2019年度過労死等(脳・心臓疾患、精神障害)の労災補償状況公表 低迷する認定率
過労死関連の労災の認定率が低迷している。
厚労省は6月26日、2019年度(令和元年度)の過労死等の労災補償状況を公表した。
ここで言う「過労死等」というのは、脳・心臓疾患、精神障害による労災のことである。
脳・心臓疾患の昨年度の労災補償状況は、請求件数936件、決定件数684件、支給決定件数216件で認定率は31.6%だった(表1-1)。
精神障害の労災補償状況は、請求件数2060件、決定件数1586件、支給決定件数509件で認定率は32.1%(表2-1)。
表はどちらも2015年(平成27年)度から載せているが、見ての通り、脳・心臓疾患では、2017年(H29年)まで37-8%程であったのが、2018年(H30年)は34.5%、昨年が31.6%と低下した。精神障害も2016年(H28年)36.8%から2017年以降は32.8%、31.8%、そして昨年の32.1%と下がっている。理由は不明であるが、どちらも請求件数が多く、調査や審査に時間がかかる案件であり、低迷は果たして慣れによる判断の鈍化なのか、判断する人物の人的要因が作用しているのか、請求の理由・内容の困難な事案が多かったのかはわからないが、厚労相は「適切に処理している」との主張を繰り返すのではなく、真摯に原因を精査・分析してほしい。
脳・心臓疾患の業種別の状況では、いつも通り「運輸業・郵便業」が請求件数(197件)、決定件数(155件)、支給件数(68件)ともに一番多い。2番目は「卸売業・小売業」(請求150件、決定104件、支給32件)で、次が「建設業」(請求130件、決定88件、支給17件)だが、支給件数は5番目の「製造業」(請求99件、決定79件、支給22件)の方が多い。次が「宿泊業・飲食サービス業」(請求63件、決定54件、支給21件)でこちらも支給件数では「建設業」より多かった。7番目は「医療・福祉」(請求55件、決定37件、支給5件)で、2018年に引き続き、決定件数に対して支給件数が非常に少ない。
職種別では、「輸送・機械運転従事者」の請求件数がダントツで多く、支給件数でも1番多い。次が「専門的・技術的職業従事者」(請求127件、決定82件、支給26件)で、3番目は「サービス職業従事者」(請求114件、決定80件、支給26件)で、支給件数は「専門的・技術的職業従事者」と同じで2番目に多い。4番目は「販売従事者」(請求91件、決定75件、支給21件)である。しかし、請求件数は多くはないが認定率が高いのは、「管理的職業従事者」(請求・決定40件、支給20件)で2人に1人が認定されている。
年齢別支給決定件数で1番多いのは50~59歳、次が40~49歳、時間外労働時間別支給件数では、認定基準ラインの月に80時間以上100時間未満が最も多く、次に120時間以上140時間未満で、100時間以上120時間未満 の順だった。基準を満たさない60時間以上80時間未満は23件認められており、160時間以上は11件あった。
精神障害の労災請求件数は2000件を超えた。1年の処理件数は1500件前後で、支給決定件数は500件ほどというのがここ3年ほど続いており、処理数としてはこれが限界なのではと考えられる。
精神障害の業種別労災状況で、まず請求件数で一番多いのは「医療・福祉」で426件、順番に「製造業」352件、「卸売業・小売業」279件、「運輸業・郵便業」178件、「情報通信業」127件、「宿泊業・飲食サービス業」104件、「建設業」93件となっている。しかし支給決定件数では、一番は「製造業」90件、順に「医療・福祉」78件、「卸売業・小売業」74件、「運輸業・郵便業」50件、「宿泊業・飲食サービス業」48件、「建設業」41件、「情報通信業」31件となっており、請求件数と支給件数では順位がけっこう入れ替わっている。「医療・福祉」については請求件数が426件とダントツであるが決定件数はそのうちの279件で、支給件数は78件、2番目に支給件数が多いとはいえ、認定率を計算すると27.9%で、あいかわらず、認定されにくい状況にある。一方、「宿泊業・飲食サービス業」、「建設業」は認定率が50%程と高くなっている。
職種別では、請求・決定件数の多い順に「専門的・技術的職業従事者」(請求500件・決定413件)、「事務従事者」(請求465件・決定369件)、「サービス職業従事者」(請求312件・決定212件)、「販売従事者」(請求232件・決定175件)、「生産工程従事者」(請求212件・決定169件)、「輸送・機械運転従事者」(請求100件・決定91件)だった。支給件数の順では上位はほぼ同じで「専門的・技術的職業従事者」(137件)、「事務従事者」(79件)、「サービス職業従事者」(81件)、「生産工程従事者」(61件)、「販売従事者」(60件)、「輸送・機械運転従事者」(38件)、「管理的職業従事者」(29件)となっている。
年齢別では、40~49歳が一番多く、30~39歳、20~29歳の順だった。
就労形態別では正社員が一番多いが、2018年に続いて契約社員が15人(前年比6人増)、パート・アルバイトが32人(前年比8人増)と増加した。パート・アルバイトの決定件数も130件で25件増加しており、請求件数が示されていないので確定できないが、今後もパートや契約社員の請求は増え、認定件数も増加するのではないかと思われる。
出来事別では、支給決定が一番多かったのは「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」で79件(決定174件)、順に「仕事内容・仕事量の変化を生じさせる出来事があった」68件(決定207件)、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」55件(決定94件)、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」42件(決定63件)、「セクシュアルハラスメントを受けた」42件(決定84件)、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」32件(決定54件)、「病気やケガをした」28件(決定72件)、「上司とのトラブルがあった」21件(決定294件)、「配置転換があった」13件(決定55件)である。「嫌がらせ・いじめ」は件数も多いが認定率でも45%と高い。今年6月からは「パワーハラスメントを受けた」という出来事も新設されたので、今後はパワハラに当たる事案は「嫌がらせ・いじめ」から分けられることになるので、件数は減ることになるだろう。労働時間数で出来事に当てはまったケースは多く、認定率も高い。「上司とのトラブル」も毎回のことだが、決定件数に対して支給件数が少なく、認定率は7.1%だった。「上司とのトラブル」の中でも心理的負荷の高いものは、「パワハラを受けた」に割り当てられ、この項目の件数は減る可能性がある。
最後に都道府県別件数に言及するが、全体の認定率が下がっていることから察せられるとおり、いくつかの件数の多い県で低下が目立った。東京は決定295件中支給84件、認定率28%とやや低迷、神奈川も決定133件中支給29件、認定率21.8%と今回大阪並みに下がっている。大阪は2018年の19.9%からほんの少し上がった22.3%(決定130件、支給29件)だった。あまり良い傾向ではない。厚労省交渉でも、改善を求めたい。
関西労災職業病2020年9月514号
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