかわらず、多少、皮膚が弱い傾向がある(あるかもしれない、「お肌があれやすい」)ということをもって労災認定しない、などとは非常識きわまりない」ということだ。

であるので私たちは、不支給決定後~審査請求段階を通じて、西署自身による原処分の自庁取消を求め続けていたのであるが西署は一貫してこれを拒否、大阪労働局はそれを容認した。尾辻かな子衆議院議員に仲介いだだき直接厚生労働省本省に善処を要請したが、それでも彼らの態度は変わらなかった。

職業病リストの意義を無視するこんなズサン、不法なやり方がまかり通っていいはずはない。労災請求から不支給取り消し決定まで2年半もかける現代労災補償行政とはいったい何なのだろうか。まことに傲慢な連中である。

次の「気管支喘息の不支給処分」について、愚かな審査官決定がなされないことを願っている。

※気管支喘息についての審査請求については、棄却するとの決定書(2022年8月25日付)が送られてきた。報告は次号。

関西労災職業病2022年8月535号