岡部和倫医師(肺腫瘍外科)に聞く~中皮腫治療は摘出手術や化学療法~神戸新聞2021年1月14日掲載

ベルランド総合病院呼吸器腫瘍外科部長の岡部和倫医師に取材した記事が神戸新聞に掲載された。

記事は、岡部医師がおこなっている中皮腫治療における外科手術の意義と解説、や労災や救済給付の申請に活用されている石綿小体・石綿繊維の検査を他病院の患者を含めて受け入れ、実施しているベルランド総合病院の取組を紹介している。

中皮腫患者 2030年まで増加の恐れ
潜伏期間長い石綿原因のがん
堺の専門医・岡部氏に聞く

アスベスト(石綿)が引き起こすとされるがん、中皮腫による死亡者数はこの二十数年で約3倍になった。都道府県別で見ると、兵庫県、大阪府は突出して多い。中皮腫の中で8割程度を占めるとされる胸膜中皮腫は、予後が悪い。その胸膜中皮腫や肺がんの手術で、世界トップクラスと評価される堺市のベルランド総合病院呼吸器腫瘍外科部長の岡部和倫氏に治療について聞いた。(中部剛)

肺を囲む胸壁の内側は、胸膜と呼ばれる薄い膜がある、この膜に中皮細胞が多く含まれ、この細胞から発生する悪性腫瘍が胸膜中皮腫。主に石綿が原因とされ、吸い込んでから十数年から50年という長い潜伏期間を経て発症するが、発症のメカニズムは明確になっていないという。
胸膜中皮腫のほか、腹膜中皮腫や心膜中皮腫などがあり、厚生労働省によると2019年に中皮腫で1466人が死亡、このうち大阪府が148人で最多。石綿輸入量から判断すると30年ごろまで増え続けると言われている。兵庫は107人で東京に次ぐ3番目の多さで、製造、造船、鉄鋼、港湾関係など石綿を使った産業が多かったためと考えられる。

治療は摘出手術や化学療法

胸膜中皮腫の治療について岡部氏は「肺や心臓の状態がよいなら手術が望ましい」とする。胸膜外肺全摘術(EPP)と胸膜切除剥皮術(P/D)があり、EPPは肺、横隔膜、胸膜などをごっそり切除し、P/Dは胸膜などは切除するが、肺は残す。
肺への悪影響があるためP/Dは術後に放射線治療ができず、EPPの方が中皮腫をより多く取り除くことができ、術後も放射線治療が可能。それぞれに特徴があり、岡部氏は「患者さんにとってどちらがいいのか。経験豊富な医師の判断が重要だ。セカンドオピニオンや、患者会から情報を得るのもいい」と話す。
手術ができる患者は少数で、多くの人が抗がん剤を用いた化学療法になる、薬はシスプラチンとペメトレキセド(アリムタ)の組み合わせがあるが、シスプラチンは吐き気、食欲の低下、腎臓への負担などの副作用が強いため、カルポプラチンとペメトレキセドの組み合わせもあるという。
化学療法で中皮腫が治るのは極めてまれ。岡部氏は「病変が小さくなる場合があるが、効かない場合もある」と話す。また、免疫療法で注目されたニボルマブ(オプジーボ)も保険適用されているが、「効果が上がっているのは2、3割程度。値段が高い上、副作用があるのでオプジーボから化学療法に戻るケースもある」と指摘する。
中皮腫は予後が悪い病気だが、診断や治療技術の進歩、新薬の開発で改善傾向を見せる。岡部氏が11年以降に実施した上皮型胸膜中皮腫に対するEPPを含む治療30例の5年生存率は36%、生存期間中央値は58カ月に達しているという。

労災申請に必要(※注)
肺の石綿小体を計測


ベルランド総合病院(堺市)は、手術で切除した肺の中のアスベスト(石綿)繊維や石綿小体を計測する検査を始めた。
石綿小体は石綿繊維にタンパク質が付着したもので、石綿を吸い込んだ指標にされている。一定数以上の小体や繊維が肺の中から確認されると、石綿肺がんとして労災認定されやすくなる。認定手続きに計測数を示す書類が必要(※注)になるが、計測できる病院は少ない。
ベルランド総合病院では手術を受けた患者は無料とし、他の病院で手術を受けた肺なら検査料3万3千円。同病院電話O72・234・2001

神戸新聞 2021年1月14日

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※注 労災申請は石綿小体や石綿繊維の検査結果はけっして必須ということではない。石綿関連疾病の労災認定基準には中皮腫や肺がんなど種類に応じた労災認定要件が示されており、たとえば肺がんの場合は石綿小体・石綿繊維の検査結果が決め手になるケースがある。労災認定基準については、次を参照してください。

アスベスト(石綿)による疾病の労災認定/労災補償の申請・給付について~各疾病や審査請求事例紹介つき~