青石綿(クロシドライト)検出続く、大阪府立金岡高校~事件は匿名情報からはじまった

事件は匿名情報からはじまった

2012年11月、大阪府立金岡高校の耐震工事中に石綿を飛散させる事件が起こった(写真:金岡高校工事現場2012/11/21)。

大阪府立金岡高校工事現場2012年11月

安全センターに匿名の情報提供があり、大阪府教育委員会にあたったところ事実であることが判明した。
現場に行き事実確認と関係者の事情聴取をおこなった。その後の経過で明らかになったことを含め、事前調査、工事施工、事故発覚以降の対応の各段階で問題点が浮き彫りになった。

当センターは中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会とともに府教委への申し入れを行い、これまで2回開催された同校保護者会のあとの府教委・学校関係者との話合いにも臨んだ。そうした経過を関西労働者安全センターホームページのブログで報告してきた。

事件は大阪府下のふつうの高校で起こった。
しかし、この一石綿飛散事故でのさまざまな出来事は、日本全国でおこなわれている石綿対策工事にかかわる問題だと痛感する。

おりしも、中央環境審議会大気環境部会石綿飛散防止専門委員会(長たらしいので、以下、石綿専門委)では、「石綿の飛散防止対策の更なる強化について」議論がされており、その中間報告書(案)へのパブリックコメント募集について、金岡高校事件を踏まえた意見を提出した。
「吸引したら、すぐに被害が出るのではない」ことに由来するのだろう。

石綿の飛散防止対策は未だに確立されているとはいえない。クボタショックから8年が経とうとしている今でもだ。

以下に金岡高校事件を報告し、改めて、石綿飛散防止対策への注目を訴えたい。

各所で、青石綿(クロシドライト)が検出

昨年11月中旬、匿名の通報が安全センターに寄せられた。
「堺市の府立金岡高校で、校舎改修工事中に石綿を飛散させている」
通報に付されていた写真は、軒下の吹き付け石綿が破損、著しい劣化状態をみせていた。

通報による軒下写真

通報を受け、11月21日に府教委を直接訪問し、事情を聞き、午後から金岡高校に行き、工事関係者から話を聞いた。

この時すでに府教委、学校、工事業者は飛散事故を知っていた。かれらが、飛散事故を「知るきっかけ」は11/17に校内で空気中石綿濃度を測定した、測定業者A社の指摘だった、という説明をこのとき初めて聞かされた。
通報写真のような状態を見ておいて、外部の測定業者に言われて、「初めて知った」は、なかろうに。これが正直な感想だった。この気持ちに今も変わりはない。

この測定業者は、11/18の午後に学校宛てに測定結果の「速報」ファックスを送信していた。その添え状には、以下のように書かれていた。

測定業者からの「速報」ファックス

青石綿とは、クロシドライトのことで、文字通り、青い色が特徴。かつて、商標名「トムレックス」というニチアスの石綿吹き付け材などにに多用された。
発がん毒性は最強で、クリソタイル(白石綿)の100倍以上とも言われる。尼崎のクボタ旧神崎工場の内外で多数の被害者を出した元凶がこれだ。

アスベスト対策工事に関わったことのある工事業者、測定業者が、通報写真のような、典型的な青石綿吹き付けの劣化状態をみて、「アスベストと気がつかなかった」と言うとするならば、無能の証明、あるいは、故意のごまかし、のどちらでしかない。
11/21の午後、金岡高校で工事関係者のすべて(もちろん学校担当者も)が「言われるまで、気がつかなかった」と明言するのを聞きながら、暗澹たる気持ちだった。
「正直、とんでもない方々、だわ」
とても見過ごすことはできない。
ところが、このとき府教委にみせてもらった書類は、コピーをもらうことはできなかった。
しかたなく情報公開請求を行い、開示決定を待つ間に金岡高校石綿飛散事件が報道された。これでようやく金岡高校事件は世間に知られるところとなった。

