石綿労災認定状況2019年度速報値を公表-年間労災認定1000件水準でほぼ変わらず

請求・認定件数とも微増(昨年度比)

厚生労働省が2019年度の「石綿による疾病に関する労災保険給付などの請求・決定状況」の速報値を公表した。

発表資料に基づいて、2019年度速報値と2018年度確定値を比較すると(表1)、労災保険法による通常の労災認定件数合計(C)は1057件から1142件と85件(8.0%)増となった。

労災保険法による労災請求権は時効規定により消滅していく。

もっともおそくまで請求できる遺族補償については時効は死後5年。これを過ぎると、労災請求ができない。こうした事案の救済策が石綿救済法で規定されていて(時効救済)、この時効救済の認定件数は31件から22件と減少した。
したがって、時効救済認定件数を含めると(C+D)、1088件から1164件と76件(7.0%)増となる。

さらに長いスパンで変化を見ると、この程度の変化は大きなものではないことがわかる。

構造的問題は解決せず

石綿関連疾患認定件数の大半を占める石綿肺がんと中皮腫の経年的な認定件数を、他の主要な職業性疾患の認定件数推移と比較したものが次のグラフで、職業性疾患の中で大きな位置を占めていることがわかる。

全国安全センターHP「主要な職業病の認定件数・認定率の推移(2019年度速報)」

つまり、石綿疾病補償のレベルが労災補償制度の健全性を図る重要な尺度といえる。

ところが、中皮腫、肺がんともに、労災で認定するべき事案がされていないという構造的問題がいまだに解決されておらず、由々しき状況と言わざるを得ない。
まず、中皮腫と比較したとの石綿肺がんの認定件数の少なさが一つ。

石綿肺がんは中皮腫の2倍が目安とされるところ、労災認定は逆に中皮腫の方が多い状況であり、その原因は認定基準が厳しすぎることにあると考えられている。

もう一つは、中皮腫の労災認定件数の低さと全体的な補償・救済割合の低さだ。
すなわち、その8割が職業性ばく露を原因とする中皮腫について、労災認定件数が労災の対象とならない石綿救済法による救済認定件数と同等レベルで推移しているということ、及び、すべての中皮腫は労災か救済かいずれかの認定を受けることができるはずのところ、両方を合計しても中皮腫の全体数にまるで届かない状況が続いているということだ。

この点については

全国安全センターHP「石綿健康被害補償・救済状況の検証(2018年度)中皮腫救済4年連続増加も、労災補償等件数は逆に減少」

に詳細に報告されている。

関西労災職業病2020年8月513号