在宅の職場環境も安全衛生法令並みにー新型コロナ対策でテレワークガイドライン改正
新型コロナウイルス感染症対策が問題となって以来、「テレワーク」という言葉が一気に普通名詞として存在感を増している。テレワークとは、仕事を労働者の自宅で行う在宅勤務、所属する事業所外に設けられたオフィスを利用するサテライトオフィス勤務、ノートパソコンや携帯電話等を活用して臨機応変に選択した場所で行うモバイル勤務の3つに分類される。
「つながらない権利」をはっきりと
たとえばこの報告書では、フランスでは2016年に、労使交渉においていわゆる「つながらない権利」を労働者が行使する方法を交渉することとする立法がなされ、「つながらない権利」を定める協定の締結が進んでいることが紹介されている。働く時間や場所を有効に活用でき、育児等がしやすい利点がある反面、生活と仕事の時間の区切りが難しいという特性に対し、一定のルールを設けることが有効とする。連絡しない時間を作ることや、時間外の業務連絡メールへの返信は翌日とするなどの方法が例示されている。
こうした検討会の報告をもとに、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」がこの3月25日に公表された。
改正の主なポイントは次のとおり。
- 労務管理全般についての記載の追加。
- 正規雇用、非正規雇用といった雇用形態の違いのみを理由にテレワーク対象者から除外することのないよう留意が必要と記載。
- 書類のペーパーレス化の実施等を記載。
- 労働時間の把握について、原則的な方法としてパソコンの使用時間の記録等の客観的な記録による場合の対応方法や、労働者の自己申告による把握を行う場合の対応方法を記載。
- 時間外・休日・所定外深夜労働の取扱いについて記載。
- メンタルヘルス対策や作業環境整備等に当たって事業者・労働者が活用できる分かりやすいチェックリストを作成。
在宅の作業環境改善も事業者負担で
テレワークにおける安全衛生の確保については、まず安全衛生関係法令の適用について、「自宅等においてテレワークを実施する場合においても、事業者は、これら関係法令等に基づき、労働者の安全と健康の確保のための措置を講ずる必要がある。」とまず法令上の原則を示す。
具体的には雇入れ時やテレワークを初めて行わせるときなどの作業内容変更時は安全衛生教育の実施が必要であるし、健康相談を行う体制、健康診断、過重労働防止のための長時間労働者に対する医師による面接指導など、法令上の事業者に対する義務規定がある。
テレワークを行う場所が自宅である場合、その作業環境は事業者の権限が及ばないため、事務所衛生基準規則や労働安全衛生規則及び「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が、一般には適用されることはない。しかしこれらの衛生基準と同等の作業環境となるよう、事業者はテレワークを行う労働者に教育、助言等を行うことを求める。そのために「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」(後掲)を作成した。チェックリストを活用し、作業環境に関する状況の報告を求めるとともに、必要な場合には、労使が協力して改善を図ること又は自宅以外の良好な環境の場所の活用を検討することが重要としている。
そして、このような取り組みが継続的に実施されていること及び自宅等の作業環境が適切に維持されていることをチェックリスト(後掲)を活用する等により定期的に確認することが望ましいとした。
自宅の作業環境を安全衛生対策上、好ましいものとするために、必要となる器具等がある場合には、事業者がその費用を負担することは、法令上の事業者の義務としての趣旨からすると当然のこととなるが、労使の協力の際には当然の前提となる。
またテレワークにおける労災補償についても言及している。
まず、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となるという原則を示す。そのうえで、使用者は、情報通信機器の使用状況などの客観的な記録や労働者から申告された時間の記録を適切に保存するとともに、労働者が負傷した場合の災害発生状況等について、使用者や医療機関等が正確に把握できるよう、当該状況等を可能な限り記録しておくことを労働者に対して周知することが望ましいとする。
必要な事業者責任の強調
うまくテレワークという働き方を活用すれば、職種によってはとても効率的でワークライフバランスも保てる働き方ができるだろう。しかし一方で、仕事と私的な時間が混同され、場合によっては事業者側の都合のみならず、労働者自らの都合によって深夜労働が繰り返されたり、超長時間労働になってしまうこともありそうだ。そのためには、働く場所に関わらず、労働安全衛生法令における事業者責任を強調する必要があるといえる。その意味でも、このガイドラインとチェックリストの活用を進めていく必要があるだろう。
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関西労災職業病2021年5月521号