石綿 校舎工事で飛散
含有調べず むき出し 堺の高校

堺市北区の大阪府立金岡高校(1030人)で、校舎のひさしに毒性の高いアスベスト「青石綿」が吹き付けられていたのに、むき出しになったまま飛散する状態で工事が行われたことが6日、分かった。校舎内では青石綿とみられる塊も落ちていた。府教委は「校舎の完成図に石綿の存在が示されていなかったため、飛散防止策を工事業者に指示できなかった」と釈明。専門家は、建物の改修・解体時に石綿が含まれていないか、事前調査の徹底が必要だと警告している。【大島秀利】

学校側は発覚後、速やかに飛散防止対策を取り、保護者に説明。大気汚染防止法では、工場敷地境界での空気中の石綿濃度は1リットル中10本以下と定めているが、府教委は、今年11月17田の室内測定で最大0.9本、21日の校舎の外での測定で0.056本未満だったとしている。

府教委によると、校舎は、4階建て晋通教室棟の裏側。今年10月24日から実施した外壁の補修・塗り替え工事にあたり、各階の教室側と廊下側の外壁のひさし(奥行き60センチ~1メートル)の不燃性ボードを外したところ、その内部に吹き付けられていた青石綿がむき出しになった。

工事業者は気付かず、11月17日、青石綿が飛散していると石綿測定業者が指摘。この間の約3週間、法令上定められている青石綿の密封がされないまま、教室では通常通り授業を行い、教室側の道路を隔てだグラウンドでは、部活動が行われた。工事のため、教室は窓を閉め切っていたが、空気中の石綿測定は実施されなかった。飛散防止工事は同月26日に終了し、補修工事は現在も続行中。

また、2、4階のエレベーター前で青石綿らしい塊も見つかった。何らかの原因で紛れ込んだとみられる。
今回見つかった吹き付け石綿は、コンクリートと石綿を混ぜた耐火被覆材とみられる。吹き付け石綿は飛散しやすいため、石綿含有率5%超のものは1975年に使用が原則禁止された。校舎は74年3月の完成で、府教委の調査では、青石綿の含有率は28.6%だった。

府教委施設財務課は「事態の把握が遅れたことを深く反省している。今後、工事発注の際は石綿の有無の事前調査などを要件としたい』と話している。
学校現場などでは、99年に東京都文京区立さしがや保育園で、密閉措置なしに園児の隣の部屋で石綿が除去された事例があった。神奈川県綾瀬市立綾瀬小で11年、石綿使用の煙突が事前調査なしに解体され、石綿が飛散した。

建築記録不備全国的にある

環境省アスベスト大気濃度調査検討会の小坂浩委員の話
石綿が含まれるかどうか、建築記録の不備は全国的にありうる。建物の構造から石綿の存在を予想する方法もある。国土交通省が推進する石綿含有を見分けるための建築物調査の手法を活用するべきだ。

毎日新聞夕刊(大阪本社) 2012年12月6日

石綿 校舎工事で飛散か
堺の府立高校 3週間むき出し

耐震補強工事申の大阪府立金岡高校(堺市、1030入)で10月下旬から約3週間、毒性の高いアスベスト「青石綿」を吹き付けた鉄骨がむき出しになっていた。青石綿とみられる直径1センチほどの塊2個も床の上で見つかっており、大気中に飛散した可能性がある。府教委は「建設当時の図面に石綿吹きつけの記載がなく、飛散防止策を工事業者に指示できなかった」と説明している。

府教委によると、金岡高校は1974年建設の鉄骨4階建て。工事は今年5月~来年9月末を予定。大阪市内の業者が今年10月24日から、教室や廊下のひさし(幅60センチ~1メートル、総延長448メートル)の下部にある不燃性ボードを、順次外した。
約3週間後の11月17日、石綿の定期測定に来た業者が、2階と4階の渡り廊下に青石綿らしい塊が落ちているのを発見。真上のひさしの鉄骨に吹き付けられた石綿がむき出しになっていた。空気1リットル中の石綿濃度は昨年の0.11本未満から、最大0.9本(大気汚染防止法では同10本以下)に上昇していた。

