急増するテレワークと労働環境-在宅勤務の労働条件確保が課題

テレワーク促進政府目標、新型コロナ対策ですんなり達成?!

新型コロナウイルス感染症対策で、在宅勤務が普及している。自宅に限らず職場以外であっても職場と同じように仕事を進めることができ、かえって通勤時間が節約できる分、効率的な働き方ができるなどと、その効用がマスコミで取り上げられることが多くなった。

そもそも在宅勤務に、出張時の移動中などに公共交通機関内やカフェなどで仕事をするモバイル勤務、共同のワークスペースなどで仕事をするサテライトオフィス勤務を含めて、「ICT(情報通信技術)を活用し、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方」として「テレワーク」と呼ぶことにしたのは、2017年の閣議決定「働き方改革実行計画」だ。以降、政府は折にふれこのテレワークの普及、促進のための施策を進めてきた。昨年6月に閣議決定された「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」においても、テレワーク導入企業を令和2年までに平成24年度比で3倍、雇用型テレワーカーの割合を令和2年までに平成28年度比で倍増という政府目標を提示した。

この政府目標は、新型コロナウイルス感染症対策により緊急事態宣言が発令された後の今年5月末時点になると、企業のテレワーク実施率が平成24年度の11.5%が67.3%に跳ね上がるなど、予想外にすんなりと達成されることになった。

テレワークガイドラインは労働基準の適用が基本

テレワークの普及促進が政府の方針となった翌2018年2月22日に、厚生労働省は「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」を策定、公表している。

ガイドラインは、テレワークに多くの利点がある一方で、労働時間の管理が難しい、仕事と仕事以外の切り分けが難しい、長時間労働になりやすい等の問題があることを指摘している。そしてテレワークにおける適切な労務管理の実施は、テレワークの普及の前提となる重要な要素であるとして、その留意すべき点として労働基準関係法令の適用を明記、その留意点を明らかにした。

使用者の直接の支配管理下にはなくとも、労働基準法上の労働者であれば労働基準法が適用されるのは当然だ。

労働時間制度の適用については、労働時間の適正な把握が求められることは当然だ。在宅勤務のテレワークでは、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じやすい。こうした中抜け時間については、休憩時間として扱い、その時間を記録するなどの取扱いが考えられ、また、その時間を休憩時間ではなく時間単位の有給休暇として取扱うことも考えられるとする。

また出張中の移動時間におけるテレワーク、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制適用の場合の労働基準法適用について明確にしている。

テレワークで、事業場外みなし労働時間制が認められる「使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難である」状態については、①情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと、②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないことの2つの要件を満たすものでなければならないとし、その内容を具体的に例示した。

テレワークでは労働者が使用者と離れた場所で勤務するために相対的に使用者の管理の程度が弱くなる等により長時間労働を招くおそれがあることが指摘されている。長時間労働を防ぐ手法として、

  • メール送付の抑制
  • システムへのアクセス制限
  • テレワークを行う際の時間外・休日・深夜労働の原則禁止等
  • 長時間労働等を行う労働者への注意喚起

の4つをあげる。

とくに③では、業務の効率化やワークライフバランスの実現の観点から制度導入をした場合、労働者に趣旨を理解させると同時に、テレワークを行う労働者に対する時間外・休日・深夜労働の原則禁止や使用者等による許可制とすること等を、就業規則等に明記しておくことや、時間外・休日労働に関する三六協定の締結の仕方を工夫することが有効とする。

もちろんテレワークによる時間外勤務や深夜勤務についても、割増賃金の支払い義務が生じることは当然で、厚生労働省のガイドライン紹介パンフレットでも、規定例が紹介されている。

テレワークの作業環境ー「事務所則」準拠はあくまで助言

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労働安全衛生法関係の規制では、在宅勤務の作業環境であっても事務所衛生基準規則(事務所則)の適用や、昨年改定された「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」で示されている基準と同等の作業環境となるよう労働者に助言を行うことが望ましいとする。

事務所衛生基準規則の基準の代表的なものでは、部屋について設備の占める容積を除いて10立方メートル以上の空間があること、机上は照度300ルクス以上、気流は0.5m/s以下で直接、継続してあたらず室温17℃~28℃、相対湿度40%~70%などとなる。

基準を満たさないときは、労働安全衛生法上事業者に措置をする義務があるが、在宅の勤務場所は個人の所有物であるため、助言とならざるを得ないということになる。

労働基準が試される~厚労省の新たな検討会の議論

さて、テレワークは新型コロナウイルス感染症対策で一気に普及することとなり、このガイドラインの対象となる企業や労働者の数は飛躍的に増えた。そのため厚生労働省では新たに「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」を設置、8月17日に第1回の会合を持った。この検討会で「労働者が安心して働くことのできる形で良質なテレワークを進めていくことができるよう、適切な労務管理を含め、必要な環境整備に向けた検討」を進めるとしている。

第1回検討会の参考資料「テレワークを巡る現状について」で紹介されている昨年6月21日閣議決定の「規制改革実施計画」の「テレワークの促進」では、現行ガイドラインの見直し検討課題の一つが示されている。

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「長時間労働対策として示されている手法において、所定労働時間内の労働を深夜に行うことまで原則禁止と誤解を与えかねない表現を見直す。」とされ、「令和2年度措置」となっている。

ガイドラインは労働基準法の深夜労働禁止という原則と、やむを得ない深夜勤務を許可制にするというしごく当然の法令解釈について、何か問題があるかのような記述となっている。深夜のテレワークのための例外に道を開くような特別な法令解釈とならないよう、今後の議論に注目が必要といえるだろう。

また最近の各分野の政府の施策のなかで、テレワークがとりあげられ、その促進策が急速に進められつつあり、これからは事業場規模や業種に関わらず拡大していくことが予想される。労働条件や安全衛生対策の側から十分なチェックを同時進行で進めていく必要があるだろう。(西野方庸)

関西労災職業病2020年8月513号