311小児甲状腺がん損害賠償裁判はじまる/東京電力福島第一原発事故から11年

2011年4月15日福島県内で(撮影:チェ・エヨン)

原告は若者6人

原発事故による放射線被ばくが原因で小児甲状腺がんを発症したとして、17歳から27歳の男女6人が1月27日、東京電力を相手取って計6億1600万円の損害賠償を求める裁判を東京地裁に提訴した。原告はいずれも、2011年3月11日の東日本大震災当時に福島県に在住し、当時、6歳から16歳だった。

裁判では、原告の小児甲状腺がんと原発事故による放射線被ばくとの因果関係が争点となる。

今日までに福島県のおこなってきた調査などで福島県における小児甲状腺がんの多発は疫学的(=医学的)に明らかとなっているにもかかわらず、国と県、東京電力は因果関係を認めておらず、補償もなんら行われていない。

原告は被害者であるにもかかわらず、逆に「復興を阻害するもの」といった風評被害の「加害者」としていわれなき攻撃と差別にさらされながら、小児がん患者としてつらい治療と過酷な人生と闘っている。原告として提訴に至るにいたった心情は察するに余りある。

水俣病やアスベスト被害を持ち出すまでもなく、だれが考えても明白な被害を隠し、押さえ込み、なかったことにしようとすることは断じて許されることではない。

本裁判によって、原告の方々の名誉と権利が確立され、正当な補償が実現され、もって原発事故被害者に対する補償制度が設立されなければならない。

さまざまな労働災害・職業病に取り組んできた関西労働者安全センターは、本裁判が極めて重要な意義と目的を有しており、私たちにとって学ぶべき内容と示唆に富む裁判であると考えている。原告・弁護団のご奮闘を祈念すると共に、当センターとしても支援の末席をけがす決意だ。

シンプルな因果関係

なお120ページの訴状(公開版)が、311甲状腺がんこども支援ネットワークのホームページに掲載されている。

311甲状腺がんこども支援ネットワーク
訴状(公開版)

下に紹介する弁護団長の話にも出てくる問題の「福島県県民健康調査」批判に多くのページが割かれているのでぜひ一読いただければと思う。

また、裁判開始に合わせるように岩波書店発行の雑誌「科学」2022年4月号が【特集】原発事故と小児甲状腺がんを掲載している。その巻頭エッセイ

提訴にあたって因果関係の立証の困難さも指摘されているが、因果関係や環境保健が専門の者にとっては、科学的因果関係の立証がこれほどシンプルな事例は珍しい。

雑誌「科学」2022年4月号

と津田敏秀岡山大学教授は述べている。歴戦の弁護団、そして、短期間に1300万円をクラウドファンディングで集めた幅広い支援の広がりによって、お定まりで繰り返されるゴマカシのテクニックは必ず粉砕されるのであり、勝訴が勝ち取られると確信している。

その答えは「被ばく」-井戸謙一弁護団長(2022/1/27記者会見)

井戸謙一弁護団長

そもそも小児甲状腺がんというのは100万人に1人か2人という極めてまれな病気です。福島県の子どもの数は三十数万人ですから、福島県では2、3年に一人でるかでないか、です。

ところが、原発事故後の福島では、福島県県民健康調査で266名、それ以外で27名、あわせて293名の小児甲状腺患者がすでに発生しています。

原告たちはそのひとりになってしまい、思い描いていた人生を狂わされ、なぜ自分が十代でがんにならなければならなかったのか、考え続けてきました。

しかし、いくら考えてもその答えは「被ばく」しか考えられないのです。

あの2011年3月中旬以降、被ばくをきびしく注意してくれるおとなはいなかったし、被ばくなんて気にしないで今までどおりの生活をしていました。それぞれが相当量の被ばくをしたと考えられます。

しかし、今の福島では、自分のがんの原因が被ばくではないか?などとは言えません。
医者に質問すれば頭から否定されます。質問しないのに、きみのがんの原因は被ばくが原因ではないからね、と言う、そういう医者もいます。

周りの人たちにそういう疑問を口にすれば、福島の復興に水を差す、風評加害者としてバッシングされます。彼らは甲状腺がんに罹患したことさえ隠して生活してきたのです。

しかし、将来の不安は高まるばかりです。

六人とも甲状腺の半分を手術で摘出しましたが、そのうち四人は再発し、甲状腺全部を摘出しました。
甲状腺を全部摘出すると、残った甲状腺組織をやっつけるために放射性ヨウ素の入ったカプセルを内服するRAI治療という過酷な治療を受けなければなりません。
そのカプセルに入っている放射性ヨウ素はなんと、すくなくとも10億ベクレル。さらに甲状腺がありませんから、生涯、ホルモン剤を飲み続けなければなりません。
再発を繰り返し、四回も手術を受けた若者がいます。
再手術の可能性を医師から指摘されている若者もいます。
肺転移の可能性を指摘されている若者もいます。
全員が再発を恐れています。進学にも就職にも支障が出ています。将来の結婚、出産なども不安です。

このまま泣き寝入りするのではなく、加害者である東京電力に自分たちの甲状腺がんの原因が被ばくであることを認めさせ、きっちりと償いをさせたい、思い悩んだ末、彼らはそう決意し、提訴するという重い決断をしました。

しかし彼等が提訴の決断をしたのはそれだけが原因ではありません。

同じ境遇の300人近い若者達が同じように苦しんでいるだろう、だれかが声をあげればその人達の希望になる、そしてできればその人達ともいっしょに闘いたい。
さらに、原爆の被爆者の方々が、被爆者健康手帳をもらって生涯にわたって医療費や手当の支給を受けているように原発事故による被ばく者にも支援の枠組みをつくってほしい。
そこまでつなげたい、と彼らは願っています。

国や福島県が小児甲状腺がんと被ばくとの因果関係を認めていないなかで、裁判所にこれを認めさせるのはむずかしいのではないかと考えられる方がおられるかもしれません。

しかし、100万人に一人か二人のはずだった病気が数十倍も多発しているのです。そして、甲状腺がんの最大の危険因子が、被ばくであることは誰もが認めることです。教科書にいの一番に書いてあります。

そして原告らは確かに被ばくをしました。

最近、福島県県民健康調査では必要の無い手術をしているという過剰診断論が流布されていますが、原告らのがんは進行しており過剰診断では有り得ません。

したがって、原告らのがんの原因が被ばく以外にあるんだということを(被告が)証明しない限り、原告らの甲状腺がんの原因は被ばくであると認定されるべきであると我々は考えておりますし、その考えは裁判所にも十分ご理解していただけるものと考えています。

6名の若者は本日闘いの第一歩を踏み出しました
請求金額は全摘の若者4名が1億円に弁護士費用1000万円、片葉切除の若者2名は8000万円に弁護士費用800万円。

長い闘いになります。
本当はひとりひとりが皆さんの前で顔と名前を出して、その気持ちを訴えたいのですが、いまの福島、いまの日本に現状ではそれをすることはできません。

今後も匿名で訴えることとなりますが、その点はぜひご理解をお願いしたいと思います。
最後にメディアの皆さまには、福島の事故は終わった、福島事故による健康被害者はゼロだなどという政府にウソのプロパガンダに惑わされることなく、この現実を日本中、世界中の人々に幅広く伝えて頂きたくお願い申し上げる次第です。ありがとうございました。

311子ども甲状腺がん裁判提訴会見(ノーカット版)より

関西労災職業病2022年4月531号