ひさしの下の11教室には、1~3年生約440人が学んでいたが、府教委と学校が保護者に文書で知らせたのは10日後。「数値が低いので心配する必要はない」と説明していた。
吹き付け石綿は飛散しやすく、含有率5%超のものは75年に原則使用が禁止された。青石綿は70年代まで水道管や天井板の吹きつけなどに幅広く使われ、兵庫県尼崎市のクボタ旧神崎工場一帯で発生した被害の主原因とされる。今回の含有率は28.6%と高かつた。

石綿問題に詳しい関西労働者安全センター(大阪市)の片岡明彦事務局次長は6日、記者会見し、学校での測定値は「休日に測ったもので、生徒がいれば床に落ちた石綿が舞い上がり、数値が跳ね上がっていた可能性がある」と指摘。

「青石綿が約3週間むき出しになっていたのは異常な事態だ」と批判した。児玉博文校長は6日、生徒の体調把握を府教委と話し合う考えを承した。

学校解体時 相次ぐ

石綿は最近も、学校現場での発見が相次いでいる。兵庫県明石市の3小中学校では昨年4月に体育館の天井から、同8月には神奈川県綾瀬市の小学校解体現湯で飛散が確認された。岩手県釜石市の小学校では、今年9月開始の解体工事が石綿の飛散で中断した。

文部科学省は2005年から学校の吹付け石綿対策を調査。昨年10月1日時点で、全国13万9821の教育施設・学校のうち、使用実態調査が終わっていないのは157カ所だった。各教委に改修工事の際、事前に石綿吹き付けの有無を調べ、施工業者や児童・生徒がさらされぬよう対策をとることを求めている。

朝日新聞朝刊(大阪本社) 2012年12月7日

要請書提出~第三者検証を

12月10日、それまでの経緯を踏まえて府教委宛に以下の要請を提出した。

2012年12月10日

大阪府教育委員会 御中

関西労働者安全センター運営協議会
  議 長 浦 功
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会
  会 長 古川和子

要 請 書

府立金岡高等学校における石綿飛散問題について、当センターを含む第三者を加えた検証作業の実施を求めます

貴委員会におかれましては、日頃から良好な教育環境の整備にご尽力されていることと存じます。
さて、標記の石綿飛散事故は、関係者に再発防止のための教訓を提供してくれています。
この際、将来の社会を担う児童・生徒が集う教育現場での再発防止を第一に考え、「できるだけ穏便に」という姿勢ではなく、「できるだけオープンに」この問題の検証作業を行うべきです。
本件について、「内部的に一件落着」としてしまうのではなく、当センターを含む第三者を入れた検証作業を可及的すみやかに開始されることを強く要請いたします。
以下、当センターにおける事件経過の認識を記して貴委員会のご確認を求めますと共に、本要請の趣旨をご理解いただき、本要請に対するご回答又はご検討状況を12月17日までにご連絡くださいますようお願いいたします。

1)経過について

(11/19以降に当センターによる府教委、工事関係者、学校関係者からの聞き取り内容などに基づく。)
現在までの本件の経過をまとめますと次のようになります。修正するべき点がありましたらご指摘ください。

※ 耐震工事の一環として実施されていた改修工事中に、南校舎東側部分の各階のひさしの下のいわゆる軒天ボードの劣化が進んでいることから、軒天材の張り替え工事を追加発注して実施することになった。
※ これに先だって夏休み期間中に、校舎内部の梁に吹き付けられているアスベストの除去作業を実施した。この際、吹き付けられているアスベストの分析を行い、クロシドライト(青石綿)10.5%、クリソタイル1~2%を確認している。今回問題になった軒天下の至近の分析結果は、青石綿だった。青石綿は最も発がん性が強く、吹き付け材に多用された。クボタ石綿禍事件で多数の被害を出すことになった主原因は、青石綿がクボタ石綿水道管に使用されたためである。

