「アスベスト被害救済を打ち切るな!!全国一斉緊急ホットライン」に相談多数、全国で700件以上

時効救済打ち切り=新たなすき間は許されない

労災補償制度において、遺族補償の請求権の時効は、被災労働者の死亡日から5年。

遺族補償は労災制度では時系列でいうと最後の補償になるので、つまり、5回目の命日をもって一切の労災補償が受けられなくなる。いわゆる、労災時効の問題だ。

2005年6月のクボタショック後、自分たちがアスベスト被害者であることに気がついたという労災時効遺族が極めて多いことが発覚したため、2006年3月に施行された石綿健康被害救済法において、労災時効救済制度がスタートした。

労災時効救済制度で救済される労災時効事案はその後も後を絶たず、今日に至っている。

ところが、この制度が本年3月27日をもって打ち切られた。

被害者団体、我々支援団体が制度延長を政府に対して再三要求してきたことは言うまでもない。

また、労災補償制度が適用できない場合の石綿救済制度においても、2006年3月26日以前に中皮腫、石綿による肺がんにより死亡した遺族への救済給付についても労災時効制度と同様に、本年3月27日をもって請求打ち切りとされているので、これも合わせて制度再開を求めている。

現在、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会は石綿健康被害救済法改正要求運動の主要な項目と位置づけ、早期の制度再開を訴えているところだ。

この問題の重要性を訴え、制度を目前にした時効救済の緊急性を周知するために、3月18、19,20日の3日間にわたり全国無料電話相談を実施したところ、東京、名古屋、大阪、福岡の4箇所で合計700件を超える相談が寄せられた。期間後にも相談が相次いだ。

請求期限目前であるケース、本来の時効5年の直前のケースがあり、また、肺がん相談の多さが目立った。各地域でフォローに追われている。

実は、労災時効救済制度の請求期限であった本年3月27日に先だって、「2016年3月27日以降に死亡した方の遺族」については時効救済制度が適用されなくなっていた。つまり、労災時効救済制度の適用が受けられない遺族がいて、「救済のすき間」がリアルに日々拡がっている。

まさに、そうした遺族からの相談が今回のホットラインにも少なからず寄せられており、一日でも早い制度再開が必須だ。

労災時効請求期限直前の3月24日の毎日新聞朝刊に、関西労働者安全センターで支援している労災時効遺族のケースが紹介された。

本来なら、請求期限の延長よりも、労災時効そのものの取扱を抜本的に改める法改正こそが必要なのである。

石綿被害の時効救済、27日で廃止 支援団体は制度継続訴え

アスベスト(石綿)による健康被害で亡くなった人の遺族に対する労災認定の時効救済制度が、27日で終わる。だが支援団体は「救済制度があったからこそ浮かび上がる被害の事実が多くある」と制度の継続を訴えている。時効救済をきっかけに、亡き父親の思いがけない石綿被害を知ることになった女性のケースを紹介する。

大阪市の野上文代さん(62)は2020年の年の瀬、自宅のリビングで何気なく見ていたテレビのニュース番組で、ある言葉が耳にひっかかった。
「アスベスト」
石綿の被害者を支援する「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」(東京都)が、年末の電話相談を開設したことを知らせる短いニュースだった。「そういえばあのとき、先生がアスベストって言ってはった」
父の小田利明さんは11年12月、肺がんが脳に転移し亡くなった。その数カ月前に緩和病棟に移ったころ、担当医師がレントゲン写真をみながら「これは、アスベスト肺だね」とつぶやいた。当時は気にも留めなかったが、頭の片隅に残っていた。利明さんには、とび職の仕事に就いていた時期があったと聞いていた。「父の死には何か理由があるのかもしれない」。すぐに電話をかけた。
対応した家族の会関西支部の片岡明彦さん(63)は早速、支援に動き出した。労災の時効は死後5年だが、石綿被害は救済措置として時効を過ぎても石綿健康被害救済法に基づく「特別遺族給付金」を申請できる特例がある。認められれば、遺族に年金(原則年240万円)か一時金(1200万円)が支給される。死後約10年が経過した利明さんのケースも、救済の可能性があった。
利明さんが受診していた病院に問い合わせると、胸部のCT(コンピューター断層撮影)画像が残っていた。石綿吸入でできる「胸膜プラーク」と呼ばれる病変が広範囲に写っている。「こんなにはっきりプラークがあるのは、かなりの石綿を吸っていたということだ」。片岡さんは確信した。
給付金の申請に必要な、石綿を扱う職歴の証明は難航した。利明さんは職を転々としていた上に、小さな事業所が中心で記録がほとんど残っていない。
だが、野上さんが自宅で保管していた古い家族アルバムを引っ張り出して調べてみると、利明さんが建設現場で働く1枚の写真があった。ヘルメットには、当時勤めていた会社の名前が記してある。さらに背景にある建物に「府商工会館」という文字を見つけた。そこから建設現場のビルを特定し、そのビルは後に、石綿除去工事がされていたことも調べた。これを含め、石綿を吸う恐れのあった職歴を1年半以上、公的記録で確認した。
野上さんは21年3月、大阪南労働基準監督署に特別遺族給付金を申請し、結果を待っている。「最初はアスベストと聞いても、父の死とは関係ないと思っていた。でも調べていくうちに、石綿を扱う職歴やプラークの存在が分かった。見えていなかった父のアスベスト被害者としての姿があった」と語る。片岡さんは「救済措置があったからこそ浮かび上がった事実。同様のケースはかなりあるはずだ」と訴える。

厚生労働省によると、特別遺族給付金の制度が始まった06年から20年度まで、認定されたのは計1629件。20年度は20件が認められた。家族の会は今後も、国会議員や関係省庁に対して制度の存続を求めていく。【柳楽未来】

毎日新聞大阪本社大阪地域面 2022年3月24日

石綿救済制度、時効撤廃求め要望書 「患者と家族の会」兵庫県に提出(神戸新聞 2022/1/24)

「静かな時限爆弾」アスベスト 古い被害、再び閉ざされる救済(毎日新聞 2022/3/3)

石綿被害の遺族救済制度、3月末に迫る期限 「申請できる、震えた」(朝日新聞 2022/2/27)

「アスベスト」石綿 隠された父の死因 時効救済制度存続を(2022年3月24日 毎日新聞大阪地域版)
<中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会HP>

アスベスト被害の救済延長へ 自公部会が改正法案了承(産経新聞 2022/4/21)

関西労災職業病2022年4月531号