じん肺の労災申請・補償・認定・管理区分~Q&Aで示すポイント~労働災害・職業病(業務上疾病)の申請・認定マニュアル

目次

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じん肺は主な職業病(業務上疾病)の一つです。

かつては鉱山、炭鉱で多くの方が罹患しましたが、近年では、都市部を含め、建設関係労働者での患者発生が多くなっています。

またそれ以外の、製造工場や造船所などでも、さまざまな鉱物性粉じんのばく露によって、いまだに多くのじん肺患者が発生しているのが実情です。

ここでは、建設現場の方からの相談例を題材に、じん肺の労災申請や認定手続のポイントをQ&A形式で解説しました。

じん肺という病気のことや手続については、すぐわからないことがありますから、当センターにお気軽にご相談ください。

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    また最寄りの労働基準監督署や労働局でも相談できます。

    Q1. 18歳で高校を卒業してから、叔父の経営する建設・解体業の会社で働いてきました。

    現在、55歳です。

    主な仕事は、ハツリ(斫り)、解体です。ビルなどの解体をチッパーやブレーカーを使ってする仕事で、猛烈な粉じんがでます。最近、咳と痰がつづくようになり、息苦しいので仕事もかなりしんどくなってとても心配なので、知り合いのつてで総合病院の呼吸器内科の医師に診てもらったところ、じん肺が進行していて治療が必要になっているので、労災申請するべきだと言われました。ところが、医師にじん肺の手続をたずねたのですが、よくわからないと言われました。労災を申請するにはどうしたらいいでしょうか?

    A1. じん肺の場合は、基本的に2段階の手続になります。


    ●まずは、じん肺管理区分申請→じん肺管理区分決定通知

    まず第1段階として、じん肺管理区分申請をします。申請先は、退職者の場合は、居住地の労働局です(随時申請)。

    在職者の場合は、じん肺健診の結果をもって会社を通じて所轄の労働局に申請します。

    これによって、じん肺の症状がどのくらい進行しているのか(悪いのか)が審査され、決定されます(じん肺管理区分決定)。

    同時に、法律で決められた「合併症」の存在が認められる場合があります。

    じん肺管理区分は、管理区分1、管理区分2、管理区分3イ、管理区分3ロ、管理区分4の5段階で、管理区分2以上が「じん肺所見あり」として、法律上、じん肺に罹患していることが認められたことになります。

    (管理区分1については、じん肺所見が画像上みられるとしても、それが、じん肺法で決められた程度までには至っていない場合も含まれていますので、医学的にじん肺所見がない、ということでは一概には言えません)

    以上のような、じん肺管理区分決定の結果を得て、労災申請へと進むことになります。

    Q2. じん肺管理区分決定を受ければ、労災が適用されるのでしょうか?

    A2. じん肺管理区分決定の内容により、労災を適用できる場合は次の場合に限られます。

    ●じん肺の程度と合併症の有無により労災扱いになる

    1)じん肺管理区分が管理2、管理3イ、管理3ロのいずれかであって、合併症が認められる場合。

    2)じん肺管理区分がじん肺としては最重症の管理4の場合

    また、いずれであっても、管理区分決定を受けただけでは、労災は適用されません。

    じん肺管理区分申請とは別に、労災申請の手つづきをして給付決定を受ける必要があります。

    Q3. 「合併症」にはどのような病気があるのでしょうか?

    A3. じん肺法で定められた合併症は次の6つの疾病です。

    ●じん肺の法定合併症は6種類

    1)肺結核

    咳や痰の増加、発熱、血痰などが見られることがあります。周囲の人に感染する場合もありますので、早期発見が重要です

    2)結核性胸膜炎

    肺の周囲に胸水がたまります。発熱や胸痛が見られることがあります。

    3)続発性気胸

    胸痛、息切れで発症します。肺の表面が破れ、空気がもれるために肺が収縮した状態になります。胸部レントゲン検査で診断します。

    4)続発性気管支炎

    1年のうち3ヶ月以上毎日のように咳と痰があります。起床後おおむね1時間のうちに膿性痰が3cc以上みられます。

    5)続発性気管支拡張症

    膿性痰や血痰がみられます。胸部レントゲン検査やCT検査で診断されます。

    6)原発性肺がん

    2003年から合併症として取り扱われるようになりました。肺がんの早期発見のために、じん肺健康診断でも、細胞診や胸部CT検査が導入されました。咳や痰の増加、血痰が見られることがありますが、自覚症状が全くないこともあります。

    1)肺結核、2)結核性胸膜炎と6)原発性肺がん(肺が原発の肺がん。転移性でない肺がん)はわかりやすい疾病名ですが、ほかは一般の方にはすこしわかりにくいです。

    3)4)5)については、じん肺診査の基本マニュアルである「じん肺診査ハンドブック」に詳しい診断、判定方法が記載されています。(じん肺診査ハンドブックは現在は書店では入手困難です。当センターにありますので、必要な方はご相談ください。)

    じん肺の管理区分申請や労災の手続に詳しい医師でなければ正確には知っていることはまれですので、より詳細な合併症の診断や判定について情報が必要な場合は、当センターにご相談ください。

    Q4. じん肺「管理4」、または、「管理2」以上で合併症のあると判定された場合に労災申請するにはどのようにすればいいでしょうか?