10/24~11/6 軒天材の撤去工事実施。軒天に使用されている耐火ボードをはずしたところ、上にあるデッキプレートの劣化がはげしく、「(さびやほこりで)近寄れなかった」という状況で作業を行った。
  工事会社、設計監理会社「吹き付け石綿があることに気がつかなかった。11/17に指摘されてはじめて気がついた」
11/17 学校から発注された測定業者が、年1回実施されている教室内空気中石綿濃度測定を実施した際、正午頃、軒天下及びエレベータホールに落ちている吹き付け石綿を、学校担当者に指摘。4時頃、設計監理会社、工事会社、校長、学校担当者が協議。
11/18 軒天下の露出箇所をビニールで覆う作業を実施。測定業者から、濃度測定結果速報とともに分析試料中に青石綿が検出されていること、前日に指摘した問題についての注意を促す内容のファックスが学校に送られてきた。
11/19 学校担当者は測定業者からのファックスを事務長に報告。工事業者にも伝える。工事業者は府教委に行き対応策を協議、堺労基署、堺市環境部局にも相談した。
11/21 午前10時に関西労働者安全センター片岡と中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会古川会長が府教委に出向き、協議。窓口に出た、府教委施設財務課田代副主査、河村主査、羽柴課長補佐(技術担当)に対して「金岡高校のことを説明して貰いたい」とお願いしたが、「知らない」とのことだった。そこで、現場担当者に早急に連絡をとってもらうようにしたところ、現場担当者宮崎氏は金岡高校の現場に行っていることだということがわかった。現場を見せていただきたいと申し入れ、午後1時から現場に府教委の方々に同行していただくことになった。午後1時から、現状視察、工事事務所で工事関係者、学校担当者の説明をお聴きした。
11/26 府教委に教室内測定結果の正式報告書が来ていたら見せて貰いたいと、架電。
  折り返し、府教委宮崎氏から入電「室内測定結果はきているので、府教委に持ち帰る。軒天該当箇所の分析は22日に工事業者が発注したが、まだ結果はきていない」
  囲い込み工事(軒天ボードはり)を11/26までに実施、完了
11/27 保護者宛に「大規模改修工事に伴うご報告」(A4 1枚)を府教委施設財務課、学校名で配付
11/27 府教委宮崎氏から入電「室内測定結果は正式な情報公開請求をしてくれないと出せない」とのことなので、公開請求を行った。
12/5 府教委施設財務課から入電。「室内測定結果についての開示決定をした。決定書を郵送するので、開示はそれ以降になる」
12/6 金岡高校問題報道。開示決定通知書が届き、室内測定結果報告と11/18に学校が受領した測定業者からのファックスの送付状の開示を受けたが、開示内容について不備があった(カラー写真がモノクロ複写になっていた、ファクスで送付された文書のうち送付状しか開示されなかった、の2点)ので府教委施設財務課(小林氏)に架電、是正を要請した。
12/7 当センター片岡より府教委施設財務課に架電。電話に出られた羽柴課長補佐に「12/10(月)午前9時30分すぎに要請をしたい」と申し入れ、了解される。

2)検証作業を要請する理由

今回の一連の事態は、本来、あってはならない、また、あるはずのないものでなければなりませんでした。
たとえば、

  1. 軒下に石綿吹き付けがあったことが事前に把握できていなかったこと(軒天改修は工事予定にはない追加工事だった)。
  2. 軒天下と連続している内部の梁等には石綿吹き付けがあり、これの除去工事を8月に実施しているにもかかわらず、追加工事を決定した時点で石綿吹きつけの有無の調査を実施していないこと。
  3. 軒天のばらしを開始した時点で、工事業者が石綿吹き付けに気がつかなかったこと。
  4. その結果、少なくとも10/24~11/6の間、「(さびやほこりで)近寄れなかった」状況の工事が、生徒、教職員の生活空間において実施され、環境測定も実施されず、防護措置も一切とられていないこと。作業に従事した労働者においては、生徒、教職員よりもさらに深刻な石綿ばく露状況にさらされたと考えられること。
  5. 保護者への説明として配付された11/27文書の内容には、④を含めて重要部分が書かれておらず、きわめて不適切な情報提供に終わっていること
  6. 11/27文書の中で、11/17、21の測定結果を引用して、問題がない、としている点は、「基準値」の説明内容に誤りがあり(「WHO基準値」は存在しません。)、かつ上記④の点を捨象しており、説明としては間違い、意図的過小評価となっていること
  7. 作業に従事した労働者への情報提供はどのようにおこなわれているのかが不明であること

など、指摘できる問題点、疑問点が多くあります。

事実関係を丹念に明らかにして、そこから再発防止策(教職員、生徒、作業従事者の石綿ばく露を防ぐための)を導き、将来的なリスクをできるだけ正確に推定し、将来的な被害が生じたときのための情報共有を確実にするために、検証作業が不可欠です。もちろんこの検証作業には第三者、良識ある専門家の参加が必要ですし、学校の各構成員の方々、工事関係者を含めてオープンな議論が必要です。
そして、検証作業を行うタイミングは、事件が発生し関係者の関心が集中している今をおいてありません。
貴委員会が検証作業実施をすみやかに決定されることを強く要請いたします。

保護者から批判続出

府教委、学校は12月12日、12月26日の2回、保護者説明会を開いた。
当センターから参加希望を学校や府教委に申し出たが断られ、いずれも説明会終了後の記者レクに参加するように求められたので、その場を利用して府教委、学校関係者に疑問点をぶつけた。
保護者会では、保護者や周辺住民から厳しい意見や質問が多く出されている。
当日の配付資料や会議記録が金岡高校のホームページhttp://www.osaka-c.ed.jp/kanaoka/に掲載されているので、ぜひ、そちらを読んでいただきたい。
関西労働者安全センターのブログもご参照下さい。(2019年12月にyahooブログ閉鎖に伴い削除)

汚染拡散、放置つづく

発端となった11月17日の測定業者による測定結果では、問題となった南側校舎の軒下に近い教室と、さらに離れた北側校舎内の空気中からも青石綿が検出されている。

現在では青石綿が一般大気中から検出されることはまずなく、原因が今回の飛散事故にあることは間違いないところだ。

学校と府教委は、「(大気汚染防止法による工場敷地境界基準の)10本/リットルを下回っているので問題ないと考えて、通常通りの学校運営を続けた」と説明し、校内のクリーニング作業を行っていない。
そのためだろう、12月21日に実施した測定でも、石綿を各所で検出している(下図)。

大阪府立金岡高等学校アスベスト室内空気環境測定結果(2012年11月17日と12月21日測定)

11月17日の測定で、問題を提起した測定業者は偏光顕微鏡による石綿種類の同定をおこない、検出した石綿はすべてが青石綿であったと指摘した。

府教委の12/26配付資料(上図)には「※検出されたアスベストはすべて青石綿でした」とあるので、12月21日の測定でも「そうであったのか」と担当者に質問したところ、12月21日に府教委が別の業者に行わせた測定では偏光顕微鏡による同定は行っていない、との回答だった。
この件への対処がどうなっているのかは、いまのところわかっていない。
いずれにしても、今も金岡高校の「青石綿汚染状態」はそのままにされている。

石綿 校内に拡散
堺・金岡高 30メートル離れた棟で検出

堺市北区の大阪府立金岡高校で、毒性の高いアスベスト「青石綿」を露出させたまま校舎を補修工事していた問題で、工事現場の普通教室棟から約30メートル離れた特別教室棟でも、青石綿が検出されていたことが分かった。専門家は、石綿が校内に拡散したことを示すとみている。青石綿は、多用された白石綿より中皮腫を発症させやすく、各国が最も早期に使用を禁止した。

被害者支援団体「関西労働者安全センター」が、石綿の空気中濃度の測定結果の詳細な報告書について、府教委から開示を受けた。

報告書などによると、専門業者が先月17日に校舎内20カ所で測定し、普通教室棟から北へ28メートル離れた特別教室棟の2階と3階の2カ所でも、空気1認当たり0.11本の青石綿を検出した。業者は、4階渡り廊下のエレベーター前や工事の足場周辺での青石綿の散乱を目視で確認したとも、口頭や文書で報告していた。