    A4. 手続としては、通常の労災申請の手続きと同じです。

    ●労災申請手続は、他の疾病と同じ

    じん肺の場合は、傷病名が、「じん肺症(管理4)」「じん肺症、肺結核」などと労災の請求要旨に記載します。

    治療中の方の場合は、治療費(療養補償給付)の請求ができます。

    治療休業中の方は、休業補償給付の請求ができます。

    いずれも、ご本人から請求することが必須になります。

    それぞれの手続については、次などを参考にしてみてください。

    請求(申請)のできる保険給付等 ~全ての被災労働者・ご遺族が必要な保険給付等を確実に受けられるために~(厚生労働省)

    正確には書かれていますが、書き方などわかりにくいところもありますので、その場合は当センターへご相談ください。

    Q5. 労災の請求用紙には「負傷又は発症年月日」を記入する欄がありますが、じん肺の場合、いつの日になるのでしょうか?

    A5. 業務上疾病の発症年月日は、その病気によって医学上療養を開始した日とされており、通常は、その病気による症状により療養を開始した病院の初診日とされることがほとんどですが、じん肺の「発症年月日」は特に行政通達で決められています。

    じん肺の場合、じん肺や合併症は徐々に進行しますから、行政通達で「発症年月日」は次の日に発病しものとみなして「発症年月日」とすることとされています。http://www.joshrc.org/kijun/std05-250.htm

    1. じん肺の管理区分が管理4の場合は、その管理区分決定の根拠となった資料がエックス線であるときはその撮影日、肺機能検査の結果であるときはその検査日、両方が根拠資料の場合は前の方の日、を発症年月日とみなす。
    2. 合併症の場合は、その根拠となった結核精密検査又は肺結核以外の合併症に関する検査(喀痰検査など)を行った日(喀痰の採取日など)

    Q6. 労災の請求用紙の事業主(会社)の証明は所属している叔父の会社でもらえばいいのでしょうか。

    A6. 基本はそうなりますが、特に建設現場ではいちがいにそうとはいえないので注意が必要です。

    ●事業主証明は最終の最終粉じん作業をおこなった現場での労災保険をかけていた会社で。

    じん肺の場合の原因業務は粉じん作業ですので、発症日前の最後に粉塵作業をおこなった現場の労災保険が適用される決まりです。

    建設現場の場合は、現場での労災保険は、基本的にその現場の元請会社ですので、労災請求用紙の事業主証明は、その元請会社ですることになっています。

    あなたの所属する会社が元請けの現場が最終粉じん作業現場の場合は、あなたの会社で事業主証明をすることになります。

    わりとよくあるケースですが、元請会社が「うちの会社が最終粉じん作業であると確認できない」などの理由で証明を拒否するケースがあります。この場合は、拒否の理由を元請け会社に書面で書いてもらうか、書かない場合は、そうであることの申立書を添えて、労災の請求用紙を提出すればけっこうです。事業主証明のない労災請求用紙であっても労基署は受理することになっています。

    もし、事業主証明をめぐっては困ることがありましたら、当センターまでご相談ください。

    Q7. 労災申請はどこの労働基準監督署にすればいいのでしょうか?

    A7. じん肺の場合は、基本的に、最終の粉じんばく露作業をおこなった作業現場の労災保険を所轄する労基署に提出することになっています。

    したがって、まずは、その労基署に提出しましょう。

    各労基署の所轄地域は、全国労働基準監督署の所在案内 から調べられます。

    なお、労災申請後に、労基署の調査の中で最終粉じん作業現場が異なることがわかったなどの理由で労基署が変更になることもあります。

    Q8. 休業補償はどのくらい給付されるのでしょうか。

    A8. 発症日直前の3ヶ月間の賃金額を基礎に給付基礎日額を算出し、総額としてその額の8割×休業日数分が支給されます。

    じん肺の場合でも、通常の労災のケースと同じ方法に基づいて計算される給付基礎日額の8割の額が給付されます。8割の内訳は、6割が休業補償給付、2割が休業特別支給金と法制度上は2種類に分かれています。なお、休業開始から最初の3日間については労災保険からは支給されません(「待機期間」といいます)。

    この待機期間については、6割が雇用主に支給の義務があります。

    具体的には、次を参照してみてください。

    休業(補償)給付 傷病(補償)年金の請求手続(厚生労働省)

    なお、給付基礎日額の算定方法については、個別の条件がかなり違いますので、制度の適用を労基署側が誤り、あるべき日額より低額になってしまう場合もありますので注意してください。

    給付基礎日額に不安や疑問のある方は当センターまでご相談ください。

    Q9. 病院に行く交通費がバカになりません。これは給付されないのでしょうか。

    A9. 治療費、休業補償給付のほかにも厚生労働省の決めた基準にしたがって、給付されるケースがあります。制度上は「移送費」といいます。

    詳細については、次を参照してみてください。

    なお、労災保険全般についてのリーフレットを厚生労働省が用意してあり最寄りの労基署に常備されています。

    また、厚生労働省サイトから閲覧、ダウンロードできます。

    労災補償関係リーフレット等一覧(厚生労働省)

    また、同サイトから、労災請求等のための用紙は全てダウンロードできるようになっています。

    労災保険給付関係請求書等ダウンロード(厚生労働省)

    当センターでは、じん肺の被災労働者とご家族の支援活動を行ってきた経験がありますので、お気軽にご相談ください。→当センター相談窓口

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    <参考資料>

    じん肺診査ハンドブック(厚生労働省)
    じん肺法
    労災疾病等医学研究普及サイト 職業性呼吸器疾患 じん肺