工事は普通教室棟東側の外壁の補修と塗り替えで、今年10月下旬から開始。学校の説明では、工事場所の窓は閉め切ったが、他の部屋や建物では対応していなかった。
測定結果全体では12カ所で青石綿を検出し、最も高かったのは普通教室棟4階の同0・9本だった。大気汚染防止法では、工場敷地境界での空気中濃度を同10本以下と定めている。しかし業者は、測定日が土曜日で人の出入りが少ないうえ雨天だったため、数値が低くなったと思われると報告しており、工事作業時にはより高濃度だった可能性を指摘していた。

環境省アスベスト大気濃度調査検討会の小坂浩委員は「世界保健機関(WHO)の公式見解では、石綿を吸い込んでも問題のない濃度レベルは確認されていない。可能な限り低い方がよい学校での出来事でもあり、工事中の濃度の推定は難しいが情報を集めて検証し、再発を防ぐべきだ」と指摘している。
【大島秀利】

毎日新聞夕刊(大阪本社) 2012年12月20日

問題は国にも、現場にも

主要な問題点の一つは『「(大気汚染防止法による工場敷地境界基準の)10本/リットル」を下回っていることをもって「安全」と言っていいのか』という点だ。

結論的には、安全だとするのは、誤りだということになるが、府教委、学校、工事業者は、「基準はそれしかない」「環境省が決めた数値だ」というばかりで、中味の議論をしようとすらしない。
冒頭紹介しした、石綿専門委でもこの点の議論がされている。

議事録を引用しよう。

「・・・敷地境界領域をリッター当たり10本に決めた委員の立場として言いますと、リスクアセスメントはしたのです、そのときに我々は。そのときには混合曝露のデータしかなかったわけです。だけど、その時点ではアモサイトはいずれ使わなくなるという情報を、業界がそういうふうに明言していまして、クリソタイルだけの曝露だということで考えましょうということで、最終的にWHOもリッター当たり10本という当時の案があったので、とりあえずこれでいきましょうと。実際の住民の方は、境界敷地よりもさらに離れているから、さらにそれで減衰するであろうということで決めたわけでありますので、それを、アモサイトとかクロシドライトも吹き付けてある、それの撤去の際の基準に用いるというのは、そもそもその考え方が適用できないものだというふうにして考えてほしいのです。・・・」(森永謙二委員:下線筆者)

中央環境審議会大気環境部会石綿飛散防止専門委員会(第4回)会議録 2012年8月27日

子供が生活する教室内の基準として「10本/リットル」を使うのが誤りであることは、明かだ。
12/26にこの資料を府教委に示した。

しかし、いまだに府教委は「基準はそれしかない」「わたしらにはわからない」と言うばかり。環境基準を決めない環境省の怠慢は当然だが、現場をあずかる府教委のこのような姿勢には呆れるしかない。

府教委は、工事業者、測定業者の聴き取り調査などを進めている模様だ。それを踏まえて、第3回の保護者説明会を行おうとしている。

事前調査は誰がどのように行い、どのような判断がされたのか? 
工事過程の詳細は?
軒下の吹き付け石綿に気がつかなかったのは、なぜなのか?本当なのか?
事後の問題点は正されるのか?

様々な観点からの検証が必要だ。

また、金岡高校で毎年行われてきた定期のアスベスト気中濃度測定について、測定方法が業務委託仕様通りに行われていなかったのではないかという問題も浮上してきた。
飛散事故の当事者である府教委による調査だけでは、本当の検証作業にはならないことは明白だ。第三者によるオープンな検証作業が必須といえる。
今後の府教委、学校の対応を注視することはもちろんだが、同時に、他のところでも金岡高校のような杜撰な飛散事件が発覚しているし(綾瀬小学校事件など)、民間の解体工事がどんどん行われている状況に対処するためにも、国レベルの抜本的な対策を講じることが急務だ。

アスベストの事前調査なしに小学校解体(上)~飛散事故で児童ら曝露か(井部正之)

現在(2020年10月24日)アクセス可能な大阪府、金岡高校サイトの関連ページ

金岡高校石綿問題が発生して以降の動きや資料について、次の、大阪府教育委員会や金岡高校のサイトにそれぞれの関係資料が掲載されている。

大阪府 金岡高校アスベスト関連

金岡高校 アスベスト記事まとめ

関西労災職業病2013年1月429号